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日本政府の2030年度46%削減目標、1割近い1億㌧の削減を途上国での二国間クレジット(JCM)で補填。実現には過去の100倍の事業必要。実現性への疑問と「責任逃れ」の声(RIEF)

2021-10-19 14:40:53

JCM001キャプチャ

 

 日本政府が今月末からの国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)に先駆けて提出した2030年までに温室効果ガス排出量46%削減する国別温暖化貢献(NDC)の1割近くを、海外での排出削減事業からのクレジットに依存する前提であることがわかった。国連にNDCsを提出した国の中で、最も「海外依存」が多いとみられる。国内での削減対策の不十分さ、不徹底さを表す対応との批判が内外であがっている。

 

写真は、ベトナムでの太陽光発電事業の様子)

 

 日本政府が国連気候変動枠組み条約事務局(UNFCCC)に提出したNDCによると、2030年度のGHG排出量は7億6000万㌧で、2013年度比で46.0%削減としている。このうち、13年度時点で最も排出量の多い鉄鋼、化学、セメント等の産業部門の削減率は38%減、自動車等の運輸部門の35%減とともに、46%減の基準以下にとどまっている。

 

 もっとも削減率の高いのが住宅等の部門。67%減と、運輸部門の倍近い削減率だ。省エネと住宅等の屋根への太陽光発電設置等を推進する計画のようだが、新築以外の大半を占める既築住宅の削減強化は容易ではない。これ以外では、商業その他が52%減、電力等のエネルギー転換が48%減となっている。

 

 炭素集約型産業と自動車等の運輸部門の両CO2多排出部門の削減の困難さを前提として、住宅部門に目いっぱい以上の削減率を割り当て、それでも目標を満たせそうもないことから、1億㌧分の削減を環境省と経済産業省がアジア等で実施している二国間クレジットメカニズム(JCM)のクレジットで補填するとしている。

 

 1億㌧の削減は、2019年度の日本の排出量の約8%に相当する。目標年度の30年度の排出総量の13%になる。JCMによる削減は途上国のCO2削減に貢献するので、そこから得るクレジットで日本の削減にも貢献できる「一石二鳥」の対策との指摘もある。

 

 だが、実際に両省が2012年度以来実施しているJCM案件203件の削減量は累積で222万3000㌧。1億㌧目標の50分の1でしかない。しかも、削減量のクレジットは、途上国と日本が半分ずつ取得する例が大半。つまり100分の1が実績だ。これまでの10年間で生み出したクレジット分を、今後10年で100倍に増やすとの計算になる。

 

 しかも、パリ協定の趣旨に照らせば、先進国である日本は自国の削減を十分に進めたうえで、途上国の温暖化対策を支援するためにJCMを活用するのが本来の役割。日本国内の削減対策の不十分さを穴埋めするためにJCMを活用するのは、制度の趣旨に反するとの声が環境NGO等からあがっている。

 

 気候ネットワーク(KIKO)は、「JCMの削減分を国際的な排出削減・吸収量を国内目標の達成に加味すれば、その分だけ国内の排出削減が弱められる。現状では国内削減は、吸収源を含んで46%削減までしか積み上げられておらず、政策措置を欠いている。JCM等を通じた途上国支援によるクレジットは、46%の目標達成に充当せず、目標に上乗せするものとするべきだ」と指摘している。

 

 Climate Home News等の報道では海外でも批判の声が出ている。欧州の「Carbon Market Watch」の政策担当者、Gilles Dufrasne氏は「各国は自国の排出量削減を優先すべき。国内で達成できる削減目標が求められるのだ。もちろんカーボン市場は、クレジット取引の手段ではあるが、各国間のネット排出量が気候目標に合致しないとリスクのあるゲームでは意味がない」と指摘している。

 

 フィリッピンの「Asian Peoples’ Movement on Debt and Development」のコーディネーター、Lidy Nacpil氏は過去にJCM事業に関わった経験がある。同氏は「(JCM等の)オフセットクレジットの活用は、自らの責任を避け、責任を他の国々に回すことにつながる。世界は、もはやこうした意味のないことをしている余裕はない」と日本の対応を厳しく批判している。

 

 日本は米EUが提唱したメタン削減の「グローバルメタンプレッジ(誓約):GMP」に賛同した。だが、GMPが世界に公約する30年までのメタン排出量30%削減に対して、日本のNDCでのメタン削減率は11%でしかない。この点も、日本のNDCの不十分さとして指摘されている。

https://www4.unfccc.int/sites/ndcstaging/PublishedDocuments/Japan%20First/JAPAN_FIRST%20NDC%20(INTERIM-UPDATED%20SUBMISSION).pdf

https://gec.jp/jcm/jp/wp-content/uploads/2021/09/20210927_list_jp.pdf

https://www.climatechangenews.com/2021/10/13/japan-eyes-international-carbon-offsets-deliver-2030-emission-cuts/