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温泉や工場の排熱で発電!? 三菱も参入狙うバイナリー発電(Business Journal)
2012-09-18 15:16:50
欧州ではすでに普及 昨年10月の発売開始以来、全国の企業や自治体から300件以上の問い合わせが殺到した再生エネの小型発電装置がある。神戸製鋼所が開発したバイナリー発電装置の「マイクロバイナリー」だ。最大発電能力は70kW。100kW以下のバイナリ-発電装置では、初の国産品でもある。
バイナリー発電は「低温発電」の一種。加熱源により沸点の低い媒体を加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回して発電するのが特徴。加熱源系統と媒体系統の2つの熱サイクルを利用して発電することから「バイナリーサイクル(2元サイクル)発電」と呼ばれている。
地熱、温泉水、太陽熱、バイオマスエネルギー熱利用の排熱、工場・地下鉄・ごみ焼却炉の排熱など、100℃以下の未利用熱エネルギーを利用する発電に最も適しているといわれる。未利用熱エネルギーは大都市の排熱だけでも「原発1基分に相当するエネルギー量」(日本環境技研試算)といわれており、理論的に導き出された資源の総量=賦存量も極めて大きい。
わが国では実用運転が2例(九州電力の八丁原地熱発電所、鹿児島県の霧島国際ホテルの自家発電)しかないので、あまり知られていないが、欧州ではバイオマスエネルギー熱利用の「排熱発電」として広く利用されている。
賦存量は膨大だが建設が難しい地熱発電所
地熱発電が今年7月から実施された再生エネのFIT(固定価格買取制度)の対象になったおかげというか、弾みのようなかたちで、このバイナリー発電が急速に脚光を浴びている。神戸製鋼所のマイクロバイナリーに問い合わせが殺到したのもその影響だ。
環境省の「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によると、日本国内の地熱発電の賦存量(150℃以上の「高温熱水資源」)は2400万kW。これは世界でもトップクラスで、米国の3000万kW、インドネシアの2780万kWに続く第3位の賦存量になる。
しかし、2400万kWと試算された地熱発電の実用運転は、現在、全国で18カ所・53万kWで、試算量の2%強にすぎない。地熱発電普及が遅れている最大の要因は、資源開発場所の特性にある。その約80%が建設規制区域の国立・国定公園内にあるため、地熱発電所の建設が不可能になっている。
そこで環境省は、FIT実施が近づいた今年3月、地熱発電開発を促進するため、国立・国定公園内での地熱発電所建設を実質的に容認する規制緩和を行った。
これにより地熱発電開発気運は盛り上がったが、ほかにも開発の障害は残っていた。
(1)高温熱水源の探査から地熱発電所運転開始までの期間が長く(10〜20年)、探査・開発段階で巨額の投資が必要
(2)地熱発電所の大半は山岳部での建設になるため、建設コストが高い
(3)深い地層に貯留している高温熱水は砒素、水銀などの毒性物質を含んでいる場合が多く、この熱水のくみ上げによる環境負荷が心配される
こうして、いったん盛り上がった地熱発電開発気運が急速にしぼんでゆく過程で、代わりに盛り上がってきたのが、低温熱水資源の温泉を利用した「地熱バイナリー発電」(温泉発電)だ。
大手電力会社の電力供給不安や、問答無用と言わんばかりの電気代値上げに対する自衛策として、企業などの間で電力自給意識が強まっているのも一因だ。
温泉郷は地熱バイナリーで電力自給
地熱バイナリー発電に関心が高まったのは、発電の利便性にある。電源ともいえる低温熱水資源(53〜150℃)は浅い地層にあるので、地熱発電と異なり探査が容易で、平野部で発電できる場所が多いなど、発電所建設に関しても障害は極めて低い。要するに探査から発電開始までの期間が短く(1〜2年)、それだけ初期投資額が少なくて済む。
