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国連の気候変動政府間パネル(IPCC)、第6次統合報告(AR6)公表。2035年に温室効果ガス排出量60%削減(2019年比)の必要性を強調。日本政府の削減計画の遅さが浮き彫りに(RIEF)

2023-03-21 10:58:29

IPCC6thキャプチャ

 

 国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は20日、現状の評価と必要な対策をまとめた第6次統合報告(AR6)を公表した。IPCCのAR報告は9年ぶり。主な内容は、産業革命前からの気温上昇を1.5度以内に抑えるパリ協定の目標の達成には、少なくとも2025年までに世界の温室効果ガス(GHG)排出量を減少に転じさせ、2030年には2019年と比べて43%程度削減し、2035年に19年比で60%減らす必要があるとした。各国の現状の削減目標は「極めて不十分」と指摘した。

 

 今回の報告書は、2013~2014年に公表された第5次統合報告以来。それによると、1850年以降の累積排出量の4割超は直近20年間分に集中している。特に2020年までの過去10年間で世界の平均気温は、すでに約1.1℃上昇しているとし、「人間の活動が主にGHG排出を通じて地球温暖化を引き起こしてきたことには疑う余地がない」とした。

 

 すでに温暖化の影響によって、大気や海洋などの広い範囲で急速な変化が起こっていると強調した上で、「人為的な気候変動は自然と人々に対し広範な悪影響と損失と損害をもたらしている」と警告を鳴らした。しかし、「今行動すれば、人類を含め地球上のすべての生態系にとって持続可能な未来をまだ確保できる」と、迅速な気候行動の必要性と効果を指摘した。

 

 一方で、このままの傾向が続くと、継続的なGHG排出の増加により、2030年代の初頭までに地球の平均気温の上昇はパリ協定が抑制を目指す1.5℃に達することが推定されるとした。そうした事態を防ぐには、GHGの累積排出量を5000億㌧にとどめる必要がある。そのためには、少なくとも2025年までに世界のGHG排出量の増加基調を減少方向に転じさせ、2030年には2019年比で43%程度削減する必要があるとした。

 

 さらに2030年以降も、排出量を減らし続け、2035年には19年比60%、40年に69%、50年に84%減と、継続的なGHG削減対策が必要であると分析している。

 

 日本を含む先進国は2050年の実質排出ゼロに向けて2030年に10年比45%の削減を目指している。日本も30年度に13年度比46%減の目標を立てている。各国とも今回の報告書を踏まえ、35年の目標を25年までに国連に提出することになるが、35年には60%削減と、現状より削減率の大幅な上積みが必要になる。

 

 日本政府は、エネルギー基本計画において、2030年度でも発電量の2割を石炭火力発電に依存する計画を立てている。電力、鉄鋼等の高炭素集約産業・企業のトランジション(移行)を政策の最優先課題としているためだ。そのため、脱炭素促進に必要なカーボンプライシングの本格導入も30年代に入ってからになる想定だ。IPCCが示す35年の60%削減に対応するには、こうした日本政府の対応では間に合わない可能性が高い。

 

 国連のグテレス事務総長はビデオメッセージで「気候の時限爆弾が針を進めている」と危機感を示した。そうした危機を回避するために、脱石炭政策を促進し、先進国は35年、途上国等の他の国は40年までに、それぞれ発電からのGHG排出量を実質ゼロにするよう求めた。

 

 IPCCは世界の気候科学の専門家で構成する。おおむね5~7年ごとに統合報告書(Synthesis Report)を公表している。同報告書は最先端の科学的知見に基づき、各国の政策やCOPなどの国際交渉にも影響力を持つ。第次統合報告書は新型コロナウイルス禍もあって9年ぶりの公表となった。

https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/

https://www.ipcc.ch/report/ar6/syr/downloads/press/IPCC_AR6_SYR_PressRelease_en.pdf