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オーストラリア連邦裁判所。石炭鉱山拡張反対の若者たちの訴訟で「(計画承認権を持つ)環境相には、若者が犠牲にならないようにする注意義務がある」と判決。実質原告の勝利(RIEF)

2021-07-08 22:58:18

Australia0022キャプチャ

 オーストラリアの連邦裁判所は8日、同国のニューサウスウェールズ州(NSW)で進められている石炭鉱山の開発拡大計画に反対する若者たちが、同国環境省の計画承認差し止めを求めた訴訟で、「環境相は、若者たちがCO2排出によって傷ついたり、死んだりしないよう注意を払う義務がある」との判断を示した。スウェーデンの環境活動家、グレタ・ツゥーベリさんらが主張する「次世代の被害」を認めた形だ。

 (写真は、原告となった16歳のAri Sharmaさん㊨と、86歳の尼僧、Brigid Arthurさん㊧)

 焦点となっていたのは、NSW州北西部にあるボガブリー(Boggabri)という小さな町に近接するのビッカリー(Vickery)石炭鉱山。事業者のオーストラリア最大の独立系石炭事業会社Whitehaven Coalが、現行の採掘計画の30年間に1億3500万㌧の採掘計画を拡大し、年間1000万㌧の増産する計画だ。これにより、採掘総量は2.5倍に増える。昨年夏にNSW州当局から許可を得た。

 同計画に対して8人の10代の若者と、86歳の尼僧が、モリソン政権のSussan Ley環境相に対して、計画の差し止めを求めて提訴した。連邦裁判所のMordecai Bromberg 裁判官は5月に、若者たちの主張を認めて、「環境相には若者たちの将来をケアする責任がある」とする一方で、差し止め請求については認めない判決を示した。

巨大な石炭採掘現場
巨大な石炭採掘現場

 これに対して、原告、被告それぞれの評価が分かれる結果となった。このためBromberg裁判官は8日に公式の判決を示し、環境相が今回の石炭鉱山で判断を示す際、オーストラリアの18歳以下の子供たちが、大気中のCO2排出量増大で被害を被らないよう「相応の注意を払う必要がある(duty of care to protect young people from the climate crisis)」と指摘した。

 そのうえで、訴訟費用等は被告(環境相)の負担とした。つまり裁判所が差し止める指示を出すのではなく、国民の命と自然環境の保護を担当する立場にある環境相の責任を明示し、原告勝利を言い渡したわけだ。

  若者たちへの支援者は「この判決で、環境相が計画を承認することは、法的にも、モラルの上からも、合理性からも、なくなった」と強調し、原告勝利を確認している。原告の一人、16歳のAnj Sharmaさんは「この国の法律が、『政府には若者を傷つけないようにする義務がある』ことを宣言したわけで、本当にうれしい。歴史的な判決だ」と喜びを表している。

 若者の訴訟を担当した弁護士のDavid Barnden氏は「今回の判決は、若者たちにとっては、政府による、より良く、責任ある判断が下されることを期待できるものになった。環境相の判断への影響は明確だ」と評価している。さらに「Whitehaven社への事業拡大に伴って問われる環境相の注意義務は、他の化石燃料事業にも拡大される」と影響の大きさを指摘している。

 Ley環境相は28日以内に控訴するかどうかを判断する。環境省のスポークスパーソンは「モリソン政権は、判決を詳しく検証し、すべての可能な政策オプションを評価するだろう」とコメントしている。 Whitehaven社は「今回の判決は5月の声明に何ら追加されたものではない」として、事業の継続を続ける姿勢を示している。同鉱山の石炭は、鉄鋼用の高品質のものが大半で、グローバルなCO2排出量削減に貢献すると強調している。

 「政府には若者の未来を害しないよう注意する義務がある」との裁判官の指摘については、わが国の司法当局にも共有してもらいたい。

https://www.theguardian.com/environment/2021/jul/08/australian-government-must-protect-young-people-from-climate-crisis-harm-court-declares