三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がカリフォルニア湾のLNG輸出ターミナル事業の「アドバイザー」。環境法律団体が「銀行の法的、財務的、風評リスク高める」と公開書簡(RIEF)
2025-07-09 16:32:05
(写真は、太平洋に面したカリフォルニア湾からLNGをアジアへ輸出を目指す「Mexico Pacific」社の天然ガス設備=同社サイトから引用)
トランプ米政権の化石燃料エネルギー回帰政策の象徴でもある米国産の大規模な液化天然ガス(LNG)輸出ターミナルプロジェクトで、三菱UFJフィナンシャルグループ(MUFG)がファイナンシャル・アドバイザー(FA)を務めていることに対して、国際的な環境法律団体のクライアント・アース(ClientEarth)と環境アドボカシー団体のNRDC(自然資源保護協議会)が、MUFGに公開書簡を送った。同事業により、世界的な豊かさを誇る海洋生物多様性が毀損されるリスクがあり、そうした事業にMUFGが参加することは、自らの銀行を「深刻な法的、財務的、そして風評リスクにさらす可能性がある」と警告している。
MUFGがFAを務めるLNG開発の「サグアロ・エネルギアLNGターミナル」計画は、太平洋に面したカリフォルニア湾に建設を計画中で、米国産天然ガスをアジア市場に輸出する事業。同プロジェクトは、メキシコのエネギー・パシフィック社が開発を進めており、MUFG、JPモルガン・チェース、サンタンデール銀行が助言(FA)を行っているとされる。両団体は、JPモルガン・チェースにも警告書を送付した。
同事業の開発候補地一帯は、海洋生物多様性の豊かさと多様性で知られ、「世界の水族館」と形容されるカリフォルニア湾を含む。ユネスコや海洋学者らは、ターミナルが実現すると、同地域を通過するタンカー等の大型船の航行増加によって、同海域で生息する絶滅危惧種のシロナガスクジラとナガスクジラ、そしてアシカなどの脆弱な海洋生物に悪影響を及ぼす可能性があると警告している。
すでに同プロジェクトに対しては、計画によって悪影響を受ける地域住民やメキシコの住民らによる差し止め請求訴訟により、裁判からの差し止め命令が出ている。公開書簡によると、それに加えて、プロジェクトのコスト超過、経営陣の不安定さ、許認可の不備、さらに変動するLNG市場環境により、同プロジェクトは財務的に採算が取れず、将来の収益を生み出す前に座礁資産となる危険性があると、指摘しているという。
実際に、プロジェクトの主要投資家であったクオンタム・キャピタルは、今年初めに投資を引き揚げている。ClientEarth USAの弁護士ハナ・ハイネケン(Hana Heineken)氏は「MUFGは今、この脆弱な生息地を、大型タンカーが通過するLNG輸出ターミナル事業に変貌させる事業を支援している。このことが、MUFGのサステナビリティ方針と、どのように整合するのか、また、すでに危機に瀕している世界遺産を脅かすプロジェクトを支援することによる、自らの法的リスクと評判リスクをどのように正当化できるのか、全く理解できない」と述べている。
またNRDCの上級弁護士のジョエル・レイノルズ(Joel Reynolds)氏も「この大規模LNGプロジェクトは、地球上で最も美しい自然を守るか、それとも地球を破壊している化石燃料の生産・輸送のための産業犠牲地帯とするかという、存亡をかけた選択を迫るものだ。メキシコのパートナーと共に、NRDCとその300万人の会員および活動家は、自然を選ぶ」と強調している。
両団体の書簡は、MUFGのCEOの亀澤宏規氏宛に送られた。その内容によると、MUFGが同事業へのFAを務めていることは、同社内の環境・人権方針、赤道原則、そして責任ある企業行動に関する国際基準に違反するリスクがあると警告している。また、MUFGがFAに続いて、同プロジェクトへの融資を進めた場合、内外の環境団体や市民団体等から法的請求を受ける可能性があることの警告も含まれている。
書簡が示す「MUFGの主な懸念事項」は次の通り:
①MUFGの方針や赤道原則・ビジネスと人権に関する指導原則などを含む国際基準へのコミットメントを違反する可能性。
②グリーンウォッシュや投資家への誤解を招く行為により、日本および米国の法律に基づき法的責任を問われる可能性。
③裁判所の差し止め命令によるプロジェクトの大幅な遅延。
④法的不確実性、国民の反対の高まり、そして気候・生物多様性目標との長期的な不整合により、高い座礁資産リスクの存在。
書簡を受け取ったMUFGの担当者は、両団体に対して、「MUFGは、MUFG環境社会ポリシーフレームワークおよび『赤道原則』に基づき、環境・社会リスク評価を実施しています。これらは、顧客との取引において環境・社会への影響を考慮するための枠組みです。(中略)環境・社会リスクが特定された場合は、顧客と回避、予防、緩和策を確認し、プロジェクトへの融資後も、これらのリスクが顕在化していないかどうかを継続的に監視します」との概要の返事を送ってきたとしている。
同ターミナルは建設・稼働した場合、毎年570万㌧のCO2を排出し、ライフサイクル全体では自動車1740万台に相当する同排出量となる。これにより、メキシコは世界第4位のLNG輸出国となる。開発されるLNGは日本向けではなく、アジアで石炭火力発電に代替するガス火力発電用に輸出される見通し。
ユネスコ世界遺産委員会は、2025年2月にサグアロエネルギア・プロジェクトに関する第三者の懸念をメキシコ政府に伝えている。7月6日に始まった同委員会の会議(16日まで)ではカリフォルニア湾に関する決定案についての投票が予定されている。同委員会はメキシコ政府に対し、同化石燃料プロジェクトに関する不可逆的な決定を下す前に、完全な環境社会影響評価(ESIA)を実施し、詳細なプロジェクト情報を提出するよう勧告している。
同委員会は、生物多様性の喪失、違法漁業、そしてコガシラネズミイルカの急激な減少により、2019年以来、カリフォルニア湾を「危機に瀕している」地域に指定している。コガシラネズミイルカは世界で最も絶滅の危機に瀕している海洋哺乳類であり、地球上で最小の鯨類だ。カリフォルニア湾以外では生息しておらず、国際自然保護連合(IUCN)による「深刻な危機」「CR(Critically Endangered)」に指定されている。最近の調査では、生存個体数はわずか6~8頭とされる。カリフォルニア湾北部周辺での違法漁業と保護措置の不十分な施行は、この種の絶滅に拍車をかけている、とされている。
(藤井良広)
https://whc.unesco.org/document/221206

































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