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ティラーソン米国務長官、国連気候変動大使ポストの廃止を明言。気候変動国際交渉での米国の存在感低下が明瞭に(RIEF)

2017-09-02 08:25:54

tyrasonキャプチャ

 

  ティラーソン米国務長官は米議会に対して、米国が2009年以来、国連での気候変動交渉に派遣していた気候変動特別大使を廃止することを伝えた。すでにトランプ政権は米国のパリ協定からの離脱を宣言しており、改めて気候変動交渉を政策の優先課題の座から引き下げることを明確に示したことになる。

 

 ティーラーソン長官の方針は、上院の外交委員長のボブ・コーカー氏(共和党)の質問への回答書の形で公表された。ティラーソン長官は、現在、66ある特別大使のポストのうち36を廃止することを言明、その中に気候変動大使も含めた。

 

 特別大使廃止後の今後の気候変動国際交渉は、政府の海洋国際科学担当局(OES)が組織的に対応する。ティラーソン長官は特別大使ポストを選別する基準として「対象のテーマが特別な専任者をもはや必要としなくなっている場合は、担当部局が対応する。OESはそのミッションを十分に果たし得る」との見解を示した。

 

 トランプ政権はパリ協定からの離脱を宣言している。実際に協定から離脱するのは、4年後になるが、今後、OESの主な仕事は、4年後の離脱に向けた事務的な交渉や調整作業がメインになるとみられる。毎年開く国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP)への代表団派遣は継続する方針だが、代表団の規模は縮小される見通しだ。

 

 OESは現在、気候変動特別大使の事務所で勤務している7人のスタッフと、76万1000㌦の予算をともに吸収することになる。

 

 米国の気候変動特別大使のポストは、前任のオバマ大統領が2009年に設けた。初代はトッド・スターン氏で、パリ協定をはじめ、オバマ政権下での気候変動国際交渉を常にリードしてきた。同氏は昨年4月に退任、ジョナサン・パーシング氏に引き継がれたが、政権交代によってパーシング氏も今年1月に退任、現在までポストは空いた状態になっている。

 

 国務省スポークスマンは、今回のティラーソン長官による特別大使ポストの選別・整理は、政策の優先度を国家安全保障分野にシフトさせることを最重視したものと説明している。気候変動は国家安全問題ではないとの判断になる。だが、皮肉なことに、8月後半に米国南部地方を襲い、今も被害が続いているハリケーン・ハービーの猛威は、気候変動によって増幅されている可能性が高く、米国の国土と米国民の安全性を脅かしている。

 

 ハービーによる豪雨被害は、広範囲のコミュニティを水浸しにし、石油精製などの基幹産業を機能不全に陥らせた。被害額は2005年のハリケーン・カトリーナ時の被害に匹敵する額に膨れ上がりそうだ。気候変動の影響で増大するハリケーンの脅威に対しては、ミサイルや空母を増強しても全く歯が立たない。ティラーソン氏は「国家安全保障」の定義を見直すべきだろう。

 

 WRIの国際気候イニシアティブ担当のDavid Waskow氏は「気候変動特別大使の役割は、米国がグローバル国際協力において効果的な取り組みを果たす決意を世界に示す点にある。今回の決定はトランプ政権が、それとは逆方向に向かっていることを世界に示すことになる」と指摘している。

 

 これに対して、回答を受け取った質問者のコーカー氏は「これまで国務省には多くの特別大使が任命されてきたが、多くの場合、彼らの役目は良い結果をもたらすよりも悪い結果に至ってきた」と指摘、トランプ政権の「脱気候変動政策」を評価する姿勢を明瞭にしている。共和党の主流は、反気候変動なのである。

http://www.climatechangenews.com/2017/08/29/us-state-department-abolish-climate-change-envoy/