ちなみに、わが国には全国約2万8000カ所(未利用含む)の温泉源がある。地熱バイナリー発電なら、この温泉源の排熱や余熱をそのまま利用できるので、探査・掘削経費が不要になる。しかも温度と湧出量のデータさえあれば発電能力の試算ができるので、事業化も進めやすい。100℃以上の温泉を湧出する泉源があれば、地域レベルで電力自給できる温泉郷が相当な数に上るものと推測されている。
こうした情報と電力供給不安を背景に、地熱バイナリー発電導入の検討が全国各地の温泉組合や大手温泉旅館の間で進んでいる。
導入第一号は、温泉旅館
冒頭の神戸製鋼所マイクロバイナリーの導入第1号は、大分県由布市の大手温泉旅館だった。福島県福島市の土湯温泉にある温泉組合では、14年に500kW級の地熱バイナリー発電所を稼働させる計画を進めており、その後は発電能力を1000kW級に拡大、温泉郷全体の電力自給を目指している。
バイナリー発電装置供給側の動きも活発化している。神戸製鋼所のほかに、川崎重工が本格的な受注活動を開始している。このほか、JFEエンジニアリング、三菱重工、第一実業なども本格参入の構えを見せており、全国各地のバイナリー発電導入プロジェクトに積極的に参加している。
バイナリー発電は毎日運転開始と停止を繰り返すDSS運転(Daily Start and Stop)も容易にできるため、工場などの操業時間に合わせた発電もできる。このため、現在は利用方法のない一般工場、清掃工場、地下鉄などの排熱も、今後はバイナリー発電の熱源として利用が急速に拡大しそうな気配を見せている。
バイナリー発電がすでに普及している欧州と比べると、日本のバイナリー発電は「今頃?」の感が否めない。
未利用熱エネルギーに関する国の施策が、下水や河川水の「温度差発電」など技術的に実現が困難な案件に偏り、バイナリー発電のような実現が容易な案件にはほとんど目を向けなかったせいもある。
関係者の間では、再生エネの中で最も地域分散型電源に適しているとの見方も多い。
地熱発電から地熱バイナリー発電へと、まるで「瓢箪から駒」みたいな話だが、着実で手頃な電源として需要が本格化するのは間違いないと思われる。
(文=福井晋/フリーライター)
http://biz-journal.jp/2012/09/post_696.html
バイナリー発電は「低温発電」の一種。加熱源により沸点の低い媒体を加熱・蒸発させ、その蒸気でタービンを回して発電するのが特徴。加熱源系統と媒体系統の2つの熱サイクルを利用して発電することから「バイナリーサイクル(2元サイクル)発電」と呼ばれている。
地熱、温泉水、太陽熱、バイオマスエネルギー熱利用の排熱、工場・地下鉄・ごみ焼却炉の排熱など、100℃以下の未利用熱エネルギーを利用する発電に最も適しているといわれる。未利用熱エネルギーは大都市の排熱だけでも「原発1基分に相当するエネルギー量」(日本環境技研試算)といわれており、理論的に導き出された資源の総量=賦存量も極めて大きい。
わが国では実用運転が2例(九州電力の八丁原地熱発電所、鹿児島県の霧島国際ホテルの自家発電)しかないので、あまり知られていないが、欧州ではバイオマスエネルギー熱利用の「排熱発電」として広く利用されている。
賦存量は膨大だが建設が難しい地熱発電所
地熱発電が今年7月から実施された再生エネのFIT(固定価格買取制度)の対象になったおかげというか、弾みのようなかたちで、このバイナリー発電が急速に脚光を浴びている。神戸製鋼所のマイクロバイナリーに問い合わせが殺到したのもその影響だ。
環境省の「再生可能エネルギー導入ポテンシャル調査」によると、日本国内の地熱発電の賦存量(150℃以上の「高温熱水資源」)は2400万kW。これは世界でもトップクラスで、米国の3000万kW、インドネシアの2780万kWに続く第3位の賦存量になる。
