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新型コロナウイルスのグローバル感染で、今年のCO2排出量は前年比5%超の減少か。リーマン危機時を上回り、戦後最大の減少。「コロナ克服後」のCO2リバウンド阻止が課題に(RIEF)

2020-04-07 08:00:42

corona111キャプチャ

   新型コロナウイルス感染がグローバルに広がり続ける中で各地で経済活動の停滞・中断が進む結果、人類起源のCO2排出量が減少している。今年のCO2排出量は前年比で5%以上の削減になるとの推計も出た。2008年のリーマン危機時は1.4%減だったので、それを大きく上回り、第二次世界大戦後、最大の急減になりそうだ。しかし、コロナ危機を乗り越えると、この温暖化要因の急減は元に戻ると思われる。これを機に、低炭素・脱炭素化を推進すべきとの声も高まっている。

 CO2排出量「5%超削減」を推計したのは米気候イニシアティブのGlobal Carbon Project(GCP)。同議長のロブ・ジャクソン・スタンフォード大学教授によると、「5%超のCO2削減と言っても驚くべきことではない」と語る。コロナ感染が、世界で排出量第一位の中国で発生し、第二位の米国で患者数が最大になったことで米中の2大国の経済活動や人の移動がもっとも減速し、CO2排出にブレーキがかかっているためだ。

 これまでも3月には、ノルウェーのシンクタンク、Centre for International Climate Researchが、OECDのグローバルGDP成長率の推計を元に、CO2排出量の伸び率は0.3%~1.2%減となるとの推計を示している。また米カルフォルニア州のBreakthrough InstituteはJPモルガンの成長推計を元にして、0.5~2.2%減とし、下半期から回復に向かうと推計していた。

CO2をはじめ大気汚染物質が急減した中国(ESAサテライトの画像)
CO2をはじめ大気汚染物質が急減した中国(ESAサテライトの画像)

 GCPの推計がこれらより大きな減少の可能性を指摘しているのは、グローバルなコロナ感染が依然、ピークをつけておらず、特に米国を中心に拡大し続けていることが大きい。またアジア諸国では、いったん感染者が減った後、欧州からの帰国者等によって「感染第二波」の現象が起きていることも懸念を深めてさせている。

 ジャクソン教授は、戦後、大きな節目となった旧ソ連の崩壊、幾たびかの石油危機、あるいはリーマンショックや、米経済に打撃を与えた住宅貯蓄貸付組合(S&L)破たん等の、経済活動を大きく揺るがした事態のどれと比べても、今回のコロナ感染による経済への影響は大きい、としている。

 実際に中国や米国等でも、工場活動の縮小や自動車交通の減少等によって、CO2だけでなく、PM2.5、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)等の大気汚染物質の急減が観測され、「各地に青空が戻った」とのニュースも流れている。

 コロナ感染がピークをつけ、事態を正常に戻すことが、各国が今、最優先課題として取り組んでいることであり、いずれはその成果が実現するはずだ。そうなると、経済活動も人の移動も次第に元に戻る。実際に、英イーストアングリア大学の気候科学者 Corinne Le Quéré氏は「今回のCO2削減は構造的変化によるものではない。コロナ危機が終わると、CO2排出量は元のペースに戻る」と述べている。

COP26は来年に延期されたが、コロナ後の世界の結束の場になるか
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 過去の事例もそうした「汚染も回復」を裏付ける。リーマン危機後には、いったん減少したCO2排出量は5.1%増と急増した。危機を克服した後に従来型のリカバリー政策で、一気にCO2排出量が急増する懸念があるのだ。今回も、コロナ感染発生源の中国では、年明けから3月初めくらいまでは武漢・湖北省を中心に、人の移動や工場等での生産活動を厳しく制限したことで、CO2排出量は前年比25%減と大きく落ち込んだ。だが、その後、抑制に成功したとして、徐々に経済活動を再開しており、CO2排出量も回復しつつあるという。

 しかし、破滅的な温暖化の進行を阻止するために、パリ協定が示すもっとも野心的なゴールである「1.5℃」目標を実現するには、実は今回の5%超の削減でも不十分なのだ。国連の推計では、「1.5℃」目標達成のためには、今後、年平均7.6%のCO2排出量の減少が必要になるという。

 英気候経済学者のニコラス・スターン教授は「今回のコロナウイルス危機からの回復の機会をとらえて、経済成長を自然世界と調和をとり、より持続可能でレジリエンス(強靭な)経済へと向かわせる新しいアプローチを創り出すべきだ。われわれはこの機会を前向きに活用して取り組むべきだ」と訴えている。

 世界資源研究所(WRI)のDan Lashof氏も、「各国がコロナ対策で打ち出している経済支援・刺激策には、CO2排出増加を高めるような従来型の企業支援や政策を取り入れず、サステナブルな事業への支援を優先すべきだ」としている。

 今回のコロナ感染の影響で、温暖化対策にプラスになる動きもいくつか出ている。一つが、在宅勤務の広がりだ。オフィスワークの減少は、通勤緩和や交通渋滞減少によって、CO2排出量削減が期待できる。また航空機の利用やクルーズ船への需要の減少、さらには、コロナ対策で多くの市民が自らの健康管理の重要性についての意識を身に着けたことが、カーボン多消費型の生活パターンを変える可能性もある。

 コロナ感染からわれわれは何を学び、未来への教訓にできるのか。眼前の恐怖・脅威を見据えつつ、「コロナ後」にも備えた対応が求められている。

https://www.theguardian.com/environment/2020/mar/23/coronavirus-pandemic-leading-to-huge-drop-in-air-pollution

https://www.independent.co.uk/environment?CMP=ILC-refresh