S&PグループのESG調査分析会社であるTrucostは、6月に金融安定理事会(FSB)の気候財務情報開示タスクフォース(TCFD)が報告した企業の気候変動による財務影響をシナリオ分析できるツールを開発した。同社では企業と投資家野両方に向けて提供していくとしている。
2017-08-21 08:09:43
S&PグループのESG調査分析会社であるTrucostは、6月に金融安定理事会(FSB)の気候財務情報開示タスクフォース(TCFD)が報告した企業の気候変動による財務影響をシナリオ分析できるツールを開発した。同社では企業と投資家野両方に向けて提供していくとしている。
TCFDの報告を元にして、特に活動領域の広いグローバル企業等の温暖化対応に焦点を合わせた新たなコンサルティングビジネスの一つといえる。狙いは「TCFD市場」である。
Trucost は、独立系のESG調査分析会社として知られてきたが、昨年、 S&P Dow Jones Indicesが買収、傘下に収めた。今回、S&Pの一員として開発したツールは、パリ協定の目標達成に向けて、各国で導入が予想される多様な規制に、企業が効率的な対応を迫られるニーズへの対応を目指すものだ。
ツールは、「The Corporate Carbon Pricing Tool」の名称。まず、個々の企業のCO2排出量と財務パフォーマンスのデータを踏まえ、企業の現状と潜在的なカーボンプライシング情報を推計する。個々の企業のカーボンプライシング情報は、当該企業が活動領域とする市場において、国や自治体がどのような温暖化対策(排出量規制、排出権取引、カーボン税等)をとるかによって異なる。このため、このツールでは、各地の130以上に及ぶ異なるカーボンプライシング制度を分析できるという。
ツールは当該企業の活動領域と整合的なカーボンプライシング制度に基づく影響評価を元にして、2030年に向けて、当該企業が晒される気候変動リスクを評価する3種類のシナリオ分析を行う。この点でTCFDの勧告を踏まえた財務的影響の評価ができるという。企業資産への影響分析、関連するサプライチェーンにおけるリスク評価もできるとしている。
Trucostの Corporate Business部門のGlobal責任者であるLibby Bernick氏は「企業は、自らが企業活動を展開する国、州、自治体での多様なカーボン規制に適合しなければならない」と指摘する。
これらの多様な規制は、企業のエネルギーコストを左右し、原材料調達に影響し、操業コストを増大させ、収益基盤の市場を減少させる。いずれも企業の本来業務に影響を及ぼす。このため、企業はエネルギー効率化や低炭素技術革新、再生エネルギー等への投資決断をするうえで、より正確な情報と分析を踏まえる必要が強まってくる。
また投資家も、投資対象企業の気候変動対応が妥当かどうかを判断するうえで、必要な情報にアクセスするツールとして活用できる、としている。特に企業株の評価や、銀行の融資ポートフォリオ分析に、このツールを売り込んでいくとしている。
ツールで可能な温暖化対策としては次のようなことを挙げている。
・企業全体および特定の地域活動の両面で、対応すべき温暖化政策と整合性のある一定の内部カーボン価格を決定できる。
・企業戦略上もっとも重要な地域において、低炭素イノベーションを導入する際の優先度をつけることができる。
・ライバル企業に対して、カーボン規制リスクのベンチマークを設定できる。
・カーボン価格の上昇に対応する2℃ストレステスト(シナリオ分析)を実施し、投資家の期待に応えることができる。
・操業コストや収益における気候変動の規制リスクの現状と将来の財務的意味合いを理解できるようになる。
https://www.trucost.com/trucost-news/trucost-launches-global-carbon-pricing-tool/
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日本外国特派員協会気付。環境金融研究機構(RIEF)藤井良広
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