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三重・「ウィンドパーク笠取」の風車落下事故概要が明らかに、アルミ合金製の部品が硬度不足 シーテック報告書(スマート・ジャパン)

2013-06-21 16:49:01

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風力発電設備の破損・落下状況。出典:シーテック
風力発電設備の破損・落下状況。出典:シーテック

三重県の青山高原で4月に発生した大型風車の破損・落下事故に関して、事業者のシーテックが調査結果の最終報告書を公表した。風車を制御する部品の一部が硬度の低い素材で製造されていて、異常な摩耗が生じていたことが原因だった。さらに風車の過剰な回転を防止する安全機能が不完全だったことも判明した。[石田雅也,スマートジャパン]


国内有数の規模を誇る「ウインドパーク笠取発電所」で4月7日(日)に発生した大型風車の破損・落下事故は、関係者のみならず全国の事業者や自治体に大きな衝撃を与えた。事故発生から2か月あまり経過して、発電所を運営するシーテックが専門家を交えた事故調査委員会の最終報告書を公表した。事故原因の分析結果と対策の実施状況が明らかになった。windceatec2_sj

 ウインドパーク笠取は三重県の津市と伊賀市にまたがる青山高原の一帯に、出力2MW(メガワット)の大型風車19機を配置した大規模な風力発電所である。このうち最も東側にある19号機で、4月7日の午後に事故が発生した。

 事故が起きた当時は発達した低気圧が通過中で、瞬間風速が毎秒40メートルを超える猛烈な風が吹き荒れていた。その強風にあおられて、直径83メートルの風車が破損し、発電設備ごと地上に落下してしまった。3枚ある風車の羽根(ブレード)は分断され、60メートル先まで飛び散っている。幸いなことに高原の中で人家に被害はなかった。

風車が毎秒1回転する危険な状態に


 一般的に風力発電設備は3つの主要な装置で構成する。発電機を内蔵した「ナセル」を中核に、風を受けて回転する「ブレード」と、ナセルの支柱になる「タワー」である。事故が起きた19号機では、タワーだけを残して、ナセルとブレードが引きちぎられたような状態で落下していた(一番目の図)。

当日の稼働状況を見ると、最初にアラームが出たのは昼の12時28分である(二番目の図)。ウインドパーク笠取の風力発電設備では、3秒間の平均風速が毎秒30メートルを超えるか、10分間の平均風速が毎秒25メートルを超えると、運転停止状態に移行するようになっている。ブレードを風下側にほぼ90度回転させることで、風車が回らないようにする。

実際にアラームを受けてブレードは運転停止状態に移行し、その後も風速に合わせてブレードの向きを適正に制御できていた。問題が発生したのは夕方の16時01分で、ブレードの1つが運転停止状態(フェザリング・モード)から通常の運転状態(ファイン・モード)に戻り、風車が回転を始めてしまった。

 続いて残りの2つのブレードも運転状態に移って、16時36分に発電機が過回転を起こす。その直後に安全装置が作動したものの、発電機を内蔵したナセルに異常な振動が起こり、16時37分には地上の変圧器が故障して電力が遮断された。この直前にナセルやブレードが落下したと考えられる。

 3枚のブレードの状況を見ると、異常が検知された16時01分に「ブレード1」の向きが運転停止状態の90度から変化し始めて、風車が回り出した。その後に「ブレード2」と「ブレード3」も90度の状態を維持できなくなり、風車の回転数がどんどん上がって、問題の16時36分には1分あたり19回転を超える「過回転」の状態に突入した。windceatec6_sj

ブレードやナセルが落下する直前には毎分57回転を超え、ほぼ1秒で1回転する危険な状況が起きていた。直径83メートルもある大型の風車が1秒間に1回転する光景は想像を絶するものがある。

 風圧に加えて過剰な回転による揚力が生じた結果、ブレードがタワーの方向に傾いてタワーに接触した。その衝撃でナセルとタワーの接合部分が破損して、ブレードとナセルが脱落したものと推定されている。

19機のうち9機でアルミ合金製の部品を使用


 一連の経過を見れば、事故の発端は3枚のブレードのひとつ「ブレード1」にあることが想定できる。強風時にブレードの角度を制御するのは「ピッチモーターブレーキ」と呼ぶ装置で、ブレードごとに1台ずつ付いている。回収したピッチモーターブレーキを調べたところ、ブレード1のモーター部分が大きく破損していた(三番目の図)。

 さらに、ブレードの角度を保持するためのブレーキの内部にも異常が見つかった。重要な部品のひとつに円形状の「スプライン」があるが、その周囲に付いている歯の部分が摩耗していた。しかも3つのブレード用のブレーキすべてのスプラインに摩耗が見られた。摩耗した状態のスプラインが強風による振動に耐えられなくなったことが原因で、ブレーキが働かなくなり、ブレードの角度を保持できなくなった可能性が極めて大きい。

 異常が見つかったスプラインは2つの部品(オスとメス)を組み合わせて作られている。事故が起きた19号機のスプラインは、オス側が鉄を主成分にした鋼製だったのに対して、メス側はアルミ合金製になっていた。アルミ合金は鋼と比べて硬度が半分程度しかなく、硬度の差によって摩耗が進んだと考えられる。

 19機すべての発電設備を調べたところ、1号機~10号機はメス側も鋼製で異常はなかったが、11号機~19号機はアルミ合金製だったことが判明した。報告書に記載はないが、おそらく事故機のほかにもアルミ合金製の部品に摩耗が見つかった可能性は大きい。シーテックは4月中に、硬度の高いステンレス製の部品に交換を済ませている。

なぜ硬度の低いアルミ合金を一部の発電設備に使っていたのか、製造元の日本製鋼所は理由を明らかにしていない。1号機~10号機は2010年2月に運転を開始し、11号機~19号機は同年12月に動き始めている。わずか10か月の違いで部品の素材が変わっている事態は不可解だ。

 日本製鋼所によると、事故機と同型のピッチモーターブレーキを搭載している発電設備はウインドパーク笠取のほかにも使われていた。すべての該当する設備で同様にステンレス製の部品に交換を済ませたという。

過回転を防止するはずの制御装置にも不具合windceatec11_sj


 事故機を検証した結果、別の重大な問題点も見つかった。風車の過回転を防止するために、1分間に3回転を超えると、回転数を抑えるための制御装置が働くことになっている。ところが、この装置も機能しなかった。

 風速によって過回転を防止するはずの制御装置が、実はピッチモーターブレーキからのデータをもとに作動するように設計されていた。事故当時はピッチモーターブレーキに異常が生じていたために、肝心の制御機能が働かず、風車が異常な速さで回転を続けてしまった。

 この問題点を解決する対策として、発電機を応用した新しい制御方法を追加することにした。モーターを使って発電機に逆方向のトルクを発生させて、回転数を抑える仕組みだ(4番目の図)。従来のピッチモーターブレーキによる制御と合わせて、今後は2通りの方法で過回転を防止できるようになる。

シーテックは事故の原因になったピッチモーターブレーキの安全対策と過回転防止機能の追加を6月中に完了させる予定である。事故機だけではなくウインドパーク笠取の19機すべてを対象に実施する。

 事故原因の分析と安全対策の実施をもとに、これから運転再開の時期を検討することになる。事前に地元の自治体や住民の理解を得る必要があり、難航することも予想される。風力発電は将来に向けた再生可能エネルギーとして期待が大きいだけに、万全の体制で運転を再開して、安定した稼働状態が長期にわたって続くことを願いたい。

http://www.itmedia.co.jp/smartjapan/articles/1306/21/news024.html

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