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環境NGOによる3メガバンクへの気候リスク対応強化を求める株主提案は、ほぼ4分の1の「賛成票」を獲得。「コーポレートガバナンスコード」想定の「相当数の賛成票」に該当(RIEF)

2024-07-13 23:46:38

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    環境NGOの気候ネットワークなどの3非営利団体は、3メガバンクと、JERAの経営に関与する中部電力の4社に対して、今年の株主総会で提案した株主提案の詳細を公表した。提案はいずれも株主総会で否決されたが、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)に提出した「気候リスク・機会の効率的な管理のための取締役の能力」を問う株主提案への賛成率が26.34%と最も高く、他のメガバンクへの同様の提案も、ほぼ同様に4分の1の賛成率だった。コーポレートガバナンスコードが「相当数の反対票(賛成票)があった時は企業は分析と対応を行う」とする水準に相当するとみられる。

 

 今回の株主総会でメガバンクに気候関連の株主提案を提出したのは、気候ネットワークのほか、米環境NGOの「レイン・フォレスト・ネットワーク(RAN)」日本支部と、豪環境NGOのマーケットフォースの3団体。https://rief-jp.org/ct7/146708?ctid=67

 

 メガバンク3社への提案内容は、企業の取締役会が気候関連事業リスク及び機会の適切な管理・監督を行う上で必要な能力あるいは人材を備えているかを求める提案(議案1)と、化石燃料セクターの顧客の移行計画とパリ協定1.5℃目標との整合性について、各行がどのように評価を行うか、当該セクター顧客がパリ協定に沿った信頼性の高い移行計画を作成しなかった場合、新規資金の制限を含む、対応措置をどのようにとるのかという点での開示を求める提案(議案2)を提出した。メガバンク各社および中部電力への株主提案に対する賛成率(推計)は以下の通り。

 

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 これらのデータから、議案1に対しては、いずれの提案も株主の4分の1の賛同を得たことがわかる。議案2については、SMBCでは24.21%と、議案1同様の高水準だったが、三菱UFJフィナンシャル・グループは18.38%で、20%以下だった。みずほフィナンシャルグループは前2社の中間的な評価だった。

 

 いずれの株主提案も、3メガバンクの株主総会で否決されたものの、コーポレートガバナンスコードでは「原則1-1.株主の権利の確保」での補充原則として、「取締役会は、株主総会において可決には至ったものの相当数の反対票が投じられた会社提案議案があったと認めるときは、反対の理由や反対票が多くなった原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである」としている。これを「株主提案」に置き換えると、「相当数の賛成票が投じられた株主提案については、その原因の分析を行い、株主との対話その他の対応の要否について検討を行うべきである」となる。https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jdy-att/nlsgeu000005lnul.pdf

 

2015年のパリ協定以降の化石燃料関連投融資の多い金融機関ランキング。3メガバンクはそろってランクイン
2015年のパリ協定以降の化石燃料関連投融資の多い金融機関ランキング。3メガバンクはそろってランクイン。MUFGは日本勢トップの総合4位。

 

 株主提案に対する「相当数の賛成票」の解釈は、個々の企業によっても、あるいは株主によっても異なるテーマだ。日本がモデルとした英国のコーポレートガバナンスコードでも「株主総会の結果を発表する際に、相当数 (a significant proportion)の反対票が生じていたと取締役会が考える時には、反対票の理由を理解するための方策を企業側は説明すべきだ」としている。

 

 英国の場合、コードの指摘を受けて、民間の英国投資協会(The Investment Association)が2017年12 月に、株主総会議案に多くの反対票(株主提案への賛成票)があった企業に対して、「20%以上の反対票(賛成票)があった場合、企業は、反対(賛成)の状況についての追加的な情報や対応を(ウェブサイトで)公表する」としている。https://www.theia.org/public-register

 

 この規定を日本に置き換えれば、今回の3メガバンクの気候対応を求めるNGOの提案への「4分の1の賛成票」に対しては、グローバル視点を持つ金融機関であれば、その重みを真摯に受け止め、自らの気候対策とともに、気候担当の取締役には同分野での専門性と力量のある人材の登用を常態化する、といった先取り型の取り組みが求められる。https://www.theia.org/public-register

 

2023年の単年ベースの化石燃料関連融資ランキングでも、3メガバンクは“健闘中”。
2023年の単年ベースの化石燃料関連融資ランキングでも、3メガバンクはそろってランクイン。みずほは2位に“躍進”。

 

  メガバンクへの株主提案の結果についてマーケット・フォース 日本エネルギー金融キャンペーナーの渡辺瑛莉氏は、「昨年の提案に比べて賛成率が大きく伸びたメガバンクへの株主提案は、世界の投資家から、各行の取締役・経営陣に対する気候関連のリスク管理を強化するよう求める強いシグナルと言える。日本のメガバンクが、気候科学に反してLNGなどの化石燃料拡大への支援を増額し、実効性ある抑制方針をいまだに示さないことは、世界の中で大きく遅れを取っており、投資家の財務リスクを適切に管理できていないと見なされている」と指摘している。

 

 気候ネットワークのプログラム・コーディネーター、鈴木康子氏は、「金融機関は気候変動対策を進める上で重要な役割を担っている。自らのコミットメントを果たし、顧客の脱炭素戦略を支援していくためには、科学的根拠に基づいて顧客の脱炭素化計画が信頼できるものかを判断し、適格な評価を行う必要がある。そのためには気候コンピテンシーが不可欠。25%を超える賛成票は、世界の投資家も取締役に気候コンピテンシーを求めていることが示されたと言える」と述べている。

 

 レインフォレスト・アクション・ネットワーク 日本シニア・アドバイザーの川上豊幸氏は、「メガバンクには、今回の株主提案で投資家から有意な数の賛同があったことを真摯に受け止め、顧客企業の移行計画が1.5度目標に沿っているかどうかを評価する体制と、気候危機に対応できる取締役の管理体制の強化が求められる。メガバンク3社はネットゼロを約束しているが、化石燃料企業への資金提供を継続し、特にLNGセクターでは世界の銀行でも1,2を争う金額を、みずほとMUFGは2023年に提供し、信頼できる移行計画を持たない北米の企業にも巨額の資金提供を行っている。これは融資先企業の移行計画への対応状況の評価体制が不十分で、かつ、取締役会としての管理・監督機能も働いていないことを示しているといえる」としている。

https://kikonet.org/content/35796

https://japan.ran.org/?p=2319