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護衛艦への照射公表は 安倍政権が 練りに練った“対中宣伝戦”(杉浦正章ブログ:東アジア共同体評議会)

2013-02-10 00:03:23

小野寺防衛相
小野寺防衛相
小野寺防衛相


中国海軍の火器管制レーダーによるヘリ、護衛艦への照射は、過去に何度も行われていたことが、2月7日になって判明してきた。恒常化していたという説すらある。それをなぜ安倍政権になって問題視して、突如公表に踏み切ったのか。背景には一体何があったのか。それは1月18日の照射以来、練りに練った首相・安倍晋三の“対中宣伝戦略”があったのだ。 国際的に中国の“非常識”さを露呈させ、今月下旬に予定される大統領・オバマとの会談を意識し、日米安保体制再構築への布石を打ったのだ。米国防長官・パネッタの強い中国批判は、見事に安倍の狙いが当たったことを意味する。野党もマスコミも防衛相・小野寺五典に対する突っ込みが足りない。発言をすべてうのみにしている。小野寺は1月19日のヘリへの照射については、即日報告があり、官邸にも伝えたことを明らかにした。ところが、30日の照射については、7日の予算委で「5日に知った」と明言した。すぐに生ずる疑問は、なぜ19日には直ちに報告を受けて、30日は6日遅れであったのかだ。核心は、小野寺もマスコミも火器管制レーダーの仕組みを知らない点にある。照射を受けると、登載装置は通常の捜索レーダーと識別して、即時に警報が鳴るのだ。防衛省幹部は「誤認はあり得ない」という。それはそうだろう。誤認するようでは兵器とは言えない。それにもかかわらず、“分析”を続けたという背景には、明らかに政治の“関与”が存在するのだ。「ちょっと待て、公表の機会を狙う」という判断だ。

そもそも過去においては、2005年から中国戦艦は自衛隊機や艦船に対して照射を続けており、過去に国会でも取り上げられているのだ。2005年のケースは、哨戒機P3Cに対する照射だ。政府は衆院安保委で、同機への照射について「航空機に対して当然中国艦艇は対空レーダーを用いて照準を合わせる。それに対して自動的に探知するESM(エレクトロニック・サポート・メジャー)という装置があって、これで大体照準が合わされたかどうかということについてはわかるようなっている」と答弁している。また2010年4月の民主党政権時代にも、中国海軍の駆逐艦がやはりP3Cに速射砲の照準を合わせた。照準は当然火器管制レーダーによって合わせるから、P3Cはこれを感知している。

 

さらに加えて、自衛隊の元海幕長が、BSフジで6日「中国は、レーダー照射しても日本政府が公表すると思わなかった。なぜかと言えば、いままで3年間は公表してなかったからだ」と過去の照射を明言している。前首相・野田佳彦が民主党政権時代にも照射があったことについて、「事実無根であり、極めて遺憾だ」と怒っているが、自分に報告が上がっていなかっただけのことだ。要するに、極めて“日常行為”的に照射をしていた可能性がある。その証拠に艦砲はヘリにも護衛艦にも向けられていなかったのだ。

こうして安倍は、5日と狙いをつけて、公表に踏み切った。衆院予算委が7日から始まる時期を狙い、政府ペースで論争を運ぶ意図が見られる。では、過去に小泉純一郎も鳩山由紀夫も事実上の無反応であったのに、どうして安倍政権が鬼の首を取ったかのように取り上げたかである。最大の理由は、“タカ派”の首相の意志が働いたということであろう。安倍の姿勢は、対中強硬路線であり、強硬姿勢の中で隘路を見出して行くのが基本だ。甘い顔をして、3月に国家主席になる習近平に「日本くみしやすし」と受け取られまいとする姿勢だ。さらに尖閣の緊迫した情勢がある。恒常化していても、国際常識ではレーダーの照射は「模擬攻撃」に当たるとされている。戦端の口火を切ることになる行為を無視するわけにはいかなくなったのだ。まかり間違えば、偶発戦争になりかねない中で、未然に防止する必要があったのだ。

そして最大の理由は、オバマとの会談を前にした国際世論の形成にある。中国の“悪らつさ”を浮き彫りにして、それにもかかわらず日本は我慢している、という構図を作り上げようとしたのだ。これだけの“総合戦略”を練り上げるには、6日くらいはかかるだろう。見事に図に当たって、米側の反応は中国非難に向かった。パネッタは講演で「中国は他国を脅かし、領土を追い求め、紛争を生み出すような国になるべきではない」と名指しで、中国批判を展開した。米国では「日本は、中国のレーダー照射にもかかわらず、よく我慢して、反撃に出なかった」という信頼感が報じられている。

 

国務省のメア元日本部長は「米軍であれば、攻撃と判断して反撃する」と述べている。こうして安倍は、訪米による日米同盟再構築に願ってもない材料を入手した。また国際社会への宣伝戦においても、中国の傍若無人ぶりを際立たせた。習近平が直接かかわっているか、軍の暴走か、は別として、軍にしてみれば、普通にやっていた敵情偵察のための照射が、これによって不可能になったことを意味する。中国海軍は、次に照射をすれば、それは確信的な照射となり、武力衝突になり得ると感じたはずだからだ。

 

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