グローバルな石炭火力発電。1年間で30GWの増加。石炭を燃料とする石炭化学プロジェクトもアジアで拡大。「脱石炭」の流れが変質へ。独環境NGOの調査で判明(RIEF)
2025-10-23 01:54:26
ドイツの環境NGOのウルゲヴァルト( Urgewald)は、2025年版「グローバル石炭撤退リスト(GCEL)」を発表した。それによると、世界の石炭火力発電容量は過去1年間で30GW増加した。気候変動の加速化で、パリ協定の「1.5℃」目標は2030年以前に超える可能性が高まる中で、石炭火力発電の段階的廃止は進んでいない、と危機感を示している。新たな動きとして、新規の石炭化学プロジェクトの開発が各国で広がっているという。だが石炭を化学品製造に利用する場合、天然ガスや石油利用の場合よりもはるかに汚染が深刻になる。アンモニア製造にガスに代えて石炭を利用した場合のCO2排出量は3倍に跳ね上がると指摘。トランプ米政権がリードする「石炭回帰」の動きに懸念を示している。
ウルゲヴァルトの調査は、各国で活動する48のNGOと連携して実施した。GCELは世界の石炭火力バリューチェーンに関わる企業を網羅する最も包括的な公開データベースであり、1,516社の親会社と1,463社の子会社をカバーしている。現在、31カ国669の金融機関がGCELを活用し、石炭火力産業への融資の監視・制限等に活用しているとされる。
今回の調査で浮かび上がったのが、「石炭⇒天然ガス・再エネ」という化石燃料使用の移行が思うように進んでいない点だ。過去1年間で増加した石炭火力発電の発電量30GWは、ドイツの石炭火力発電全体を上回る純増となった。
2025年版GCELでは33カ国で事業を展開する303社の石炭火力発電企業を特定している。最大手は中国の中国能源投資で、54プロジェクト(総発電容量47,806MW)を開発・発電中としている。同社の開発中の発電総量はインドネシア全体の稼働中石炭火力発電所の総容量を上回る。そのインドネシアも、総容量16,386MWに及ぶ35の石炭火力発電計画を抱えている。同容量の58%は、特定産業施設向けの専有電力プロジェクトで占められる。
インドネシアの石炭火力計画のうち、大きな問題となっているが、スマトラ島の近海にあるリアウ諸島州レンパン島で計画中の「レンパン・エコシティ計画」だ。同プロジェクトは、マングローブに覆われたレンパン島に、2,500MWの石炭火力発電所を動力源とする中国企業のガラス・太陽光パネル製造施設を建設するものだ。インドネシア政府は同事業を「国家戦略プロジェクト」とし、レンパン島の住民7,500人が立ち退きを命じる暴挙に出ている。しかし、住民たちは抵抗運動を続けている。
日本ではJERAが石炭火力発電量12,036MWで国内最大の石炭火力企業となっている。次いでJパワーが10,157MW。国内3位は住友商事の5,172MW。その後に各電力会社が名を連ねている。

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もう一つの石炭利用拡大の懸念問題が、「石炭化学」プロジェクトの広がりだ。世界の主要産炭国数カ国を中心として、掘り出した石炭を原料にして石炭化学プラントを開発・拡大する動きがだ。今回の報告書では、世界中で47の新規石炭化学プロジェクトを特定した。これらすべてのプロジェクトが稼働した場合、年間少なくとも1億4500万㌧(Mt)の石炭を消費する見込になる。同プロジェクトを推進する企業の多くは、原料として使用する石炭量を公表しておらず、実際の石炭消費量はもっと多い可能性があるとしている。
石炭化学のプロセスでは、固体の石炭をまずガス化して、次の段階で、尿素、アンモニア、メタノール、オレフィンなどの液体または気体化学物質に変換する工程を経る。ウルゲヴァルトのディレクター、ヘファ・シューッキング(Heffa Schuecking)氏は「石炭をガスや化学物質の生産に使うことは、石炭利用では最も汚い行為だ。このプロセスは発電所で石炭を燃焼させるよりもはるかに多くの温室効果ガス(GHG)を排出する」と指摘している。
47件の石炭化学プロジェクトのうち、半数近い21件のプロジェクトは中国での事業計画だ。中国政府は電力部門での石炭使用を段階的に削減すると公約している。その一方で、石炭化学事業の成長を促進し続けている。2024年には、同国の石炭生産量の7%が石炭化学製品生産用に使われたとみられている。この割合は今後数年間で増加すると予測されている。

