HOME8.温暖化・気候変動 |インドネシアやタイなどの東南アジア各国に豪雨をもたらした熱帯低気圧「センヤール」の発生は、通常は台風が発生しない赤道近辺。「従来の常識」を超える気候変動が要因の一つに(RIEF) |

インドネシアやタイなどの東南アジア各国に豪雨をもたらした熱帯低気圧「センヤール」の発生は、通常は台風が発生しない赤道近辺。「従来の常識」を超える気候変動が要因の一つに(RIEF)

2025-12-01 01:18:15

スクリーンショット 2025-12-01 005555

上の画像は、wikimediaによる直近11月30日までのサイクロン「センヤール」の移動軌跡=同サイトから引用)

 

 東南アジアで猛威を奮う豪雨をもたらしたのは、熱帯低気圧だ。通常は赤道付近のマラッカ海峡では熱帯低気圧は発生しないはずだが、今回はその海域で「稀な」低気圧が発生し、「サイクロン・センヤール(Senyar)」に成長。一方でフィリピン上空を台風「コト」が通過したことから二つの活発な気象システムの間で相互作用が起き、広い範囲で豪雨と土砂崩れなどの被害をもたらした可能性が指摘されている。気候の変動が「今まで通りではない現象」を引き起こすことによる被災が各地に広がっている。インドネシア、タイ、マレーシアでの今回の洪水被害での死者数は600人を超え、家を失うなどした被災者数は400万人以上に上る。

 

 各紙の報道によると、洪水被害が拡大している3カ国のうちで、最も深刻な被害を受けているインドネシアでは死者数が435人となっている。タイの死者が170人、マレーシアが3人となっている。https://rief-jp.org/ct8/162740

 

 今回の豪雨被害で各国の気象学者たちが首をひねっているのが、赤道に近いマラッカ海峡で熱帯低気圧が発生した点だ。台風が発生するのは、地球の自転によって「コリオリの力」と呼ばれる右に曲がる転向力(南半球では左曲がり)が生じるためとされる。同現象の理論化は、1835年にフランスの科学者ガスパール=ギュスターヴ・コリオリ(Gaspard-Gustave Coriolis)が水車の理論に関連して発表した論文で言及したのが初めて。

 

 気象学では「コリオリの力」は、赤道では生じないが、赤道から離れるにつれて、その転向力が強まり、熱帯低気圧の回転を促進する。逆に赤道に近いとその力は弱く、赤道では「コリオリ」の力が全く働かないので、台風の発生はないとされる。

 

熱帯低気圧「センヤール」の衛星画像
熱帯低気圧「センヤール」の衛星画像

 

 マラッカ海峡の最南端は北緯約1度15分で、緯度ゼロの赤道よりもわずかに北半球寄りだ。一般的に、台風は赤道から離れた北緯5度から20度の間で発生し易くなるとされ、マラッカ海峡ではこれまでも低気圧の発生はほとんど知られていない。

 

 インドネシア気象庁はマラッカ海峡でのセンヤール発生を「稀な現象」と表現した。同庁のアンドリ・ラムダニ(Andri Ramdhani)氏は「インドネシアは赤道付近に位置するため、理論上は熱帯低気圧の発生や通過の影響を受けにくい」としたうえで、過去5年間でみると、複数の熱帯低気圧がインドネシアに接近し、深刻な被害をもたらしていると、異常気象が起きていることを指摘している。

 

 同氏は「センヤールのような熱帯低気圧がマラッカ海峡海域で発生することは比較的稀であり、特に陸地に上陸する場合はなおさらだ」と述べた。

 

 ABCの気象予報士トム・サンダース(Tom Saunders)氏は、サイクロンが赤道付近で発生・通過することは稀だが、北緯5度または南緯5度付近で弱いシステムが一時的に出現することは「前例がないわけではない」と指摘した。今回のセンヤール発生の位置は北緯5度をわずかに南に下回った地点だったとされる。

 

 同氏は「原則としてこの地域でサイクロンが発生することはない。だが、他地域で発生後に低緯度へ流れ込む場合や、さらに稀に5度圏内で発生することもある」としている。明らかなことは、センヤールは、これまでの一般常識を超えた形での熱帯低気圧・サイクロンということになる。

 

 今回の各国での被害は、タイ南部(被災者数約300万人)、インドネシア西部(同110万人)等に集中している。これらの赤道近接地域ではこれまで、「稀な」熱帯低気圧やサイクロンに被災する経験が少ないことから、それらへの備えも不十分だった可能性が高い。インドネシア気象庁は被災地域の自治体と住民に対し「災害」への備えを呼びかけたとするが、住民も自治体も、どう対応していいかわからなかったのかもしれない。

 

 各被災地では、橋や道路などのインフラ設備が損傷を受けているほか、道路が各地で遮断されており、車での物資の運搬や、被災者の救助・支援活動が妨げられている。特にインドネシア・スマトラ島では、土砂崩れなどで各地の集落等が孤立状態に陥っている。同被災地への救助チームの到達も困難な状況が続いている。がんばれ!雨に負けるな!

                          (藤井良広)

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/6/6a/Senyar_2025_path.png

https://www.abc.net.au/news/2025-11-28/rare-cyclone-south-east-asia-floods-disaster/106076572