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「2016年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー① 大賞の損害保険ジャパン日本興亜。「東南アジア農家の自然災害対策と保険意識向上を後押し」(RIEF)

2017-02-13 18:23:05

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 環境金融研究機構(RIEF)は「第2回サステナブルファイナンス大賞」で9つの金融機関等を表彰した。受賞した各機関の担当の方々に、活動内容の紹介とともに、今後の展開などを聞いた。第一回は、「東南アジアにおける農業従事者向け天候インデックス保険の展開」で2016年の大賞を受賞した損害保険ジャパン日本興亜の氏家佳世子CSR室長、島村祐次企業商品業務部リスクソリューショングループ・グループリーダーら。

 

――大賞おめでとうございます。東南アジアで農家向けの天候インデックス保険の提供を2010年からやっておられますが、きっかけは。

 

氏家:2007年に国際協力銀行(JBIC)主催の研究会にわが社も参加しました。そこで、気候変動に対する適応策の一つとして、天候インデックス保険の活用が取り上げられたのです。その実証プロジェクトとして、タイ東北部で同保険の開発・販売を検討するようになりました。

 

 タイの東北部が選ばれた理由は、「農業が主要産業であり、灌漑設備の未整備、気象データの十分な蓄積、貧困層が多く保険の効果が大きい」などの要因があったからです。われわれが実施した地元の農家に対するヒアリング調査でも、干ばつ被害が一番大きいリスクということもわかりました。そこで、われわれが試験的に実施することになりました。

 

――すんなりいけましたか。

 

島村:検討が2007年で、販売したのが2010年ですから、時間はかかりました。その間、現地で何が問題になっているかを議論して進めていきました。自然災害による農業被害を補償する保険として、まず伝統的な農業保険が考えられます。しかし、伝統的な農業保険では、損害調査の方法や、調査するためのマンパワーを要するなどの課題が出てきて、ハードルが高くなってしまいます。

 

 そこで、天候インデックス保険を検討したのです。日本では、天候不順により収益が変動する企業向けに、事前に定めた天候の条件を満たした場合に一定額をお支払いする天候デリバティブといった金融商品がありますが、それと類似した商品です。

 

 この商品は、極端な気象現象によって収益減少や費用増大といった被害を受けた場合の損害に対応できます。また、保険金の支払いの際に損害の調査を必要とせず、早く保険金を受け取ることができるといった特長があり、契約者にとっても、わかりやすい仕組みで手軽に入ることができます。損害調査などの保険に関するインフラが先進国と比較して成熟していない途上国において、われわれがどう適応できるかと考える中で、天候デリバティブに行き着きました。

 

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――現地での保険の販売は、パートナー企業と組みましたね。

 

氏家:JBICからの紹介で、現地の農業協働組合銀行(BAAC)と連携しました。このメリットとしては、現地の農家の人々は農作物の種や肥料を購入するためなどにBAACからローンを受けますが、その際に、融資窓口で天候インデックス保険も一緒に提供してもらうことができます。BAACへの窓口一本化ですね。これも現地の人の利便性を考えた措置です。

 

――保険に対する現地の人の理解はどうでしたか。

 

島村:タイの場合でも、保険の普及率という点ではまだまだです。農村部での普及率は数%程度だと思います。現在も、その点は依然として課題です。普及が進まない理由はいくつかあると思います。一つは、保険料の負担もあります。保険金を支払った翌年はまた入る場合が多いですが、保険金が支払われなかった年(干ばつが発生しなかった年)の翌年になると、また加入率が下がるケースが今もあります。

 

――現地で保険の考え方を理解してもらうため、農民の方向けの勉強会等も開催したと聞きます。手応えはどうでしたか。

 

島村:最初は苦労しました。ただ、伝統的な農業保険を説明するよりは、農民の方々に理解してもらえたと思います。通常の保険の場合は、損害額を補填するわけですが、その損害額を計算して説明するよりも、損害額の多寡にかかわらず、雨の量で一定額が支払われるほうがわかりやすいようです。農業保険では損害の判定等が難しくて、トラブルになるケースも少なくありません。

 

氏家:農業保険との比較では、天候インデックス保険は支払いが定額であるほか、一定の条件になれば払うという仕組みなので、農家の人たちも自然災害が遭った時に、保険金が入ることがわかりやすいのではないでしょうか。保険の設計が良かったと思います。

