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米下院、カーボン税反対決議を賛成多数で了承。反温暖化対策ではトランプ政権と共和党議会の歩調の一致を強調。ただ、共同提案者は激減。温暖化現象の世界的拡大を懸念か(RIEF)

2018-07-23 10:28:26

トランプ大統領(中央)と談笑する下院議長のポール・ライアン氏(右隣り)

 

   米下院は先週、共和党議員が提案したカーボン税導入反対決議を賛成多数で可決した。決議案は2013年、16年にも同様の内容で提案され、共和党多数の下院で可決されている。温暖化対策の緩和を進めているトランプ政権下での可決は予想通り。温暖化対策については米議会共和党と、トランプ政権の歩調がぴったり合っていることを再確認した形だ。

 

 今回の決議案はルイジアナ州選出の共和党議員スティーブ・スカリス議員による提案。決議案は、①カーボン税は、ガソリン価格のほか、電気やガス料金、家庭の暖房オイル等のエネルギー価格を引き上げる②家庭や消費者の日常生活に影響を及ぼす③貧困層や高齢者等の収入が固定している人々への影響が大きい④カーボン税が課税されると雇用やビジネスが海外に移転し、経済成長を鈍化させる――などを指摘している。

 

 決議案が掲げる反対理由の多くは、日本で現在、導入されている温暖化対策税や、新たに環境省等が導入を目指しているカーボン税に反対する経団連などの意見と類似する内容でもある。世論調査によると、トランプ支持者の62%はカーボン税反対の立場という。

 

反カーボン税決議を提案したスカリス議員(真ん中)
 反カーボン税決議を提案したスカリス議員(真ん中)

 

 決議案に対して下院の多数を占める共和党議員の97%が賛成、6議員が反対もしくは棄権の立場をとった。下院の民主党議員は96%が反対で、化石燃料団体を支持基盤に持つ6人が賛成に回った。民主党の過去の反対比率は、2013年が94%、16年が96%だった。

 

 ただ、同決議案に対する共同賛同者の数は、2013年の155人から、16年には82人、今回は48人と、毎回、半減近く減っている点は見逃せない。5年間で積極的賛同者数がほぼ7割減ったことにもなる。温暖化の進展に伴って生じる世界的な気候変動現象を目の当たりにして、議員たちの間にも、躊躇する気持ちが広がっているとの見方もできる。

 

 一方、温暖化対策を推進する米議会超党派の「Climate Solutions Caucus」のリーダーであるフロリダ州選出の共和党議員、カルロス・クルベーロ氏は、今週中にも決議案に対抗する形で、カーボン税の導入法案を提案する見通しだ。

 

 カーボン税が経済に及ぼす影響については、スタンフォード大学を中心とした11機関による「スタンフォード・エネルギー・モデリング・フォーラム(SEMF)」が直近、カーボン税で徴収した税収を温暖化対策を推進する企業や消費者のリベートの形で還付したり、所得税とのオフセットの形をとることで、経済には中立的な影響しか与えない、との報告書を公表している。

 

 一方で、グローバルな温暖化の進展による気候変動の影響で、日本の集中豪雨被害や、欧米での熱波被害、太平洋島の島嶼部諸国での海面上昇等の経済的コストの上昇が高まっている。

 

 スタンフォード大学のマーシャル・バーク教授の分析では、世界の気温上昇がパリ協定で目標とする産業革命前からの1.5℃上昇に抑制できた場合、2100年までの世界経済の成長は、2℃上昇の場合に比べて、約20兆㌦(約2200兆円)以上を節約できると推計している。そのための費用は3000億㌦で、約70分の1で済むことになる。

 

 この推計は、気温上昇による影響だけに限っており、これ以外に海面上昇等による地球規模の損傷コストを考慮すれば、温暖化対策コストの費用対効果はさらに高まることになる。しかし、政治的判断に際して、こうした推計が考慮されるケースが少ない、という点も日米では似ているようだ。

 

https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-concurrent-resolution/119/text

https://www.nature.com/articles/s41586-018-0071-9.epdf

https://www.theguardian.com/environment/climate-consensus-97-per-cent/2018/jul/20/97-of-house-republicans-foolishly-reject-carbon-taxes