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三菱商事、三井物産、温暖化対策で圧力の強まる石炭火力向けの燃料炭開発から撤退。来年中に豪州の利権を売却。鉄鋼向け原料炭権益は継続。「脱石炭へ半歩前進」(各紙)

2018-12-24 23:51:59

MItubishishouji2キャプチャ

 

  三菱商事と三井物産は発電用の燃料用石炭の鉱山事業から撤退を表明した。それぞれオーストラリアに保有する燃料炭の鉱山権益を2019年にも売却する。ただ、鉄鋼用の原料炭は引き続き開発する。CO2排出量の多い石炭火力に対し、機関投資家などからの圧力が強まっていることを受け、「脱炭素」に半歩、踏み出した格好だ。だが、三菱商事の売却先には住友商事が加わっており、商社全体での脱炭素の方向性は定かではない。

 

 三菱商事は100%子会社の三菱デベロップメント社(Mitsubishi Development Pty Ltd、豪州ブリスベン)を通じて権益を保有する2つの一般炭資産を、スイスの資源商社グレンコアなどに総額7億500万豪㌦(約600億円)で売却することで合意した。19年中に売却完了する見通し。

 

 売却するのは一つは、クイーンズランド州のクレアモント炭鉱の権益(31.4%)。購入するのは住友商事とグレンコアが折半出資する共同運営会社のジーエスコール社。売却後の共同運営会社の権益比率は最大81.5%になる見込み。

 

 住商は「本合意により、本炭鉱から産出する高品位炭の既存需要家への供給継続を確たるものとし、エネルギー安全保障の観点も含め、エネルギーの安定供給に寄与していく」と述べている。気候変動については「重大な問題であるという認識」を示す、としている。

 

 三菱商事はもう一つのニューサウスウェールズ州のユーラン炭鉱権益(10%)については、 同炭鉱開発のパートナーである グレンコアコール社(グレンコアの100%子会社)に売却する。

 

 2鉱山では日本の年間の燃料炭輸入量の4%に相当する450万㌧を生産していた。三菱は今年前半にも豪州で別の燃料炭鉱山を売却しており、今回の売却で豪州での石炭資源の保有権益はゼロになる。

 

 一方、三井物産も同じ豪州で保有する燃料炭の鉱山権益を豪エネルギー企業のニューホープに2億1500万豪㌦(約170億円)で売却することを決めたと発表した。19年中にも手続きを終え、同社も燃料炭の豪州での鉱山権益はゼロとなる。同社は「今後一般炭は新規資産の積み増しを行わず、保有資産については、売却推進の可能性について徹底検証を継続的に実施する方針」としている。

 

 

 三菱商事、三井物産とも、これまで燃料炭を供給していた石炭火力発電保有の電力会社に対しては、引き続き市場で調達した燃料炭などを供給する。また、鉄鋼メーカー向けに供給している鉄鋼原料のコークスになる原料炭は、市場での代替がないことなどを理由として、引き続き鉱山権益を保有し続ける、としている。

 

 日本が2017年に輸入した石炭は1億9300万㌧。このうち燃料炭が過半の1億1500万㌧を占める。政府は今年に策定した第5次エネルギー基本計画で、2050年までに脱炭素化を進めるとしており、燃料炭の輸入量を減らす方針だ。

 

  国際エネルギー機関(IEA)によると、世界では新興国の経済成長などから、石炭由来のエネルギー需要量は40年まで減らない見通しだ。ただ、再エネや天然ガスの使用が伸びるため、エネルギー全体に占める石炭の比率は16年の27%から40年に22%まで低下すると予測している。

 

 報道によると、三井物産の安永竜夫社長は「環境配慮の流れが強まり、炭鉱が投資を回収できなくなる『座礁資産』になるリスクがあった」と話しているという。

 

 世界の資源エネルギー業界では「脱石炭化」の流れが加速している。豪英リオ・ティントは今年3月に豪州の炭鉱を22億5000万㌦で売却し、石炭資産を持たない初の資源メジャーになった。豪複合企業ウェスファーマーズも石炭から撤退する方針を打ち出している。

 

 日本の商社は内外で発電事業も手掛けているが、その発電事業でも脱石炭化が進んでいる。日本の商社で最大の石炭火力発電を展開する丸紅は、環境NGOなど激しい指摘を受けたこともあり、石炭火力新設をやめる方針を打ち出している。既存の石炭火力についても30年までに半減させる方針だ。代わりに、再エネ発電の比率を2023年までに現状の1割から2割へと引き上げる。

 

  住友商事も、石炭火力を減らし再エネを増やす方針で、宮城県で進めている石炭とバイオマス(生物資源)を混ぜて燃やす火力発電所計画は、燃料をバイオマス専焼に切り替えた。

 

 ただ、日本勢は比較的CO2の排出量が少ない「超々臨界圧火力発電所(USC)」の建設開発は続ける方針で、環境NGOは警戒を強めている。3メガバンクなども石炭向け融資のUSC向けは引き続き融資する方針で、商社と歩調を合わせている。

 

 しかし、欧米の機関投資家や、国内でも日本生命や三井住友信託銀行、りそなホールディングスなどは、USCを含む石炭火力向け投融資の全廃を明確にする動きも顕著になっている。今後、商社が資源開発と発電の両面で、完全な「脱石炭」に、いつ舵を切り替えられるかが注目される。

 

https://www.mitsubishicorp.com/jp/ja/pr/archive/2018/html/0000036508.html

https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2018/1227723_11199.html

https://www.sumitomocorp.com/ja/jp/news/release/2018/group/11130

https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20181224&ng=DGKKZO39322680T21C18A2MM8000