先にシューッキング氏が指摘したように、石炭を原料とする化学品製造は、天然ガスや石油を原料とするプロセスよりもはるかに汚染が深刻だ。例えばアンモニア製造におけるCO2排出量は、ガスからではなく石炭を原料とした場合、3倍に跳ね上がると試算される。石炭化学技術はまた、極めて多量の水を必要とする。
中国初の石炭化学プラントの一つである内モンゴル自治区の神華オルドス石炭化学プロジェクトの場合、グリーンピース東アジアの調査によれば、同施設では生産量1㌧当たり少なくとも10㌧の水を消費している。同プロジェクトによる地域からの大規模な取水は、元々、乾燥地域の同地において地下水位を急落させ、環境に永続的な損害を与え、地元農民や牧畜民の生計に壊滅的な打撃を与えた、とされている。こうした被害が出ているにもかかわらず、2008年に操業を開始した同工場は現在、拡張が計画されている。
中国で開発が進む新規石炭化学・石炭ガス化プロジェクトの大半は、少数民族への組織的な人権侵害が指摘される内モンゴルと新疆に立地している。 これらの省における石炭化学の拡大は石炭採掘の成長と密接に関連しており、土地と水資源を、その文化が土地と深く結びついた人々から奪っている。
中国複合企業TBEAは、このうち新疆で新たな石炭ガス化プロジェクトを計画中であり、露天掘り江軍格壁第2炭鉱の年間生産量を3000万㌧から8000万㌧に拡大する方針とされる。これが実現すれば世界最大の炭鉱になる見通しだ。同様に、中国能源集団(CHN Energy)が計画する準東石炭ガス化プラントは、新疆の紅沙泉鉱山複合施設に併設される。同社は紅沙泉鉱山の操業延長を求めており、認められると同鉱山は今後90年間操業可能になるという。
これらの石炭プラントで生成される合成ガスは、石炭火力発電所がガス火力発電所に置き換えられている中国東部都市へパイプラインで輸送される。これにより、石炭汚染は北京などの都市部から、少数民族人口の多い中国北部・西部地域へ移転されつつあるといえる。中国政府は最近、GHG排出量を7~10%削減する計画を発表したが、石炭化学プロジェクトの継続的な拡大はこれらの目標を危うくしている。
石炭化学プロジェクトは、中国に次いでインドでも14の新規プロジェクトが計画中だ。だが、石炭化学プロジェクトは財政的にリスクが高く、成功には通常政府の補助金が必要となる。このためインド政府は、石炭燃料を購入時に石炭の10%以上をガス化プロジェクトに使用する場合、50%の割引を提供している。
インド最大の炭鉱会社であるコール・インディアはすでに多数の石炭化学合弁事業に関与しているが、新たに政府支援を受けて事業展開の拡大を計画中という。インドネシア政府も石炭化学プロジェクトを工業化戦略の中核と位置付けている。同国では、すでに6つの石炭化学プロジェクトが計画中であり、政府は同プロジェクトでも、中国企業との連携を進めており、北研能源集団との開発を協議中としている。
このほか、石炭化学事業の計画は、カザフスタンで3件、ボツワナで2件、パキスタンで1件と、提案が広がっている。
GCELでは石炭鉱山開発業者について、世界全体で354社を特定している。これらの企業は35カ国に点在、既存の鉱山の段階的縮小よりも、新規炭鉱の開発または既存炭鉱の拡張を進めている。このうち、インドのコール・インディアは世界最大の一般炭生産者(2024年生産量7億2100万㌧)であるほか、90件の鉱山拡張計画を有する世界最大の一般炭鉱山開発企業とされる。
同社を含めたGCEL掲載企業の鉱山開発計画の総生産能力は年間28億6000万㌧に達し、これは現在の世界一般炭生産量の約32%に相当する。

米国は世界第4位の石炭生産国で、トランプ政権下で政府が石炭採掘拡大を積極的に推進している国の一つだ。トランプ政権は「エネルギー緊急事態」を宣言し、新規の石炭等の採掘事業での環境審査を迅速化するとともに、連邦の公有地での新規石炭採掘権を事業者に付与している。これらの鉱区から産出される石炭の多くは、平均稼働年数が半世紀に達する老朽化した国内石炭火力発電所向けの燃料として供給されている。
