3月21日は今年から国連「世界氷河の日」。気候変動により世界中の氷河が融解し、過去23年間で世界の海面が18mm上昇。地域間の緊張・紛争増加のリスクも。ユネスコ報告書で指摘(RIEF)
2025-03-21 23:26:51

ユネスコ(UNESCO)は21日、「国連世界水開発報告書(UN World Water Development Report 2025)」を公表した。それによると、気候変動の進展と生物多様性の損失等の結果、世界の氷河と山岳部の雪の融解による水資源の変化と干ばつが、各地で気候災害を引き起こすほか、国や地域間の緊張と紛争を増加させる可能性が高いと警告した。水資源の減少は世界の灌漑農業の3分の2に影響を及ぼし、世界の人口の大半に広範な影響を与えると指摘。2023年までの23年間に、山岳氷河の融解で年間約1mm、合計18mmの海面上昇が引き起こされたとした。海面が1mm上昇するごとに、最大30万人が洪水の危険にさらされる可能性があるという。国連は今年から21日を「世界氷河の日」に指定した。
日本にも、北アルプスに複数の氷河が存在する。だが、いずれも小規模なもので、本報告書が懸念する海面上昇への影響や、水資源枯渇に伴う紛争等の可能性はほとんどないとみられる。だが、気候変動の加速による世界規模での氷河減少の影響に伴う食糧問題や国際的紛争等の影響とリスクは日本にも及ぶ。
同報告書の冒頭、ユネスコ事務局長のオードリー・アズレ(Audrey Azoulay)氏は「適切に管理されなければ、山や氷河から供給される水システムは、深刻な課題に直面していることから、頻繁に紛争の原因となる危険性がある」と述べている。特に懸念されるのは、世界の淡水の5分の1が、好戦的なプーチン政権のロシアに存在している点とされる。
報告書によると、世界中の山岳部に存在する氷河は年間淡水流量の最大60%の供給源となっている。これらの氷河が気候変動の進展や生物多様性の損失等の影響で、かつてない速さで溶け、変貌している点を強調。報告書の記者会見に臨んだスイスに拠点を置く「世界氷河モニタリングサービス(WGMS)」所長のマイケル・ツェンプ(Michael Zemp)氏は「1975年以降に氷河から失われた9000G㌧に達した」と指摘した。
同氏は「失われた氷河の氷は、厚さ25mで面積はドイツと同じ大きさの氷の塊、にほぼ相当する」と述べた。過去6年間のうち5年間で最大の年間減少量が記録された。2024年だけでも氷河は450G㌧分減少した。氷河の減少は特定の氷河だけではなく、世界中の氷河で起きており、その減少の速さはかつてない勢いとなっている。特に、過去3年間の氷河の質量損失は記録上最大だ。
昨年4月には、南米ベネズエラに残っていた同国最後の氷河が消失したことが報告されている。https://rief-jp.org/ct8/145234?ctid=
WGMSの分析によると、2000〜2023年の間に世界の氷河(グリーンランドと南極の大陸氷河を除く)により海に注ぎ込まれた融解水は年間約1mmの海面上昇を引き起こし、23年間全体で約18mmの上昇に貢献したとされる。この間、氷河全体の5%以上が失われた。
最も深刻な影響を受けているのは、欧州のスイス等のアルプス地域の氷河で、2000年から現在までに総量の39%以上を失った。コーカサス地方、北アジア、米国の氷河も大幅に消失した。北極、南極の海氷、氷床なども融解が進んでいる。

ツェンプ氏は「現在の融解スピードが続けば、多くの地域で『永久の氷(氷河)』は21世紀を生き残れないだろう」と予測する。アルプスでは2100年までに9割以上の氷河がほぼ完全に消滅する可能性も指摘されている。氷河の消失は、海面上昇につながるだけではなく、氷河周辺に住む何百万人もの人々が壊滅的な洪水の危険にさらされ、氷河の水系に依存している農業や、水力発電、農業水路等にもダメージを与え、数十億人の生活に影響が及ぶ懸念がある。
こうした氷河の減少によって引き起こされるリスクは、北極圏から欧州アルプス、南米のアンデス山系、チベット高原等でも起きている。劇的な氷の減少により、融解した水資源が注ぎ込む海面が上昇する一方で、これまでの安定的な水流が減少することで、世界中で経済、環境、社会問題が悪化する可能性が高い、としている。
世界気象機関(WMO)の水および雪氷圏担当ディレクターであるステファン・ウーレンブロック(Stefan Uhlenbrook)氏は、世界には約27万5千の氷河が残っており、南極とグリーンランドの氷床を合わせると、世界の淡水の約70%を占めるとしたうえで、「われわれは科学的知識を深め、より優れた観測システム、より優れた予測、そして地球と人々に対する『より優れた早期警報システム』を構築する必要がある」と、各国の対応と協力を求めた。
氷河や山岳部での降雪量等の減少と、その結果としての水資源の減少はすでに重大な影響を及ぼし、途上国の農村部の山岳地帯に住む人々の最大半数が食糧不安に苦しんでいる。今後もこの傾向は加速するとみられることから、世界の灌漑農業の3分の2に影響を及ぼし、世界の人口の大半に広範な影響を及ぼすだろうと報告書は予測している。
アズロー氏は「最も効果的な解決策は多国間アプローチを必要とする」と強調し、各国に対して国際協力による気候対策での緊急の行動を呼びかけている。報告書では、科学的調査、政策の調整、具体的な現場での行動を通じて水の安全保障を強化することの重要性を強調している。