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東京電力福島第一原発事故の全損害額 約13兆3000億円と推計。政府が用意した賠償・廃炉機構の支援額を上回る。今後も増額必至(RIEF)

2016-08-05 18:29:47

WNISRキャプチャ

 

 世界の原発の評価を毎年行なっている非営利組織の「世界原発産業ステータスレポート(World Nuclear Industry Status Report:WNISR)」は最新の2016版で、東京電力福島第一原発事故による損害額を約13兆3000億円(1330億ドル)と見積もる推計を公表した。政府が想定する賠償・廃炉機構の支援資金枠を超える。

 

 WNISRによると、13兆3000億円の内訳は、①事故を引き起こし核燃料が溶融している3機の廃炉と汚染水の管理コストが2兆円②賠償費用が7兆1000億円(法的費用は7兆7000億円)③浄化・除染費用が3兆6000億円。この推計には、事故による農作物輸出や観光客減少などの間接的な影響被害は含めていない。

 

 このうち①の廃炉・汚染水管理費用について東電は1兆円のリザーブを確保しているが、政府は今後10年間に追加で1兆円を積み増しするよう指示している。③については環境省の推計として、2兆5000億円分は浄化・除染費用で、残りの1兆1000億円分は中間貯蔵施設等の費用になる。

 

 日本政府は福島事故に伴う住民等への賠償資金支払いのため原子力損害賠償・廃炉支援機構によって、市中借り入れ4兆円、交付国債で9兆円という資金援助枠を設けている。今回のWNISRの推計額はこれらの総額を上回る。さらに同レポートは、政府が実施した住宅や町の除染等の作業について、効果を疑問視しており、引き続き追加の賠償、除染等の費用が増えるとみている。

 

 仮に今後、政府が追加の支援枠を設定したとしても、東電の返済能力には限りがある。現行の東電救済スキームの「非現実性」が露呈する形になりそうだ。政府は賠償・廃炉機構の資金枠以外に、福島事故の損害額の全体像の説明していない。このため、これまで民間等の推計として2014年に11兆円台の数字が示されていた。今回のWNISRの推計は、2年間で損害額が2割アップしたことになる。

 

 政府の計画では、東電に供与した国の資金は東電からの負担金等で回収するほか、機構が引き受けた東電株の売却益などで回収することになっている。会計検査院によると、上限9兆円の交付国債分の回収には、特別負担金を毎年500億円返済する場合で、最長で30年、最短で21年かかるという。

 

 WNISRでは2016年が東電福島原発事故から5年、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故から30年ということで、両事故を改めて比較している。ともに最悪の原発事故レベルだが、チェルノブイリは、放射性物質の排出・拡散で、セシウム136が福島の7倍、ヨウ素131が12倍、汚染された土地は50倍、放射線量では7-10倍、除染労働者は12倍、などと、いずれも東電事故を上回っている。

 

 事故時に避難した人の数は、東電事故のほうが多かったが、時間の経過とともにチェルノブイリからは強制避難等が増え、福島の3倍の避難者数となった。東電事故の場合、事故を起こした原子炉から放出された放射性物質の5分の4が海洋に流れたことで、陸上への影響が軽減された側面もある。

 

http://www.worldnuclearreport.org/