米環境保護庁(EPA)は、こうした旧式の老朽発電所の運営を支援するため、バイデン前政権下で導入された発電所からの汚染廃棄物規制のための石炭灰廃水排出基準の実施を遅延させるなどの緩和措置をとっている。しかし、同 石炭灰廃水にはヒ素や水銀などの重金属や毒素が含まれており、環境NGOらは、特に子供に深刻な健康被害をもたらすリスクがある、と警告している。
トランプ政権は「drill baby drill」政策により、新規炭鉱や鉱区拡張の許可を機械的に承認している。このままでは増産される石炭燃料は、米国内の火力発電所が消費できる量をはるかに超える石炭が生産される見込みだ。すでに、米国産石炭の4分の1は海外の途上国向けに輸出されている。例えば、モンタナ州のブルマウンテンズ(Bull mountains)炭鉱は、リース更新期限を逃したため閉鎖の危機に直面していが、トランプ政権によって新たなリース契約の認可を得て、生産量の98%を主に東アジアへ輸出する事業操業を継続しているとしている。
報告書は、世界の石炭産業の95%は、移行計画の体裁すら欠いていると指摘している。GCELに登録された1,516の親会社と1,463の子会社のうち、全石炭資産の段階的廃止期限を設定しているのはわずか160社だけ。このうちパリ協定に沿った廃止スケジュールを採用しているのは76社。しかし、これらの企業の半数以上の代替計画は石炭をガスやバイオマスに置き換える内容でしかない。
段階的廃止時期がパリ協定に沿っていない企業のうち、17社は依然として石炭火力発電や石炭採掘事業を拡大している。一例がインドのタタ・パワーだ。同社は昨年、2045年までに石炭を段階的に廃止すると発表した。これは非OECD諸国が最後の石炭火力発電所を閉鎖すべき時期から5年遅れる宣言だ。ところが2025年4月、タタ・パワーが少数株主子会社としている発電会社が、自社石炭火力発電所を1600MW拡張する工事を発表している。
報告書は、「石炭削減公約を撤回しているのは誰か?」として、石炭段階的廃止宣言を撤回した企業をリストアップしている。その中には、米国のタレン・エナジー社、ファースト・エナジー社、テネシー・バレー・オーソリティ、AESコーポレーション等が含まれる。カナダではサスカチュワン州政府が、連邦政府のパリ協定に沿った2030年石炭段階的廃止目標への順守を放棄すると発表した。
同州のレジャイナ大学経済学教授ブレット・ドルター( Brett Dolter)氏は「今、石炭火力発電所に投資するのは、ネットフリックスやその他のストリーミングサービスが主流の時代に、ブロックバスター・ビデオが新たにVHSレンタル店を建設することに注力するようなものだ。これはサスカチュワン州の料金支払者と納税者の金の無駄遣いだ」 とコメントしている。
金融機関が石炭融資制限方針を緩和したり、完全撤回する後退姿勢も広がりを見せている。2023年にカナダのモントリオール銀行と米バンク・オブ・アメリカが相次いで石炭融資制限を撤廃した。これによりバンク・オブ・アメリカは同融資を拡大し、2023年と2024年に米国最大の石炭融資銀行となった。
オーストラリアのビジョン・スーパーも2023年に公約を後退させ、その後石炭採掘大手ホワイトヘイブンの株式を220万㌦超を購入した。2024年3月には、シンガポールのDBS銀行が、もともと非常に緩かった石炭専業企業への融資除外基準を撤廃した。これらの銀行は、「トランプ以前」に「脱石炭」宣言を見直したことになる。
その後、欧州では、スペインのサンタンデール銀行が2025年7月に石炭政策を緩和した。同行の新政策では、石炭収益が25%超の新規顧客に対し、2030年までの石炭収益削減計画を厳格に要求せずに融資を可能とした。非営利シンクタンク、リクレーム・ファイナンスのシニア政策アナリスト、ヤン・ルーヴェル( Yann Louvel)氏は「こうした少数の悪質なプレイヤーを除けば、金融機関が石炭規制方針を後退させる事例は今のところ、ほぼ見られない。これは間違いなく朗報だ。しかし残念なことに、そもそも石炭政策を採択したことのない金融機関が依然として多数存在する。パリ協定から10年経った今、これは恥ずべき事態だ」と述べている。
(藤井良広)

































Research Institute for Environmental Finance