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経済産業省、気候変動対策を十分に講じない国からの製品輸入に同等の負荷をかける「カーボン国境調節メカニズム(CBAM)」の導入検討。日本自体が「対策不十分な国」なのに?(RIEF)

2021-02-12 00:29:27

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 各紙の報道によると経済産業省は、EUが導入を検討している、気候変動対策を十分に講じない国からの製品輸入に関税等を課す「カーボン国境調節メカニズム(CBAM)」政策をコピーして、日本でも導入する方針を固めたという。近く同方針を位置付けるための有識者会議を開き、夏ごろに結論を出すとしている。

 

 ただ、日本はEUと違って、現在、温暖化対応の温室効果ガスの排出規制は実施していない。経産省自身が規制に反対してきたためだ。まさにEUが懸念する「国内対策を十分に講じない国」である。CBAM政策を導入するには、少なくともEU並みの温暖化対策の導入が必要になる。経産省は本気でやれるのだろうか。

 

 日本経済新聞が報じた。それによると、環境対策が十分でない国からの製品輸入に対して関税などの追加負担を課す「国境炭素税」の導入に向けた検討を始める、としている。EUのCBAMは、EU域内で温暖化規制の負担を受ける企業が、規制を受けない国からの輸入品との競争上、不利にならないよう、域内規制の負担と同等の負担を輸入先企業に負わせるというものだ。

 

 EUだけでなく、バイデン米政権も同様の規制に乗りだす想定されている。米国では、オバマ政権時代に、EUと同様の温室効果ガス排出削減の排出権取引制度の導入を検討し、CBAMの設置も想定したことがある。バイデン政権がCBAMも視野に入れているのは、その前に、全米をカバーする排出権制度の導入等の経済的手法に基づく排出規制強化策を取り入れるためとみられている。

 

 報道では、「欧米は既に同様の検討を始めており、日本も追随する」としている。ひょっとすると経産省は、欧米のように温室効果ガス排出量を抑制する排出権取引制度を導入しようとしているのかもしれない。そうだとすると、排出量全体の削減につながるので評価できよう。だが、これまで排出権取引制度への反対の主張を産業界とともに展開してきただけに、「ほんとうか?」との疑問が沸く。

 

 あるいは排出権取引制度ではなく、環境省が固執する温暖化税(もしくは炭素税)の導入をもって、排出規制強化、とするつもりかもしれない。高排出企業等に課税する温暖化税は確かに、一定の排出量抑制効果はある。しかし、現行の石油ガス税をみればわかるように、税金さえ払えば、石油ガスの使用(温室効果ガスの場合は排出)は認められるため、排出量削減に応用した場合の効果は排出権取引制度に比べて明らかに弱い。

 

 場合によると、環境省が推進する温暖化税を、高排出企業ではなく、国民全体に広く薄く課税する「国民協力型」の炭素税を両省共同で推進する企みかも知れない。しかし、そうした消費税増税に近い課税方式だと、輸入製品への対抗措置をとる大義名分が立たない可能性がある。第一、国民が反発するのは目に見えている。

 

 EU等の一部の国で実施されている温暖化税、炭素税等は、排出権取引制度の国内的補完手段として位置付けられている。経産省には一つ提案したい。どうせ、欧米の政策をコピーするならば、主軸の政策である排出権取引制度の導入+CBAMとしてはどうか。「欧米に遅れる」との判断で、政策追随するのであれば、せめて三番煎じなのだから、欧米諸国を凌駕する温暖化対策を打ち出し、対策が不十分な国々を、国と産業界あげて支援するくらいの政策を打ち出してはどうか。

                                (藤井良広)

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20210211&ng=DGKKZO69029070Q1A210C2EE8000

https://wwws.meti.go.jp/interface/honsho/committee/index.cgi/committee/37545