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ソーラー・インパルス、米横断飛行完了 人類の英知が技術を進める(National Geographic)

2013-07-09 10:57:12

横断飛行に挑戦中の「ソーラー・インパルス」。
横断飛行に挑戦中の「ソーラー・インパルス」。
横断飛行に挑戦中の「ソーラー・インパルス」。


米国東部夏時間の7月6日午前5時前、ソーラー飛行機「ソーラー・インパルス」がワシントンD.C.のダレス国際空港を離陸した。アンドレ・ボルシュベルク(Andre Borschberg)氏が操縦する飛行機は当初の予定を早め、同6日午後11時過ぎにニューヨーク市のジョン・F・ケネディ国際空港に到着した。

このフライトの成功により、ソーラー・インパルスは化石燃料を一滴も使わず、昼夜連続飛行でアメリカ横断に成功した史上初の飛行機となった。スイスのプロジェクトである同機は、米国時間2013年5月3日にカリフォルニア州サンフランシスコ近郊のモフェット飛行場からアメリカ横断飛行を開始し、アリゾナ州フェニックス、テキサス州ダラス、ミズーリ州セントルイス、オハイオ州シンシナティ、そしてワシントンD.C.を経由してきた。

アメリカ横断の道中は、南西部の猛暑や東海岸の雷雨、グレートプレーンズの竜巻が飛行機とクルーを悩ませた。2カ月に及んだアメリカ横断飛行は、次のさらに野心的な挑戦、すなわち世界一周への布石となる。世界一周飛行は2015年の予定だ。

ソーラー・インパルスを操縦するのは2人の経験豊かなスイス人パイロット、ベルトラン・ピカール(Bertrand Piccard)氏とアンドレ・ボルシュベルク氏だ。両氏は1飛行区間ごとに交代で操縦を担当しており、飛行の分野ではどちらも豊富な経験を持つ。ボルシュベルク氏は戦闘機パイロットでエンジニア、一方のピカール氏は医師であり、世界初の気球による無着陸世界一周を成功させた人物だ。

◆飛行機が完成するまで

両氏が設計した飛行機は、約1万2000個のシリコン太陽電池を搭載して4つの電気モーターの動力源とし、特製バッテリーに蓄えた電力でプロペラを回している。バッテリーの重さは電気自動車のバッテリー1台分に相当する約400キロで、機体総重量の25%以上を占める。

「普通の人ではこんな飛行機は作れなかった」と、ピカール氏は6月にバージニア州シャンティリーの国立航空宇宙博物館スティーブン・F・ウドバーヘイジー・センターで行われたインタビューで述べている。「必要だったのは全く異なる経験、全く異なる経歴を持つ2人の人間だ。ボルシュベルク氏はエンジニアで起業家。私は医師で冒険家。その2人がそろうことで、(技術的に)探るべき可能性のすべてを探ることが可能になる」。

両氏は、10年の歳月と1億1500万ドルの費用をかけて完成した飛行機の狭苦しいコックピットに交代で座っている。ソーラー・インパルスの巡航高度は2万8000フィート(約8500メートル)、最高速度は自力で約43ノット(時速80キロ)、強い追い風を受けると約86ノット(時速160キロ)に達する。

◆実験的な飛行機

あくまで実験的な飛行機のため、アメリカ連邦航空局(FAA)の規制により、ソーラー・インパルスは他の航空機が離陸する前の早朝の時間帯に離陸しなければならない。同様に、着陸するのも他の航空機が着陸した後でなければならない。そのため、ジョン・F・ケネディ国際空港へ向かって離陸後、上空で最大24時間の旋回飛行を行う必要がある。

「われわれは到着を急いでいない」とピカール氏は述べる。「問題は、いかに今その瞬間を楽しみながら目的地を目指せるかということだ」。

ピカール氏とボルシュベルク氏は、時間つぶしにコックピットに音楽を持ち込んでいる。ピカール氏の好みはクラシックロックとオペラ。ボルシュベルク氏は歌手エンヤとカントリー音楽のファンだ。また彼らには、ユニークな飛行機を操縦する楽しみもある。

「燃料を使わない飛行機を飛ばすというのは本当に素晴らしい体験だ」とボルシュベルク氏は述べる。「うるさい音がしない。(中略)それに空の上にいると、実にいろいろなことを考える」。

中でもボルシュベルク氏の頭を占めている考えは、今回のアメリカ横断飛行でチームが学んだことを、2015年に計画している世界一周飛行にどのように活かすかということだ。

世界一周のフライト中、パイロットは4~5日間連続で狭いコックピットに座っていなくてはならない。食事をどうするか、いつ睡眠をとるか、どうやって起きているかといった問題をこれから解決しなくてはならないとピカール氏は述べている。

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20130708001