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サステナブルファイナンスの新たな「モダリティ」。サステビリティ・リンクのGGSBを。グリーンウォッシュを制御し、インパクトを高めるために(Antonio Vives)

2022-01-13 17:04:17

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 サステナブルファイナンスが急拡大している。だが、市場を見渡すと、ファイナンス自体は買い(ロング)だが、サステナビリティは売り(ショート)、発行体の公約は買い(ロング)だけど、実際の影響は売り(ショート)になっている。同市場の拡大は、ファイナンス量の成長だけではなく、サステナブルファイナンスのモダリティ(種類)の多様性も拡大している。今や、銀行のクレジットファイシリティやクレジットラインから、ボンド、株、証券化まで、あらゆる金融市場のスペクトラムをカバーしている。

 

 サステナブルファイナンスの多くの発行体(資金調達者)は「好みの市場」で、自らが抱える古い借金のリファイナンスに殺到している。お気に入り市場の条件は、「グレニアム(グリーン・プレミアム)」がポジティブであり、社会的責任投資家の強い需要があり、ファッショナブル(?)でさえある。

 

 だが多くの発行体は、彼らが促進するはずのサステナビリティには、ごくわずかか、あるいは全くインパクトの無い仕組みに取り組んでいる。その多くは、現行の市場基準が持つ『抜け穴(Loopehole)』を利用しているのだ。サステナブルファイナンス市場をめぐる議論も、市場の量的な拡大に関心を持つ仲介者たちによって推進され、支配されている。そこでは、量こそがインパクトを意味するとの暗黙の仮説があるが、(仮説と現実には)非常に大きなギャップがある。

 

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現行の仕組みの制約(Limitations of the current structures )

 

  現状のサステナブルファイナンス市場が抱える制約の大半は、発行体が準拠する現行の市場基準、特に最も使われている国際資本市場協会(ICMA)のグリーン、ソーシャル、サステナビリティの各ボンドのGSSB原則と、サステナビリティ・リンク・ボンド、そしてローンシンジケート取引協議会(LSTA)等が開発したICMAと同様のサステナビリティローン原則(SLP)から生じている。

 

 ICMAのGSSB原則は、GSSB発行で調達した資金はサステナビリティに貢献する特定の事業に充当されねばならないことを確立した。しかし、同原則では、そうした投資の類型は限定されておらず、またそれらの事業によるサステナビリティへの貢献の度合いも特定されていない。発行体は、事業や活動に投資された金額等のインプットとアウトプットを報告書でレポートすれば、それでゴールになる。しかし、(世界をよりサステナブルにするために達成されるべき変化等の)アウトカム(成果)やインパクト(影響)はレポートしなくてもいい。本来はそうした達成は、対象プロジェクトのデザインの変化に必要だったかもしれないのだが。

 

 もう一つのサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)原則では、ボンドの発行と発行体企業が設定する特定のサステナビリティ目標とのつながりが求められる。しかし、調達した資金の使途と、定めたサステナビリテイ目標の意義とのつながりは、特に定められていない。したがって、発行体自体のサステナビリテイ・インパクトに比べると、あまり重要でない場合もあり得る。一般的に、発行体が宣言した目標の達成は、達成できなかった場合に発行コストが罰金的に増えるか、あるいは達成した場合に優遇されるかのどちらかで示される。これらは些細な場合も、重要な場合もある。

 

 これら二つのタイプの原則(GSSBとSLB)は、どちらも発行体のサステナビリティに対処するものではないだけでなく、インパクトの重大さにも、資源の追加性にも、対応するものではない。GSSBsの場合は投資のタイプを示すだけで、SLBの場合は示した目標の内容を示すだけである。ただ、そうだとしても、責任ある発行体は、これらの原則が示す要件を超えて取り組もうとするだろうし、そのインパクトの度合いに関心を持つだろう。

 

 ボンドの発行を導く、こうしたフレームワークは(法的な強制力はなく、遵守しない場合でも発行体の評判に影響がある程度だが)、独立機関によって検証される。それらの機関はコンサルタント等が担い、通常、原則に適合しているかどうかを示すセカンドオピニオンを発行する。だが、定めたサステナビリティ目標の重大性や、それらを達成するために使われる資源、インパクトや発行体自体のサステナビリテイの重大性等を評価するものではない。したがって、こうしたプロセスは、グリーンウォッシュを生み出すか、あるいは、サステナビリティについてのインパクトを減らすか、あるいは、その両方をもたらすかのいずれかである。

 

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追加性とインパクト(Additionality and impact)

 

 サステナビリティの観点からすると、GSSBやSLBの発行は、何がサステナビリティかという適合項目の問題だけではなく、何がファインナンスのインパクトであり、そのファイナンスによる追加性、つまりファイナンスによって達成される改善が重要なのだ。いくつかの発行体は、調達資金を自らの通常の事業活動へのファイナンスやリファイナンスに充当し、発行によっては、事後的にGSSB等の原則に適合するとするが、追加性はほとんどないか、全くない場合もある。

 

 これまでのところ、需要サイドの投資家は、こうした「サステナブルファイナンス」の抱える課題には、ほとんど関心を示していない。投資家の多くは、「責任ある資産」のラベルがついていれば、満足して受け入れる。供給サイドの発行体は、喜んで買ってくれる市場があることを歓迎している。(仲介する)ファシリティ産業(引受機関や格付・認証機関等)は市場の量的拡大に満足し、サステナブルファイナンスの促進者たちは、数が増えることだけで幸せなのだ。たとえ、その投資にインパクトがなくてもだ。