 

――タイでは保険提供から今年で7年目に入ります。広がりはどうですか。

 

島村:最初はコーンケン1県でしたが、現在は、タイ東北部の20県の全域で販売しています。保険契約件数は多い年で、数千件くらいで、なかなかビジネスとしては厳しいですが、長期的な目線で取り組んでいます。

 

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――タイの地元の保険会社は、こうした保険を現地で提供しないのですか。ビジネスとして難しくてもCSRや社会貢献の観点も、地元企業にもあると思うのですが。

 

島村:タイに限らず、世界でいろんな途上国向けの気候変動に対する適応策関連のプロジェクトがあり、実際に各地でやっていますが、持続的に成功しているケースは、実はまだあまりないと思います。まだ手探りです。保険の場合、契約者が払う保険料を確保できるような、一定の寄付等がないと順調には回りにくいと思います。

 

氏家:基本的には脆弱な農家を対象とするマイクロインシュアランスです。件数は別として、こうした脆弱な農家の方のレスキューという意味では、保険会社としての責任から、そのような人たちに対して本業を通じた支援につながっているため、会社にとっても、いい貢献活動と思っています。

 

――保険会社にとって、支払いを判断するための気象データの把握が大事だと思いますが、タイでは気象データは整備されていましたか。

 

郷原健(リスクソリューショングループ課長代理):タイの気象データはしっかりそろっていました。しかし、その後に展開を検討したミャンマーでは、気象観測所などのインフラが十分ではなかったので、衛星データを活用することにしました。2014年12月に、一般財団法人リモートセンシング技術センター(RESTEC)と共同で衛星データを活用した天候インデックス保険のプロトタイプを開発しました。これは日本初の試みです。

 

島村:ミャンマーでは、いったんプロトタイプを開発した後、販売に向けて現地政府と協議を継続しています。商品としては、タイと同じく、干ばつに対する保険で、現地の稲作農家や、ゴマ栽培農家を対象にすることを検討しています。

 

――タイの次にフィリピンで展開しましたね。

 

島村:現地から台風被害の話があって、現地法人を通じて、こちらに相談があったのが、2013年でした。フィリピンでは、台風の通過をトリガーにした天候インデックス保険を販売しています。台風の場合、日本にデータがあるため気象データがないといった問題もありません。対象は、南部のミンダナオ島でバナナ等の大規模農業を展開している事業者です。

 

 まだ試行錯誤の段階です。台風被害対策なのですが、実は、ミンダナオ島は赤道に近く、一般的には台風はあまり来襲しません。その本来、来ないはずの台風が最近は時々通過や接近したりするので、それによる被害をカバーする保険への期待が高まったのです。ここでも、伝統的な農業保険だと、損害額の把握などにおいて難しさがあったため、天候インデックス保険の開発を検討することになりました。

 

――インドネシアでも事業化の調査中ということですね。

 

島村:現在、国際協力事業機構(JICA)の支援を受けて調査をしています。インドネシアは、なかなか気象条件が難しく、一筋縄ではいかないところがあります。気象を観測できるポイントと、事業を行いたい場所が距離的に離れていて、うまく適用できないとか、あるいは現地のパートナー企業の営業地域と、保険の対象とする地域が重ならないなどの課題もあります。保険の補償対象が干ばつという点ではタイやミャンマーと同じです。

 

――現在の課題と、今後の展開の見通しを教えてください。

 

島村:タイでは総理大臣賞も現地で受賞しました。ただ、こうした活動が現地の国全体で伝わっているかというと、どうでしょうか。何よりも、保険教育が大事だと思います。まずは東南アジアの国々で広げて行きたいですが、それ以外の地域の国からも相談は入ってきています。また、官民協力という観点から、政府機関や国際機関などともコンタクトしています。

 

氏家:2013年には、新たにスタートした「太平洋島嶼国自然災害リスク保険パイロット・プログラム」に参加しました。日本政府と世界銀行などが協力して、かならずしも十分なデータがあるわけでない中で、意欲的に設立したプログラムでしたが、当社はそこに参加者の中で最大の責任割合で協力させていただきました。自然災害の不確実性が増すなかで、これに適応する仕組みづくりを広く進めていくためには、官民の協力を深める必要があると思います。

                         (聞き手は、藤井良広)