HOME8.温暖化・気候変動 |グテレス国連事務総長、2021年に「グローバル・ネットゼロ・クラブ」設立へ。2050年と30年目標を両方満たせる国だけが入会可能。30年目標は45%削減。日本の「本気度」試される(RIEF) |

グテレス国連事務総長、2021年に「グローバル・ネットゼロ・クラブ」設立へ。2050年と30年目標を両方満たせる国だけが入会可能。30年目標は45%削減。日本の「本気度」試される(RIEF)

2020-12-09 08:07:02

guteresu001キャプチャ

 

 国連のアントニオ・グテレス事務総長は、米国で講演し、2021年に2050年カーボンニュートラルに向けて行動する国を集めた「グローバルネットゼロ・クラブ」の設立案を示した。パリ協定の「1.5℃」目標を実現するには、2050年のネットゼロとともに、2030年までに2010年のレベルから45%削減が必要。事務総長はこうした思い切った削減について、口先ではなく、実行する力のある国を選ぶ「クラブ」を設立し、各国の決意を問う考えだ。

 

写真は、講義の後、オンラインも使って学生たちと議論するグテレス事務総長)

 

 事務総長は先週、米ニューヨークのコロンビア大学でオンラインも併用した講義を開き、「State of the Planet(地球の現状)」と題したテーマで話した。その中で事務総長は「われわれは新型コロナウイルス感染に直面しているうえに、グローバルな気温のさらなる上昇、生態系劣化の新たな進展、持続可能な開発目標に向けた活動の後退等にも直面している。簡単に言えば、地球は壊れかかっている」と危機感をストレートに語った。

 

 「地球に対する人類の暴挙は、貧困削減とは逆行し、食料の安全性を阻害し、国連の平和構築の努力をより困難にしている。自然と平和的に共存することは21世紀の大事な仕事である。それはまさに、すべての人にとっての最優先の課題でなければならない」

 

 

コロンビア大学で講義するグテレス事務総長
コロンビア大学で講義するグテレス事務総長

 

 事務総長はこう指摘したうえで、国連の2021年の中心的課題として、カーボン・ニュートラルのための「真のグローバル連合」を築くことを提唱した。「2021年は、温暖化対策に向けての新たな飛躍の年になり得ると信じている。カーボン・ニュートルに飛躍する年だ」と強調した。

 

 すでに2050年ネットゼロを目標に掲げた政策を推進しているEUや英国に加えて、今年になって、中国、日本、韓国、南アフリカ、カナダ等の国々が、相次いでネットゼロ宣言をしたほか、バイデン次期米大統領も同様の目標を掲げる姿勢を示している。また、国以外の主要都市や企業等も2050年を見据えた公約をするところが増えている。事務総長は、こうした盛り上がりをとらえてグローバルな動きを行動に転換させる狙いがあるようだ。

 

 民間の推計によると、もし地球上のすべての国が2050年ネットゼロを実現すると、今世紀末の地球の気温上昇は2.1℃にとどまる可能性があるという。現在のところ、ネットゼロを表明あるいは考慮中としている国々は127カ国。排出量全体の63%にとどまっている。

 

オンライン会議で意見を交わす
オンライン会議で意見を交わす

 

 事務総長の「カーボン・ニュートラル・クラブ」案は、こうした思案中の国々を、カーボンニュートラルの実行に向かわせるためのインセンティブとなるものだ。「われわれはこの機会をとらえて、公約を行動に代えさせねばならない」とした。想定する「クラブ」の入会基準は、2050年ネットゼロと30年45%削減という二つのハードルだ。

 

 50年目標が「口約」としても、10年後の30年目標は「具体性」を伴わないと信頼されない。事務総長は、「公約は、口先だけではなく、信頼性のテストにパスしなければならない」とクギを刺した。口先だけで実現性に乏しい事例として、事務総長は今月初めに、各国が国際海運の温室効果ガス排出削減の燃費規制合意を名指しした。同案では今後10年間での削減率はわずか1%しか期待できないと不満を漏らした。

 

 2050年ネットゼロのモメンタムは高まっている。だが、より身近な2030年の削減公約には触れない国が少なくない(日本も)。世界気象機関(WMO)と国連環境計画(UNEP)がそれぞれ公表した報告書によると、2020年も3年連続で最高気温の年となるが、多くの政府が依然、化石燃料産業に対する補助金政策を継続している。

 

 「1.5℃」目標を維持するには、今後10年間、化石燃料産業の生産量が年平均6%のペースで減少し続ける必要がある。ところがコロナウイルス前には、化石燃料生産国は2030年までにグローバルな生産量を年平均2%増加させる計画を立てていた。事務総長はこうした点を指摘し、「世界は全く逆方向に向かっている」と危機感を露わに示した。

 

 わが国も50年のネットゼロ目標とともに、30年目標(90年比45%削減)を示し、それを実現するための合理的な対策を明示しないと、国連提唱の「カーボン・ニュートラルクラブ」に入れない可能性もある。最大の焦点は、来年に予定するエネルギー基本計画の改定だが、改定後の計画が、依然、「化石燃料寄り」のままだと、クラブに入れないだけでなく、「カーボン3流国」としての国際的な烙印を押されかねない。

https://www.un.org/sg/en

https://dam.media.un.org/CS.aspx?VP3=DamView&VBID=2AM94S3K9TL