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11月のブラジル・ベレンでのCOP30。議長にベテラン気候外交官のコレア・ド・ラゴ氏。ルーラ大統領が直接指名。「対トランプ人選(?)」。駐日大使の経験も(RIEF)

2025-01-28 19:02:57

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写真は、ルーラ大統領㊨と、COP議長の指名を受けたコレア・ド・ラゴ氏㊧)

 

  今年11月にブラジルで開く国連気候変動枠組み条約第30回締約国会議(COP30)の議長にベテラン気候外交官のアンドレ・アラーニャ・コレア・ド・ラゴ(André Aranha Corrêa do Lago)氏が就任する。同氏はブラジルのルーラ・ダ・シルヴァ大統領が政権に復帰した2023年以来、同国外務省の気候・エネルギー・環境担当長官とブラジルの首席気候交渉官を務めている。また2011年から2013年にも同職を務めるなど、気候交渉で豊富な経験を持つ。駐日ブラジル大使の経験もある。トランプ米大統領は就任早々にパリ協定からの離脱を宣言したが、協定からの離脱には1年かかるとみられ、COP30開催時点では「米国はまだ離脱できず、不在状態」になりそうだ。

 

 COP30の会場は、アマゾン川の河口に近いベレンで開かれる。会合では「地球の肺」とも呼ばれるアマゾン川流域全体の保全の行方が焦点になるとみられる。「米国のパリ協定離脱」が国連気候会合全体の行方を不透明にする状況だが、コレア・ド・ラゴ氏が最初に気候交渉官を務めたころも、ある意味で、似たような環境だったようだ。

 

 同氏が最初にCOPに関わったのは、2011年ということなので、南アフリカ・ダーバンでのCOP17のころと思われる。同会合では、京都議定書の第二約束期間での先進国の扱いが何とかまとまると同時に、全ての国が参加する2020年以降の新たな枠組みを2015年までに採択することも決めた。そのための交渉の場として「強化された行動のためのダーバン・プラットフォーム特別作業部会(ADP)」等が新設された。

 

 「脱線しかけていた」第二約束期間の「息」を何とかつなげ、15年のパリ協定締結に導いた最初の会合だった。今、トランプ政権による米国のパリ協定離脱宣言で、COPの行き先が不透明になっているが、「米国不在」のCOP30で、かつての「ADP」のような「突破のための特別作業部会」をたちあげることができるかどうか。そのためには、議長国ブラジルと、議長のコレア・ド・ラゴ氏の手腕が問われる。

 

 コレア・ド・ラゴ氏は1982年に外交官となった後、スペイン、チェコ、ワシントン、アルゼンチン、EU本部のブリュッセルなどの大使館で勤務。2001年以降はサステナブル開発関連の取り組みに関わるようになり、国内でもエネルギー省や環境省の担当幹部も務めた。その後、2013年から18年までは駐日ブラジル大使として活動、日本駐在の後はインド大使に転身するなど、国際経験に磨きをかけた。先進国と途上国を満遍なく経験してきたわけだ。

 

 同氏は、ダ・シルヴァ政権の復権により、23年3月以降は外務省で気候・エネルギー・環境担当局長を務めていた。今回のCOP議長就任も、大統領の直接の指示による。しかも、同氏の指名は、トランプ米大統領が就任初日にパリ協定からの米国の離脱手続きを開始した翌日に行われた。コレア・ド・ラゴ氏は「トランプ対策」の人事ともいえる。

 

 海外メディアの報道によると、同氏の国内での人気・信頼感は高いようだ。ブラジルの気候運動家やNGOは、今回の人事を概ね歓迎している。ブラジルの気候関連の市民団体のネットワークである「Observatório do Clima」は「ルーラ大統領がコレア・ド・ラゴ氏を任命したことは「正しい判断」だと指摘。同氏は、「コレア・ド・ラゴ大使は国際的な気候変動コミュニティから尊敬を集めており、多国間プロセスに関する深い知識を持っている」と付け加えた。

 

 しかし、アンジェロ氏はまた、「気候外交にとって最も困難な年となるであろう今年、議題を前進させるためには、コレア・ド・ラゴ氏はルーラ大統領からの全面的な支援が必要だ」とした。ブラジル・アマゾンの先住民組織調整委員会のトヤ・マンチネリ氏は、同氏の任命は「前向きな取り組みではあるが、われわれが真に期待していること、すなわち気候に関する議論における先住民の中心的役割を保証するものではない」と述べている。

 

 マンチネリ氏は「アマゾンでのCOPでは、歴史的な森林の守護者であるわれわれの声が議論の中心になければならない」と指摘している。最近のCOP主催国は、23年のCOP28がアラブ首長国連邦(UAE)、24年がアゼルバイジャンと、産油・ガス国が続いた。産油国の場合、自国あるいは産油・ガス国の権限維持のため、化石燃料採掘の維持と、脱炭素の両立が最大の関心事で、対途上国等では資金の出し手の立場だった。

 

 これに対して、アマゾンの森林資源が持つ巨大な「CO2吸収源」の維持を最優先する先住民に対して、ブラジル国内ではルーラ政権に代わっても、アマゾン等の農業開発推進派の力は大きい。コレア・ド・ラゴ氏が国内の調整と、「不在」の米国を含めて国際的な調整をともにこなせるかどうかが焦点だ。キャリア外交官でもある同氏は、親日家であるほか、建築評論家およびキュレーターとしても高い評価を受けているという。

 

 ブラジル環境省の気候変動担当官であるアナ・トニー氏がCOP30の最高経営責任者(CEO)および執行責任者となる。環境大臣のマリーナ・シルバ氏は、COPでは正式な役割を持たない。COP29では、いわゆる新たな集団的数値目標(NCQG)の下で、富裕国が2035年までに少なくとも年間3000億㌦を途上国に拠出することで合意した。さらに、政府とは関係のない南半球の民間投資を含む、気候変動対策の資金調達源を拡大するため、年間1兆3000億㌦の、より大きな目標も設定されている。

https://www.gov.br/mre/en/composition/secretariat-for-climate-energy-and-environment

https://www.oc.eco.br/lula-acerta-em-nome-para-cop30-mas-lago-precisa-correr/