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EU欧州委員会、温室効果ガス削減の包括政策案「Fit-for-55」公表。自動車、航空機、建物暖房システムに照準。排出権取引強化や国境炭素調整措置(CBAM)等盛り込む(RIEF)

2021-07-15 08:10:18

EUふぃとふぉr55キャプチャ

 

 EUの欧州委員会は14日、温室効果ガス(GHG)の大幅削減に向けた包括政策案「Fit-for-55」を公表した。EUの気候、エネルギー、土地利用、輸送、税制等の各政策を、2030年までにGHG55%(90年比)削減の目標に適合させるためだ。主な柱は、欧州排出権取引制度(EU-ETS)を改正強化し、道路走行や建物、海運等を新規対象に加えるほか、自動車の新車販売のGHG排出量を35年に100%削減(21年比)、再エネ比率を30年までに40%に引き上げ、環境規制の緩い国からの輸入品に国境炭素調整措置(CBAM)を23年に暫定導入する等を盛り込んだ。

 

 (写真は、演説開始のベルを鳴らすフォンデアライエン欧州委員長)

 

 フォンデアライエン欧州委員長は14日の記者会見で「化石燃料に依存する経済は限界に達した。われわれは次世代のために、健康な地球とともに、自然を害さない良い雇用と良い成長を残したい。欧州グリーンディール(EGD)は脱炭素経済に向かう成長戦略だ。欧州は2050年に『気候ニュートラル』となることを宣言した最初の大陸であり、今、われわれはそのための具体的なロードマップをテーブルに置いた最初の大陸になった」と述べた。

 

 「Fit-for-55」の主な内容は、自動車、飛行機、ヒ―ティングシステム(暖房)の3分野でのCO2削減に照準を合わせている。自動車については、自動車単体のCO2排出ゼロを実現するため、2030年までに新車販売でのCO2排出量を55%削減(21年比)とし、2035年には100%削減(同)とする。この削減率を達成するには、ガソリン車やディーゼル車では不可能で、電気自動車(EV)シフトを促すためだ。

 

 ただ、新車の販売だけでは自動車走行からのCO2排出量は一気には下がらない。既存車のガソリン車やディーゼル車のEV乗り換えを促進するため、2026年までにEU-ETSの対象に、「建物(building)」とともに「道路走行(Road transport)」を新たに加える。これにより、道路走行時にCO2排出量の多い車は、走行を続けるためには、排出量の少ない車の余剰クレジットを購入しないと、走行できなくなるリスクに直面する。一方で、EV車の所有者は、補助金に加え、クレジット売却収入を見込める。このためガソリン車等の所有者の「EV乗り換えインセンティブ」を後押しできるとみているようだ。https://rief-jp.org/ct5/115811?ctid=71

 

 また現行のEU-ETSでは域内航空便は対象だが、排出許容枠は無償割り当てとなっている。これを国際的な航空部門の排出規制の強化を踏まえ、無償割り当てを2026年までに廃止するとともに、EU発の国際航空便に対しては、21年からグローバルに運用開始となった「国際民間航空のためのカーボン・オフセット及び削減スキーム(CORSIA)」への適合を求める。ETSには航空と整合化させるため、海運事業も対象に加える。

 

 航空事業のCO2削減を進めるため、ETSでの無償割り当ての廃止とともに、「ReFuelEU Aviation Inisiative」を立ち上げ、ジェット燃料供給事業者にバイオ燃料等のサステナブルアビエーション燃料(SAF)の混焼比率の引き上げを求めていく。SAFには合成低炭素燃料の「e-fuel」も含まれる。これらのe-fuelは海運事業にも応用できる。

 

 ETSの対象に新たに加えられるもう一つの「建物」は、個人の住宅が中心となる。欧州では冬の暖房に石炭等の化石燃料使用がいまだに多い一方で、建物の省エネ化が不十分なところが少なくない。ETSの対象になることで、自動車と同様に、省エネ化が不十分で化石燃料による暖房に頼っている建物は、暖房を続けるためには、クレジットを購入する必要に迫られることになる。

 

 その結果、省エネ化や暖房燃料転換のインセンティブが建物所有者に生まれることを後押しする狙いだ。ただ、自動車や建物をETSの対象にする場合、これまでの鉄鋼や電力、化学等の大企業とは異なり、一件当たりのクレジット額も個人単位となるので、EU-ETSの中に、道路走行と建物には別建ての取引制度を設ける。

 

 これらの新規ETSの対象となる個人のうち低所得者等への配慮として、「ソ-シャル気候基金(SCF)」を立ち上げる。新規の暖房システムや省エネ化、さらにEVへの乗り換え等を目指す消費者に対して、ファイナンス面で支援する狙いだ。SCFの原資は両事業のETS収入から入る収入の25%を充当するとしている。

 

 こうした欧州委の方針には、ハードルが残っている。自動車の2030年規制については、2019年にいったん、21年比で37.5%削減の目標を決めており、それを55%に大幅上方修正することになる。欧州自動車工業会(ACEA)によると、20年のEUの新車販売に占めるEV比率はまだ5%。今後の10年間で55%にまで一気に引き上げねばならない。

 

 EV化は各国で取り組んでいるが、国によって開きが大きい。オランダの新車販売の21%がEVとトップ。次いでスウェーデン10%、独仏も7%。一方、ギリシャやポーランドは1%にも達せず、東欧、南欧等の諸国も平均に満たない。充電インフラの整備にも国ごとの開きが大きい。EV車への「強制的乗り換え」が強まると消費者の反発も予想される。

 

 環境規制の緩い国からの輸入品にEU域内規制並みの負荷を課す国境炭素調整措置(CBAM)については、23年から3年間を移行期間として暫定的に開始する計画だ。対象の製品は、鉄鋼、アルミニウム、セメント、電力、肥料の5製品とする方針。これらの事業者に報告義務などを課す。26年から本格導入の予定となる。欧州委は30年時点でCBAM関連の収入を年91億ユーロ(約1.2兆円)と見込んでいる。https://rief-jp.org/ct8/114828?ctid=70

 

 CBAMの場合は、EUとの貿易量の多いアフリカやアジア等の途上国等の反発にどう対応するかが問われる。EUへの輸出だけではなく、EUからの輸入も多い中国等は、対抗措置を打ち出す可能性もある。

https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_21_3541