 

 そこでは、サステナブルファイナンス産業と社会的必要性との間で利益相反があるとともに、サステナビリティ産業によって支援され、煽られる、発行体、貸し手、投資家の間では、暗黙の「共謀」が起きているのだ。

 

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 <より厳格なモダリティ(A tighter modality)

 

 必要とされているのは、現行の2つのサステナブルファイナンスのモダリティ(種類)の利点を活用するとともに、それらの制約を最小化するような道具立てである。そこでわれわれは、新たなサステナビリティ・リンクのGSSB(SL-GSSB)を提案する。それらはボンドのほか、ファシリティ、クレジットライン、ローン、ノート、エクイティとしての発行を含む。SL-GSSBの道具立ては、次のような「追加的」原則に基づくものになるだろう。

 

  • 発行体が設定するサステナビリティの目標は、発行体にとって重要であり、その社会的、環境的インパクトに相応しいものでなければならない。

 

  • 資金使途は発行体の通常の資金需要に充当するとしても、その主要な部分は発行体のサステナビリティ目標の達成のために使われねばならない。

 

  • 現状維持を超えた重要な影響、すなわち追加性を伴うこと。

 

  • 発行体自体のサステナビリティの重要さ。

 

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 <今後の方向性(The way ahead)

 

 SL-GSSB原則の仕組みとレポーティングは、機能する定義と次のような必要事項を盛り込まねばならないだろう。①達成されるべき”重要な”サステナビリティ目標②それらの目標を達成するために調達される資金の”重要な”使用③重要なインパクト④発行体の全般的なサステナビリティのレベル(例えば、主要な格付機関5社の最小平均格付 )、それは単に目標を掲げるだけではない。

 

 セカンドオピニオンやレポートの発行体は、こうした課題を分析し、上記の①~③についての意見を表明すべきである。場合によれば④の平均格付について意見を言ってもいい(ダークグリーンやライトグリーン等の格付を付与することを超えるということだ)

 

 このことは、現行のセカンドオピニオンの役割を、上述した「重要性」の原則に基づき、マテリアルなコンプライアンスによる検証へと、変更するよう求めることでもある。現行の検証システムは、サステナビリティレポートのパッシブな限定的保証と同様のレベルでしかない(「我々の注意を喚起するものは特にない」というような保証の仕方)。そうではなく、より積極的であり、評価機関としての判断を示さねばならない。セカンドオピニオンに自らの判断を含めねばらないのだ。

 

 このモダリティ(SL-GBBS)は、現行のサステナビリティ・リンクボンドのSPTに盛り込まれる簡易な罰金的、あるいは優遇的仕組みを超えて、サステナビリティ・コビナンツをボンドに付与する形で展開していくかもしれない。

 

 しかし、基本は全ての責任投資家の協調的行動にある。彼らの一部だけの行動では十分ではない。最終的には、多くの投資家は、すでに現状において、特定の企業や金融商品に対して、自らの意見を表明しているように、サステナブルファイナンスへの投融資に際しても、自らの意見を表明するようになるだろう。特に、EUではサステナブルファイナンス財務情報開示規制(SFDR)のグリーン・タクソノミーがすでに稼働しており、同様の情報開示の仕組みが米国でも実施されようとしている(米国ではESGのうちEに重点が置かれている。これに対してEUは「グリーン」というややあいまいな表現だ。ただ、その中には社会的課題も幾分含まれているが)

 

 しかしこれらのことはすべて、言うのは簡単だが、実行するのは簡単ではない。「現状維持」には、大きな既得権益があるからだ。それは発行体の場合、市場へのアクセスができるという点であり、サステナビリティ産業(資産運用機関や格付機関、情報収集や集積業者、セカンドオピニオン業者やコンサルタント、サステナブルファイナンスのプロモーター、その他)にとっての既得権益は、現状の体制から利益を得ているという点だ。

 

 サステナブルファイナンス産業は、新たな金融モダリティ(SL-GSSB)の展開は、これまでのサステナブルファイナンス投資の規模を減らすとして反対することが想定される。しかし、確実に言えることは、そうしたモダリティはインパクトを高めるということだ。同手法は、まだ万国共通に適用できるないかもしれないが、いったん使えば、現状維持を超えて、改善を示すだろう。

 

 したがって、規制当局による介入は、単に標準化を進めるだけでなく、発行体の意思とインパクトの関係の情報開示を義務化するために、緊急的に必要とされている。

 

 現行の伝統的な2つのモダリティ(GBBSとSLB)が存在を辞めることはないだろう。しかし、われわれが提案するSL-GBBSは、真の社会的責任手段や投資家、資産運用機関のためのサブ市場を作ることができる。うまくいけば、ニッチな市場にはとどまらないかもしれない。

 

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アントニオ・ビベス(Antonio Vives) ( ESGコンサルタントのCumetere プリンシパル・アソシエイツ、米州開発銀行のサステナブル開発部のマネジャー、米スタンフォード大学元非常勤教授等を歴任)

https://www.linkedin.com/in/antonio-vives-04424522/