しかし、2400万kWと試算された地熱発電の実用運転は、現在、全国で18カ所・53万kWで、試算量の2%強にすぎない。地熱発電普及が遅れている最大の要因は、資源開発場所の特性にある。その約80%が建設規制区域の国立・国定公園内にあるため、地熱発電所の建設が不可能になっている。
そこで環境省は、FIT実施が近づいた今年3月、地熱発電開発を促進するため、国立・国定公園内での地熱発電所建設を実質的に容認する規制緩和を行った。
これにより地熱発電開発気運は盛り上がったが、ほかにも開発の障害は残っていた。
(1)高温熱水源の探査から地熱発電所運転開始までの期間が長く(10〜20年)、探査・開発段階で巨額の投資が必要
(2)地熱発電所の大半は山岳部での建設になるため、建設コストが高い
(3)深い地層に貯留している高温熱水は砒素、水銀などの毒性物質を含んでいる場合が多く、この熱水のくみ上げによる環境負荷が心配される
こうして、いったん盛り上がった地熱発電開発気運が急速にしぼんでゆく過程で、代わりに盛り上がってきたのが、低温熱水資源の温泉を利用した「地熱バイナリー発電」(温泉発電)だ。
大手電力会社の電力供給不安や、問答無用と言わんばかりの電気代値上げに対する自衛策として、企業などの間で電力自給意識が強まっているのも一因だ。
温泉郷は地熱バイナリーで電力自給
地熱バイナリー発電に関心が高まったのは、発電の利便性にある。電源ともいえる低温熱水資源(53〜150℃)は浅い地層にあるので、地熱発電と異なり探査が容易で、平野部で発電できる場所が多いなど、発電所建設に関しても障害は極めて低い。要するに探査から発電開始までの期間が短く(1〜2年)、それだけ初期投資額が少なくて済む。
ちなみに、わが国には全国約2万8000カ所(未利用含む)の温泉源がある。地熱バイナリー発電なら、この温泉源の排熱や余熱をそのまま利用できるので、探査・掘削経費が不要になる。しかも温度と湧出量のデータさえあれば発電能力の試算ができるので、事業化も進めやすい。100℃以上の温泉を湧出する泉源があれば、地域レベルで電力自給できる温泉郷が相当な数に上るものと推測されている。
こうした情報と電力供給不安を背景に、地熱バイナリー発電導入の検討が全国各地の温泉組合や大手温泉旅館の間で進んでいる。
導入第一号は、温泉旅館
冒頭の神戸製鋼所マイクロバイナリーの導入第1号は、大分県由布市の大手温泉旅館だった。福島県福島市の土湯温泉にある温泉組合では、14年に500kW級の地熱バイナリー発電所を稼働させる計画を進めており、その後は発電能力を1000kW級に拡大、温泉郷全体の電力自給を目指している。
バイナリー発電装置供給側の動きも活発化している。神戸製鋼所のほかに、川崎重工が本格的な受注活動を開始している。このほか、JFEエンジニアリング、三菱重工、第一実業なども本格参入の構えを見せており、全国各地のバイナリー発電導入プロジェクトに積極的に参加している。
バイナリー発電は毎日運転開始と停止を繰り返すDSS運転(Daily Start and Stop)も容易にできるため、工場などの操業時間に合わせた発電もできる。このため、現在は利用方法のない一般工場、清掃工場、地下鉄などの排熱も、今後はバイナリー発電の熱源として利用が急速に拡大しそうな気配を見せている。
バイナリー発電がすでに普及している欧州と比べると、日本のバイナリー発電は「今頃?」の感が否めない。
未利用熱エネルギーに関する国の施策が、下水や河川水の「温度差発電」など技術的に実現が困難な案件に偏り、バイナリー発電のような実現が容易な案件にはほとんど目を向けなかったせいもある。
関係者の間では、再生エネの中で最も地域分散型電源に適しているとの見方も多い。
地熱発電から地熱バイナリー発電へと、まるで「瓢箪から駒」みたいな話だが、着実で手頃な電源として需要が本格化するのは間違いないと思われる。
(文=福井晋/フリーライター)
http://biz-journal.jp/2012/09/post_696.html