一般社団法人環境金融研究機構 | Research Institute for Environmental Finance: RIEF

アメリカのバラク・オバマ大統領は来週、発電所の二酸化炭素（CO2）排出に対する新たな規制案を発表する予定だ。オバマ政権にとって気候変動に関する最も重要な政策だが、その内容をめぐって早くも政治的なバトルが繰り広げられている。

 

アメリカ環境保護庁（EPA）で審議中の規制案は、既存発電所に排出削減目標を設定し、基準達成に向けたプラン策定を各州に委任する内容になりそうだ。具体的には、効率性向上や既存発電所の改良、再生可能エネルギーや天然ガスによるエネルギー生産の促進などが予想されている。

EPAは昨秋、新設発電所に対する規制案を発表。一方、国内エネルギー関連排出量の39％を占める既存設備からの排出規制案は、かなり大きな影響をもたらす可能性がある。特に、電力分野で4分の3を排出する石炭業界や、石炭火力に大きく依存するケンタッキーやウェストバージニアなどの州は、最も深刻な打撃を受ける立場にある。

オバマ氏にとっても思い切った決断だ。大気中のCO2レベル上昇を押さえる重要な対策を取ると誓約してきたが、共和党が主導権を握る連邦下院で気候変動関連の重要法案が通過するチャンスはほとんどない。

6月2日の発表に先立ちアメリカ政府は、国内における気候変動の影響について総合的な評価を発表。報告書では、「異常気象や食料・水不足、健康問題、その他の社会変化をもたらす影響のリスクは、気候変動によって高まりつつある」という専門家の警告に同調している。

科学界とは裏腹に政治家や利益団体の間では、気候変動や政府の関与度について大きく意見が分かれている。民主党や環境保護団体はオバマ氏を支持しているが、共和党や企業寄りの団体は新たな規制は行き過ぎと非難する。

今週、利益団体やアナリストたちが、オバマ政権の計画を賞賛あるいは非難するレポートを相次いで発表。ワシントンでは、両者の亀裂が顕著になっている。

ウェストバージニア州、「Charleston Gazette」紙のケン・ワード・Jr.（Ken Ward Jr.）記者は、先週Twitterで投稿。「手を挙げてください：EPAの発電所に関する排出規制について来週レポートを発表する“予定のない”人はいますか？」。

 

◆「極めて重要な戦い」

オバマ氏の規制案の代表的な賛同者は、ニューヨークに本拠を置く環境保護団体、天然資源保護協会（NRDC）だ。独自の公害防止プランが規制案の原型になっていることは広く知られている。

NRDCが5月28日に開催した説明会で、政府関連担当ディレクターのデイビッド・ゴールドストン（David Goldston）氏は、「CO2排出削減を目指す今度の規制案により、気候変動に関する極めて重要な政治的バトルの幕が開く。“気候”が国家的な問題として中心になるのは、本当に初めてのことだ」と話す。

NRDCの説明によると、新たな規制案が実施された場合、2020年までのCO2汚染レベルは2005年の水準から35％低下。呼吸器系疾患による数千人の早世も予防できる。消費者が支払う電気料金も下がり、エネルギー効率化や再生可能エネルギー分野で最大1210億ドルの投資が促進されるという。

一方、企業寄りのアメリカ商工会議所はNRDCの提案を土台として、EPAの規制案に対するかなり後ろ向きな評価を発表した。新規制は「景気拡大よりも規制順守の取り組みに費用がかかるため」、アメリカ経済の生産力は500億ドル以上低下。22万4千人の雇用が失われ、今後15年間の消費者負担は毎年170億ドルに上ると予測している。

アメリカ商工会議所・21世紀エネルギー研究所（Institute for 21st Century Energy）所長兼CEOカレン・ハーバート（Karen Harbert）氏は、次のようにコメントしている。「われわれの分析によると、電力コスト負担は大幅に増えるはずだ。景気が減速し雇用が縮小すれば、可処分所得も低下することになる。国民に犠牲を強いてCO2排出がわずかに減少したとしても、中国をはじめとする世界全体の排出増加に打ち消されてしまうだろう」。

 

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20140530005