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FITバイオマス発電をめぐる制度の変更と課題~持続可能なバイオマス利用に向けて~(泊みゆき)

2020-09-02 16:52:18

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1.FIT制度におけるバイオマス発電の現状と経緯

 

 2012年に再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が開始して以来、バイオマス発電の認定量・稼働量は急増した。同制度により2019年12月時点で、計411カ所、221万kWのバイオマス発電所が稼働し、同じく622カ所854万kWが認定されている。稼働容量の6割強、認定容量の9割弱が主に輸入バイオマスを燃料とする一般木材バイオマスの区分となっている(図1)。

 

図1.再エネ固定価格制度買取制度におけるバイオマス発電の稼働・認定状況(資源エネルギー庁資料より:NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成)
図1.再エネ固定価格制度買取制度におけるバイオマス発電の稼働・認定状況(資源エネルギー庁資料より:NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク作成)

 

 2017年に一般木材バイオマス発電の買取価格引き下げ(その後、1万kW以上は入札制へ移行)直前の駆け込み認定を受けた案件が、次々、建設・稼働されるようになった。それを受けて、燃料となるPKS(アブラヤシ核殻)や木質ペレットの輸入もそれぞれ2019年に245万トン、161万トン、合計400万トンと一年で1.5倍に増加した。

 

2.2019年度における制度の変更

 

  • バイオマス持続可能性ワーキンググループの開催

 

 一般木質バイオマス発電所の稼働が増加するにつれ、大量のバイオマス燃料の調達が必要となった。PKSの日本の港に入った時点でのCIF価格は10円/kg程度だが、木質ペレットは20円/kg近い。当然、安価なPKSに需要が集中するが、PKSはパーム油搾油の際に出る副産物であり、調達可能な量に限度がある。日本への輸入が可能なのは300万トン台ではないかと言われている。そこでバイオマス発電事業者から、FIT制度のバイオマス発電において、新規燃料(大豆油、ナタネ油、クルミやココナツの殻、ジャトロファなど)を認めてほしいとの要望が出された。

 

 また、2018年度の議論で、パーム油は持続可能なパームオイルのための円卓会議(RSPO)認証のIP、SGが求められたが、他の認証制度の適用を求める声もあった。これらの持続可能性をどのように担保するかを議論するため、バイオマス持続可能性ワーキンググループ(WG)が開催されることとなった。

 

(2)WGでの議論

 

 WGのメンバーは5名の専門家で、4月から10月まで計5回開催され、11月に中間整理がとりまとめられた。

 

 環境、社会・労働、ガバナンス、食料競合等の観点について、確認手段(対象、主体、時期)の視点も加え、専門的・技術的な検討が行われた。持続可能なパーム油のための円卓会議(RSPO)認証をベースに、図2のような持続可能性評価基準が提示された。

 

図2.バイオマス持続可能性ワーキンググループ中間整理(概要)(第150回調達価格等算定委員会資料2)
図2.バイオマス持続可能性ワーキンググループ中間整理(概要)(第150回調達価格等算定委員会資料2)

 

 また、パーム油についてマレーシア持続可能なパーム油(MSPO)、インドネシア持続可能なパーム油(ISPO)といったRSPO以外の認証制度の適用について議論されたが、MSPO、ISPOについては持続可能性の評価基準に関し不十分な項目があるとして、適用を見送られた。パーム油以外のバイオマスにも適用可能な、持続可能なバイオマスに関する円卓会議(RSB)認証は、適用を認められた。

 

(4)事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)

 

さらに調達価格等算定委員会での議論を踏まえ、事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電)が2020年4月、以下のように改定された。


1)農産物の収穫に伴って生じる(パーム油、PKS、パームトランク以外の)新規燃料については、専門的・技術的な検討が必要

2)PKSについてもRSPO認証等による持続可能性(合法性)の確認が必要

3)GHG排出量について、新規燃料、既存燃料のいずれも対象とすることとなり、2020年に詳細な検討が行われる

4)ごみ処理焼却施設については、コークスを利用するものも2021年以降もFIT制度の新規認定対象とし、2020年以前に認定を受けた案件が容量市場の適用を受ける場合もFITの対象から外さない

5)主産物・副産物を原料とするメタン発酵バイオガス発電は、一般木材等バイオマス発電の区分において取り扱う

 

(5)エネルギー供給強靭化法が成立

 

 電気事業法やFIT法(電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法)などの改正を盛り込んだ「エネルギー供給強靱化法」が2020年6月、成立した。再生可能エネルギーの導入拡大と国民負担の軽減を目指し、太陽光など一部電源を市場連動型の支援制度に移行させ、送配電事業者の収入に上限をかけ、コスト効率化を促す。自然災害に備えるため、早急に制度的な手当てが必要なものを除き、2022年4月に施行される見込みである。

 

 FIT法の改正では、これまでFIT制度で支えてきた再生可能エネルギー電源を、競争電源と地域活用電源に大別し、事業用太陽光と風力は競争電源として、FIP(フィード・イン・プレミアム)に移行させる。バイオマスのうち、1万kW未満のものは2022年度に地域活用電源となりうる。

 

 地域一体型の地域活用要件としては、①~③のいずれかを満たすこととされる。

 

  • 災害時(停電時)に再エネ発電設備で発電された電気の活用が、自治体の防災計画等に位置付けられること。
  • 災害時(停電時)に再エネ発電設備で産出された熱の活用が、自治体の防災計画等に位置付けられること。
  • 自治体が自ら再エネ発電事業を実施するものであること。又は、自治体が再エネ発電事業に直接出資するものであること[i]

 

 ただ、FIT制度のバイオマスにおいては、将来的に経済的自立が可能な利用形態への誘導が重要ではないかと考えられる。FIT法の目的である、環境負荷の低減、我が国の国際競争力の強化・産業の振興、地域の活性化に資するバイオマス利用として、より強力に熱電併給や熱利用へのシフトを促すべきではないか。

 

 また、例えば農山漁村再生可能エネルギー法の枠組みを用いつつ小規模案件の未利用材の枠を撤廃すれば、より安価な残材利用の促進が期待される。バイオマスの産業用熱利用の視点も含め、バイオマス利用の総合的な観点からの再検討が求められよう。

 

 さらに詳細については、バイオマス白書2020等[ii]をご参照いただければ幸いである。

[i] 事業計画策定ガイドライン(バイオマス発電) p30

[ii] バイオマス白書2020サイト版 https://www.npobin.net/hakusho/2020/index.html

 

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泊 みゆき(とまり・みゆき)  NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク理事長。日本大学大学院国際関係研究科修了。経済産業省バイオ燃料持続可能性研究会委員、関東学院大学非常勤講師等。著書に「バイオマス 本当の話」等。