HOME8.温暖化・気候変動 |ロシア・シベリアの直径1kmの世界最大の永久凍土の「穴」。ドローン調査で拡大・深化確認。凍土融解のメタン大量放出で世界の温暖化加速リスク高まる。ロシアの「温暖化時限爆弾」(RIEF) |

ロシア・シベリアの直径1kmの世界最大の永久凍土の「穴」。ドローン調査で拡大・深化確認。凍土融解のメタン大量放出で世界の温暖化加速リスク高まる。ロシアの「温暖化時限爆弾」(RIEF)

2023-07-23 02:14:06

ana006キャプチャ

 (写真は、ドローンで映した上空からの永久凍土「クレーター」の模様)

 北半球全体で熱波、高温、干害等が高まる中、ロシア・シベリアの大地に広がる永久凍土の融解が、気温上昇の影響も受けて、予想以上のピッチで進んでいることが、ドローンによる上空からの調査でわかった。永久凍土が解けて地表に出現した大きなクレーター状の穴(サーモカルスト)として世界最大のバタガイカ・クレーター(Batagaika crater)はじりじりと拡大を続けており、周辺の市町村等では、道路のたわみ、住宅の亀裂、パイプラインの中断等の被害が広がっている。永久凍土は大量のメタンを含んでおり、融解するとCO2とともに大気中に放出され、温暖化が一気に加速するリスクの現実化の時が迫っている。

 今回ドローンによって確認された永久凍土の融解の拡大によって、大気中への放出が増大するメタンは、ロシアの温暖化を他の国よりも2.5倍促進させている要因とされる。だが、同時にグローバルな温暖化の加速要因でもある。メタンの温暖化係数(GWP)は、100年間比較でCO2の28倍、20年間比較では約84倍の温暖化効果がある。ウクライナへの軍事侵攻とは別に、ロシアが抱える世界への「温暖化時限爆弾」とも呼べる。

 ロイター電によると、バタガイカ・クレーターの調査を続けている科学者チームによると、クレーターの深さはこれまで最大86mと測定されてきたが、現在は場所によって100m前後に達しているところが複数個所あるという。クレーターの広さは、毎年、平均10mの拡大しているとされてきたが、現在は地元の住民によると「2年前は穴の縁は道から20~30m離れていたが、今は道路に明らかに接近している」としており、クレーターの拡大ピッチは止まっていないようだ。

クレーターの縁は断崖になっている
クレーターの縁は断崖になっている

 シベリアの永久凍土の融解は1960年代から始まったとされる。開発のための急速な森林伐採によって地表への太陽光の照射が増大し、凍土の融解を加速させた。同クレーターの出現と拡大も周辺の森林伐採の影響が大きい。さらに、近年は、その森林が伐採作業と温暖化の影響による自然発火等を原因とした森林火災が頻発し、その結果として凍土の融解、クレーターの拡大等が加速しているとされる。

Nikita Tananayev氏
Nikita Tananayev氏

 ヤクーツクにあるロシア科学アカデミーのシベリア支部のメルニコフ永久凍土研究所のリード・リサーチャーのNikita Tananayev氏はクレーターが拡大していることを認めたうえで、「深部の土壌には、膨大な量の有機炭素が含まれおり、温暖化のさらなる加速によって凍土の融解が進むと、これらが大気中に放出される。現在の高温が続くと、クレーターの拡大と凍土の融解は高い比率で拡大し、今後の温暖化をより一層拡大することになる」と指摘している。

 シベリアを覆う永久凍土の融解の進展は、これまでも指摘されてきた。シベリアの各都市や地区の住宅・建物等はすべて永久凍土の上に建設されており、ロシアのモスクワ州立大学の科学者Alexey Maslakov氏は「ロシアの北極圏内で、影響を受けていない建物・住宅は一つもない」と指摘している。住宅だけではない。サハ共和国のチュラプチャ地区の空港は、永久凍土の融解の進展で、滑走路等の地盤沈下で使用不可能になった。

地上部と穴の中は別世界
地上部と穴の中は別世界

 

 ロシア全土の65%は永久凍土で覆われており、その融解が引き起こす住宅・建物やインフラの損傷等により、2021年の報道では、ロシアは7兆ルーブル(約970億㌦=当時のレート)の経済的損害を受けているとされている。

 

 2016年にオンライン科学誌「Nature Communications」で発表された研究論文では、最終氷期にシベリアの永久凍土から放出されたメタン等の影響で一時的に大きな気温上昇を引き起こしたことが分析されている。論文共著者のフランチェスコ・ムスキティエロ氏は、「シベリアの永久凍土は、北極圏の炭素保管庫。これが解けると、CO2とメタンが大気中に大量に放出される恐れがある」と警告を発している。

 

 シベリアには、バタガイカ・クレーター以外にも、永久凍土の融解により出現した「穴」が数十カ所点在する。ロシアはウクライナ戦争に膨大な国費を投じるよりも、シベリアの大地を守るための永久凍土対策に資金と労力を転じるべきだろう。そうした対策には、国際的な協力も得られるはずだ。

 

World’s biggest permafrost crater in Russia’s Far East thaws as planet warms | Reuters
Climate Scare: World’s Biggest Permafrost Crater in Russia’s Far East Thaws as Planet Warms (ibtimes.sg)
【動画】シベリアにできた巨大な穴、止まらぬ拡大 | ナショナル ジオグラフィック日本版サイト (nikkeibp.co.jp)