政府のGX実行会議。企業の自主的排出量取引とした「GXリーグ」を早くも修正。「GX推進法」改正のWG立ち上げ。目標設定など義務化の方向へ。産業界は軒並み「緩い制度」要望(RIEF)
2024-09-04 00:31:56
(写真は、3日開いたGX実行会議の「カーボンプライシングWG」のオンライン会議の模様。㊧は座長の東京大学副学長の大橋弘教授=内閣府のサイトから)
政府のGX実行会議は3日、「GX実現に向けたカーボンプライシング専門ワーキンググループ(WG)」の立ち上げ会合を開いた。現在、GXリーグとして導入している、企業の自主的な目標設定に基づく試行的な排出量取引が実質的に機能していないことから、CO2多排出企業の参加・目標設定の義務化を盛り込んだ法改正を目指す。初会合では、電力業界が「脱炭素への移行期に配慮した制度設計が重要」「GXに伴うコストは、広く社会全体・国民全体 で負担すべき」等と主張したほか、鉄鋼業界も「脱炭素化に伴うコスト増を社会全体で受容する仕組みが必要」等と、脱炭素の取引コストを消費者等に転嫁する制度化等を求めた。
GX政策を主導するための「GX推進法」は、今年2月16日に施行されたばかり。実際に同法に基づく各省の施策は、現状、取り組んだばかりか、あるいは取り組み準備をしている段階。ところが、制度の軸になる脱炭素に向けたプライシング制度は、推進法に盛り込んだ「GXリーグ」のコンセプトが全く機能していない。そこで、急遽、今回のWGを設けて、来年の通常国会に向けて改正法案を作成するための、たたき台を作る方針に変更したという。
GXリーグのコンセプトは、「参画企業が自ら目標を掲げて、 GX投資とGHG削減及び社会に対しての開示を実践する場」と定めている。あくまでも法的義務ではなく、GHG排出量の多い企業が自主的に目標を定め、削減投資をし、その過程でクレジットの売買もするとの設計だった。しかし、企業の排出削減目標とクレジット売買は、対立的な要素を抱えている。
目標が緩いと、易々と達成できるので、クレジット取引の必要がなくなる。目標が厳しいと、クレジットに頼ることになるが、企業が自ら達成できない目標を立ててクレジットで補填することは経営的に「失敗」とみなされる。したがって、実際の目標設定は前者の「緩い目標」になってしまう。こうしたことから、東京証券取引所に開設したクレジット取引市場では、「取引ゼロ」の閑古鳥が鳴く日もある状態が続いている。
「自主的な目標設定」だと、そうなることは当然、予想されていた。だが、GXリーグの枠組みを設計した経済産業省の担当者は、そうは想定しなかったようだ。排出量取引制度を義務ではなく、企業の自主性に委ねたいという「希望」があったのかもしれない。だが、政策担当者としては「あまりに甘い判断」だったと言わざるを得ない。https://rief-jp.org/ct4/148476
そこで、施行から半年で法律見直しの作業を慌てて進めているわけだが、政府自体がそうした「甘い政策判断」で制度運営を進めていることを映すかのように、WGに提出された産業界の要望もまた、「甘い展望」のままといえる。
電気事業連合会は、「『(政府のカーボンプライシングの考えについては)当初低い負担で導入し、徐々に引き上げていく』という基本的考え方が示されている」として、政府のGXリーグ構想の「考え」に沿った発言をしたうえで、①脱炭素化の移行(トランジション)に対する考慮②事業・投資の予見性確保――を求めた。いずれも自らの経営判断で対処すべき「考慮」「予見性」を、政府に保証を求める形だ。
さらに、第3フェーズ(排出枠の有償配分)を見据えた制度設計として「第2~3フェーズ間で制度骨格に大幅な変更を伴い、制度の予見性が損なわれることがないよう第2フェーズ(今回の法改正による2026年度以降の取り扱い)の制度検討を行う必要」を求めている。要するに今回の法改正も、2033年度以降に予定される第3フェーズの制度も、「切れ目なく緩い水準」で設定してもらいたいということのようだ。
加えて、「電化の推進と整合的なカーボンプライシングの制度設計」として、「GXに伴うコストについては、国民の皆さまの行動変容を促す観点からも、広く社会全体・国民全体で負担すべき」と、プライシング制度でかかる費用は国民負担とするよう要請している。
日本鉄鋼連盟は「GX-ETSの下、排出権を購入することは将来投資の原資を奪う上、排出権を購入しても製造プロセスの脱炭素化に寄与しない」と真っ向からプライシング制度に反対を表明した。さらに「脱炭素化に伴うコスト増について、政府による支援を以ってしても回収できないコストは、製品に環境プレミアムを価格転嫁して回収する等で、コスト増を社会全体で受容する仕組みが必要」と、電力業界同様、社会・国民負担論を唱えている。
日本化学工業会は「現在、化学産業は、脱炭素化に向けた研究開発に取り組んでおり、2030年~2040年での社会実装を目指している状況。そのため、足元でのCO2の大幅削減には課題が多く、 削減には長期的な視点で取り組むべき」と述べた。2030年どころか、2040年以降の対応を求めた。石油連盟は「排出量取引制度が『成長志向型カーボンプライシング構想』としての役割を果たすためには、産業の国際競争力の低下を招かない制度設計が必要」としている。
果たして市場が機能する法的枠組みを整備できるのだろうか。法改正した後、再び、制度が機能せず、再度WGを立ち上げるといった、みっともない真似はしないでもらいたいが、現在の政策立案プロセスと立案者たちの能力を推し量ると・・・
(藤井良広)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/carbon_pricing_wg/dai1/siryou3.pdf
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/gx_jikkou_kaigi/carbon_pricing_wg/dai1/index.html