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欧州委員会ティメルマンス副委員長、提案する国境炭素調整措置(CBAM)に「日本が対象になることは、ほぼあり得ない」とインタビューで発言。日本のEU並みの規制対応を前提に(各紙)

2021-09-23 22:43:55

Timarmanキャプチャ

 

  各紙の報道によると、EUの欧州委員会のフランス・ティメルマンス上級副委員長は、EUが気候規制の緩い国からの輸入品にEU域内と同額の関税を課す国境炭素調整措置(CBAM)について、日本が対象になることは「ほとんどあり得ない」と語ったとされる。その理由として、日本とEUはそれぞれ2050年の温室効果ガス排出量をネットゼロにする目標を掲げ、削減対策の厳しさもほぼ同水準になると想定される、との見方を示したという。

 

 日本経済新聞のインタビューに答えたもので、同紙電子版が23日付で報じた。ティメルマンス氏は、環境担当の副委員長。報道によると、同氏は、欧州委が7月に公表したCBAMの制度案の目的について、EU企業が環境規制の緩い他国に工場などの拠点を移す「カーボンリーケージ」を防ぐことだと主張。https://rief-jp.org/ct4/116168

 

 日本が同制度の対象になるかどうかについては、「日本とEUはそれぞれ2050年の温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げ、削減対策の厳しさもほぼ同水準になると想定されることから、ティメルマンス氏は日本はCBAMの対象になる可能性をほぼ排除した」と報じた。

 

 この指摘通りだと、日本がCBAMの対象から「ほぼ排除される」可能性は、日本が掲げたネットゼロ目標に向けて今後、導入される削減対策がEU並みになるとの前提に基づく発言ということのようだ。日本の排出削減対策がEU並みになるかどうかは、現在、日本が準備を進めている「第6次エネルギー基本計画」の成立と、それに基づく規制案の妥当性にかかってくることになる。

 

 インタビュー記事ではCBAMの仕組みについての説明が十分にされていないが、EUのCBAMは、輸入先国の温暖化政策全体を対象とするのではない。EUが域内で温室効果ガス排出企業を対象とするEU-ETS(排出権取引制度)で排出枠の無償割り当てを受けている産業を、2026年以降にCBAMの対象として有償化し、その有償割当額と同額のコストを、同じ産業の輸入品に課す仕組みだ。

 

 現在、想定される産業は、セメント、鉄・鉄鋼、アルミニウム、肥料、電力の5業種。したがって、日本がネットゼロ目標に沿って今後導入する温暖化対策として、これらの産業の排出量削減の規制をどの程度打ち出すかで、日本からのこれらの産業のEU向けの輸出品が、CBAMの対象になるかどうかが決まってくる。ティメルマンス氏のインタビューでの発言は、こうしたCBAMの仕組みに基づいてのものではなく、「一般論」に基づくものといえる。https://rief-jp.org/ct4/116168

 

 また記事では、同氏が、CBAM導入の狙いであるカーボンリーケージ問題への対応に関して、「EUは単独でこの問題に取り組むつもりはない」と述べ、「世界のパートナーとどのようにして共同で実施するかを議論したい」と提案した、としている。また、日本を含むパートナーとすでに議論している」とも明かした、としている。

 

 記事はこう指摘したうえで、「高い排出削減目標を掲げる国々が協力して、CBAMをもとに共通の制度を導入する枠組みに発展する可能性がある」としている。ただ、CBAMの土台となるETSを日本が温暖化対策で導入するかどうかは、現時点では白紙の状態だ。米国がCBAMを導入する場合でも、米国市場で連邦レベルのETS制度や、炭素集約型産業を対象とした排出規制が導入されるかどうかにかかっている。

 

 同氏の発言は、日本の産業界へのリップサービスのようでもあり、日本政府に対しては、「ネットゼロ」を口にするならば、EU並みの実効性のある規制と対策を立ててみろ、と挑発しているようにも聞こえる。

 

 同氏は、自動車の脱炭素化についても発言。欧州委が2035年までにハイブリッド車を含む内燃機関車の事実上の販売禁止案を示している点について、「大部分の企業は自ら内燃機関車をやめようとしている」と自動車業界から理解を得ていると強調したうえで、「我々は技術的に中立だ。重要なのは(50年までに)交通部門からの排出を90%減らすことだ」と、電気自動車(EV)だけにこだわらない姿勢を示したとしている。

 

 同氏はトヨタ自動車の燃料電池車(FCV)「ミライ」について素晴らしい提案だと称賛する一方、欧州には水素ステーションがまだ十分でないと指摘。「(ステーションの)ネットワークができれば交通手段の重要な一部になる」とも指摘したとしている。

https://r.nikkei.com/article/DGXZQOGR2024Q0Q1A920C2000000/?type=my#AAAUAgAAMA