日本の木質バイオマス発電で、米国南部の森林地帯が皆伐破壊され、木質ペレット製造工場の違法操業で周辺住民が健康被害。米NGOらが来日して日本政府や日本の電力消費者らに訴え(RIEF)
2025-10-04 22:42:18
(写真は、米国ミシシッピ州の森林皆伐現場。生態系も一気に破壊する=地球・人間環境フォーラムの提供)
「日本の環境政策の影響で米国が大変な状況に陥っている」――米国のNGO幹部が9月下旬に来日し、日本がバイオマス発電用に米国から輸入している木質ペレットの生産活動等の影響で、米国の森林やコミュニティが破壊されている、と訴えた。この数年で、日本国内の木質バイオマス発電に使われる木質ペレットの輸入が急増。その輸入の約2割が米国産だ。同発電は経済産業省の固定価格買取制度(FIT)の対象となっているが、来日した南部環境法律センターの弁護士ヘザー・ヒラカー(Heather Hillaker)氏は「木質バイオマス発電は再生可能エネルギーではない」と指摘している。
来日したのは、ヒラカー氏のほか、アラバマ州などでペレット工場建設の反対運動に携わるポーシャ・シェパード(Portia Shepherd)氏、英国や米国で活動する環境NGO「Biofuelwatch」の共同ディレクターのゲイリー・ヒューズ(Gary Hughes)氏。このほど環境金融研究機構の取材に応じたほか、東京でセミナーや記者会見も開き、国会議員や経済産業省や林野庁の担当部局等に、米国の現状を訴えた。

3人によると、ミシシッピ州など米国南東部に木質ペレットの生産工場が立地し、同地周辺の豊かな森林が伐採され、木質ペレットの製造に充当されているという。こうした開発の進行で、南東部の豊かな森林は、その生物多様性の損失のリスクに直面、絶滅が危惧される種も少なくないという。さらに、工場の操業による大気汚染や粉塵公害も起きて、地域住民を悩ましている。
同地で製造された木質ペレットは米国内での使用ではなく、大半が輸出に回されている。輸出先は英国や日本だ。実際に、日本の木質ペレットの輸入量は急増している。林野庁によると、2024年の木質ペレットの輸入量は638万㌧で、20年の202万㌧の3倍に増大している。638万㌧の輸入量のうち米国産は約2割の118万㌧。日本では2012年に始まったFITによってバイオマス発電が急増してきた。3人を招いた「一般財団法人地球・人間環境フォーラム」によると、同発電燃料の7割が輸入バイオマスとされ、そのうちの多くが輸入木質ペレットで占められているという。

記者会見や、来日セミナーでの3人の現状報告で、ヒラカー氏は、ペレット工場による周辺住民への環境被害について、工場の800㍍圏内の世帯の91%が少なくとも週に1回、粉塵や騒音の公害にあっているという調査結果を明らかにした。粉塵は呼吸器系の疾患の原因となり、67%の住民が毎日のように粉塵にさらされていると指摘した。
米国の法制度では、ペレット工場は汚染防止装置を導入することが義務付けられている。ただ、同措置の導入については、企業自体の排出予測に基づいて工場操業の許可が出される仕組みのため、排出予測を少なく見積もる違反が横行したまま、何年も見過ごされるケースが少なくないという。ヒラカー氏は「ペレット産業は、汚染レベルを過小評価する傾向がある」と指摘する。州などが工場を調べて罰金を科しても、その後、排出予測を少なく見積もった新たな違反が発覚するなど「いたちごっこ」の様相となり、市民や環境団体が繰り返し調査して、告発するのが現状という。
シェパード氏も「周辺の住民は、工場からの粉塵で、自分の家の庭でバーべキューもできない状態だ」と言いながら、「(木質ペレットを生産する企業は)日本の市場を頼りにしている。日本が買わなければ操業しない。みなさんは我々のコミュニティを守る力を持っている」と述べ、日本の電力消費者にも理解を求めた。日本の消費者が「汚染防止装置を導入していない工場からの木質ペレットで発電したバイオマス発電電力は買わない」と要求すれば、米企業の取り組みは改善する可能性があるという。

ヒューズ氏は、カリフォルニア州でも木質ペレット工場の進出や森林伐採計画があったことを紹介し、これを反対運動によって事業放棄に追い込んだ経験を語った。また、ワシントン州でも現在、輸出を前提としたペレット工場建設計画が進んでおり、警戒を強めているという。
経産省や林野庁は木質バイオマスを利用したバイオマス発電は、カーボンニュートラルとの立場で、これまで導入促進策を進めてきた。樹木は光合成によって大気からCO2を吸収して固定する。したがって、燃料として燃やしても、それまでのCO2固定量を評価してカーボンニュートラル発電と看做せるとの論理だ。発電時にはCO2が放出されるが、跡地を再び植林することでCO2吸収に資するという理屈だ。
ただ、樹木のCO2吸収は何十年にもわたって緩やかに吸収するが、バイオマス発電では一気に大量のペレットを燃やすため、CO2吸収量と排出量とは均衡せず、大幅な排出増になっているとの見方もある。さらに、国内の木質ペレットの製造では主に未利用の間伐材などを想定しているが、米国等では森林全体を皆伐する方法で、生物多様性も一気に破壊してしまう。その回復に植林をしても、同様の森林に戻すまでに、何十年もの時間が必要になる。こうしたことから、バイオマス発電は、持続可能ではないとの指摘が出ている。

ヒューズ氏らも木質バイオマス発電そのものが「再エネ発電」かどうかについて、懐疑的だ。ヒューズ氏は記者の取材に対し、「木質バイオマス産業は、CO2を減らすことができると宣伝してきたが、実際には、化石燃料よりも多くの温室効果ガスを排出している」と指摘する。地球・人間環境フォーラムによると、日本の産業技術総合研究所の研究者の調査でも「木質バイオマスの燃焼によるCO2排出量は石炭よりも多い」との結論が出ているという。このため同NGOは日本政府(経産省)や産業界に対し、木質バイオマス発電への支援をやめるよう求めているが、日本政府は一度認めた仕組みは変えるつもりはないようだ。
ヒラカー氏は「バイオマスがクリーンなエネルギーというのは『グリーンウォッシュ』だ。木は確かに切った後に再生できるが、米国では再植林を義務付ける法令はなく、再植林したとしても、経済性を考慮して、生育の早い単一樹種の植林を手掛けるケースが多く、生物多様性の再生にはつながらない。森林バイオマスが再エネとする日本政府や産業界の認識は、完全に誤っている」と訴えた。
経産省は今年2月、26年度から大型の木質バイオマス発電を買い取り制度の対象から外すことを決めた。ただ、対象除外の大規模バイオマス発電事業は、実際にはほとんど存在せず、実効性のない規制だとの批判がNGO等から出ている。
経産省のFIT適合の木質バイオマス発電所は、国内で244か所が稼働している。これらの既存発電所が、海外から大量の木質ペレットを輸入する構造を是正しない限り、米国をはじめ日本に木質ペレットを輸出する国々の森林は次々と伐採されている。このままでは、現地住民たちの「日本」に対する不満や不信感は、高まることはあっても、解消することはなさそうだ。
(加藤裕則)
https://www.gef.or.jp/news/event/250929woodpellet_usa/
https://www.selc.org/wp-content/uploads/2024/10/Biomass_Report_0924_F.pdf

































Research Institute for Environmental Finance