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欧州北海周辺で座礁したクジラの胃から、自動車部品、漁網、バケツなど大量のプラスチックごみ。(National Geographic) みんな人間の不始末の結果。人類は「地球の敵」なのかもしれない

2016-04-06 00:41:27

Whales2キャプチャ

 

 北海周辺でクジラの座礁が相次いでいる。2016年に入ってこれまでに30頭以上のマッコウクジラが英国、オランダ、フランス、デンマーク、ドイツの海岸に打ち上げられたことが確認されている。うち13頭が、ドイツのシュレスウィヒ=ホルシュタイン州付近で見つかったものだ。(参考記事:「イルカ・クジラの「潜水病」、集団座礁の一因か」

 

 研究者がドイツで座礁したクジラを解剖したところ、4頭の胃の中に大量のプラスチックごみが見つかった。シュレスウィヒ=ホルシュタイン州のワッデン海国立公園のプレスリリースによると、ごみには、長さ13mのエビ漁網、プラスチックでできた自動車のエンジンカバー、バケツの残骸なども含まれていた。

 

「死因は海洋ごみではない」

 

 しかし、マッコウクジラの解剖を行ったハノーファー獣医科大学陸上・海洋野生動物研究所のウルスラ・シーベルト所長は、「海洋ごみは座礁の直接的な原因ではありません」と言う。研究者たちは、クジラはたまたま浅い海に入り込んでしまったせいで死んだのだろうと推測している。(参考記事:「DVDケースがクジラを殺した」

 

whalesキャプチャ

 

 オスのマッコウクジラは、通常、熱帯や亜熱帯の海で繁殖し、より高緯度の冷たい海へと移動する。マッコウクジラはクジラ目の中で最も深くまで潜水することができ、好物のイカを求めて水深1000mまで潜ることが知られている。

 

 座礁したクジラはいずれも10~15歳の若いオスで、解剖の結果、死因は心不全であることが確認された。研究チームは、この集団は誤って北海の浅いところに入り込んでしまったのだろうと考えている。英国とノルウェーの間の海域は浅いので、いったん座礁するとクジラは自分自身の体重を支えることができなくなり、内臓が潰れてしまう。

 

 クジラとイルカの保護活動を行っている非営利団体WDC(Whale and Dolphin Conservation)のスポークスマンであるダニー・グローブズ氏は、マッコウクジラは(おそらくイカを追いかけているうちに)浅い北海に迷い込み、見当識障害(自身の置かれている状況を理解できなくなる障害)を起こして死んだのだろうと考えている。(参考記事:「パタゴニアでクジラが謎の大量死」

 

人間に対する非難

 

 WDCによると、クジラやイルカは、船舶や掘削調査の騒音や、地球の磁場のわずかな変化など、多くの理由で座礁する。また、3年前にスコットランド沖で座礁したゴンドウクジラの死骸からは海洋汚染を原因とする高濃度の毒素が検出された。科学者たちは、この毒素がクジラの脳に影響を及ぼし、見当識障害を引き起こした可能性があるとしている。

 

 今回の座礁については、地元の天候の変化も影響したようだ。「現時点で可能性が高いと考えられるのは、北大西洋がふだんとは違った状態になっていて、海水温や餌の分布、嵐の活動に影響を及ぼしたのかもしれないということです」とシーベルト氏。

 

 死の時点では、クジラたちの健康状態は良好で、胃の中には、プラスチックごみのほかにイカのくちばしが大量に入っていた。シーベルト氏は、このクジラたちが今回死なずにすんでいたら、将来、胃の中のごみが消化器系の問題を引き起こしたかもしれないと言う。

 

 クジラやイルカが大量の海洋ごみを食べると、消化器系が物理的に損傷されるほか、胃の中のごみのせいで空腹を感じなくなり、餌をとらなくなって栄養失調に陥る可能性もある。

 

 カナダ、ダルハウジー大学のクジラ研究者ハル・ホワイトヘッド氏は、クジラの胃の中のプラスチックごみは、クジラの直接の死因ではなかったかもしれないが、「人間に対する恐ろしい非難です」と言う。

 

 19世紀から20世紀にかけて、マッコウクジラは脳油や脂肪をとるために容赦なく殺されていたが、1980年代末までにこのような捕鯨は下火になった。大規模な商業捕鯨が終わったことで、世界のクジラの生息数は増加したが、クジラたちがいまだに船舶との衝突、漁網、海洋汚染などの脅威にさらされていることは明らかだ。(参考記事:「ノルウェー 消えゆくクジラ捕り」

文=Wajeeha Malik/訳=三枝小夜子

http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/040400121/