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「G7合意」で水素・アンモニアは排出削減対策として認められたのか?(田中十紀恵)

2022-07-29 14:20:16

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 2022年のG7では、ロシアのウクライナ侵攻や燃料価格の高騰などを背景にエネルギー安全保障への懸念が高まるなか、気候変動対策の具体的な行動を加速させるため、G7でどのような合意形成がなされるかが、気候変動分野での注目ポイントの一つでした。

 

 そのなかで、5月のG7気候・エネルギー・環境大臣会合のコミュニケ(共同声明のこと、以下「環境大臣コミュニケ」とします)では、はじめて「水素・アンモニア」が盛り込まれました。このことは「脱炭素手法として水素・アンモニアが認められた」と日本でも報道され、日本が推進するアンモニア・水素混焼が、石炭火力発電の排出削減対策として認められたのでは?と思われた方もいるかもしれません。

 

 本当にアンモニア・水素混焼が石炭火力発電の排出削減対策として認められたと言えるのか、今回は環境大臣コミュニケを読み進めたいと思います。

 

アンモニア・水素混焼は石炭火力発電の排出削減対策?

 

 「水素・アンモニア」という単語が出てくるのは、同コミュニケの中の「70. Power-to-X、低炭素および再生可能エネルギー由来の水素およびアンモニアといった派生物、G7水素行動協定(G7-HAP)」の部分です。

 

 ここでは「ネット・ゼロ排出とエネルギー安全保障の未来を達成するために、低炭素および再生可能エネルギー由来の水素およびアンモニアといった派生物が中心的な役割を果たす」ことを強調し、この分野における共同行動を加速・強化し、既存の多国間活動の実施を合理化することを目指してG7水素行動協定(G7 Hydrogen Action Pact, G7-HAP)を立ち上げる、としています。

 

 同コミュニケの最後には「ゼロエミッション火力における水素と派生物の役割を支持する」という一文は入っているものの、全体としては排出削減が困難なセクターでの促進が想定されており、このセクターについては、他の合意内容から、鉄鋼等の産業を指しているものと思われます。なお、水素は交通・産業部門等でもその役割が言及されていますが、アンモニアは水素の派生物としての扱いで、この「70.」の部分にのみ登場するにすぎません。

 

 そして、上記とは別に「71. 電力システムの脱炭素化」の項目が設けられています。この「71.」ではIPCC第6次評価報告書第3作業部会(AR6 WG3)で、排出削減対策が講じられていない化石燃料インフラの継続的な設置が温室効果ガス排出を固定化することを強調していることや、COP26グラスゴー気候合意で排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズダウンに向けた努力の加速が呼びかけられたことに触れたうえで、

 

「2035 年までに電力部門の大部分(predominantly)を脱炭素化するという目標にコミットする」

「国内の排出削減対策が講じられていない石炭火力発電を最終的にはフェーズアウトさせるという目標に向けた、具体的かつタイムリーな取り組みを重点的に行う」

ことが合意されています。

 

水素・アンモニアと石炭火力発電の排出削減対策は別の問題

 

 確かに同コミュニケには、低炭素/再生可能エネルギー由来という条件つきで水素やその派生物としてのアンモニアの役割が盛り込まれました。一方で、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトは別に項目立てられており、そこでは水素・アンモニアの利用は言及されていません。

 

 つまり、「水素・アンモニアをゼロエミッション火力に役立てること」と、「石炭火力発電の排出削減対策」とは別の問題として捉える必要があり、水素・アンモニアは石炭火力発電における排出削減対策としての明確な位置づけがなされていないと読み取れます。これは6月26日~28日のG7サミットで採択されたG7首脳コミュニケにおいても同様のことが言えるかと思います。

 

排出削減対策って具体的には何?

 

 環境大臣コミュニケでは、排出削減対策が何であるかは具体的には言及されていません。ただ、石炭火力発電の「排出削減対策(abatement)」が何を意味するかは、IEA「Net Zero by 2050」レポートやAR6WG3などで定義づけされています。例えば、IEAレポートでは「CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)を備えていない施設での化石燃料の消費は“ unabated”と分類する」と述べられており、国際的にはCCS/ CCUSの技術が付与されていることを意味しています。上記のとおり、環境大臣コミュニケでも「グラスゴー気候合意と、排出削減対策が講じられていない石炭火力のフェーズダウンに向けた努力を加速させる」ことが言及されています。

 

 脱炭素が重要な議題となっていた昨年のG7気候・エネルギー・環境大臣コミュニケを振り返れば、「石炭火力発電が世界の気温上昇の唯一最大の原因」と断定され、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電設備からの移行を更に加速」することが求められていました。今年のコミュニケは、この努力をさらに加速する必要がある、としたものです。

 

 もはや国内の石炭火力発電でも、「排出削減対策の講じられた石炭火力発電」、つまりCCS/CCUSを備えていることが不可欠と見なすことができるのではないでしょうか。なお、環境大臣コミュニケでは、現在、日本政府が推進している化石燃料由来の水素やアンモニア(グレー水素、グレーアンモニア)の利用はそもそも言及されていません。

 

2030年に目指すべき姿は変わらない

 

 今年のG7では、ロシアのウクライナ侵攻等の影響を受けている一時的なエネルギー危機回避のための対策を認めつつも、全体として、IPCCの科学的知見やCOP26グラスゴー合意を踏まえ、脱炭素に向けた行動を加速させるという方向性が合意されたと考えられます。そう考えると、石炭火力発電所については、これまでと変わらず、早期(2030年)の廃止を目指し、地域の雇用を守りつつ再生可能エネルギーへと移行する道筋を立てていくことが、日本の政策立案・実施にあたっても求められることだと思います。

 

 一部の政府筋や、産業界においては、今回のG7の合意をもって、水素・アンモニアが石炭火力発電の排出削減対策として認められた、とする向きがありますが、そうではなく、明らかな「読み誤り」と言わざるを得ません。つまり、アンモニア・水素混焼の導入によって、「排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウト」の条件を満たすことにはならないと考えられます。

 

参考

▼2022年G7 気候・エネルギー・環境大臣コミュニケ(環境省ウェブサイト)

https://www.env.go.jp/content/000039435.pdf (英文)

https://www.env.go.jp/content/000039433.pdf (環境省による暫定仮訳)

▼2022年G7首脳コミュニケ(外務省ウェブサイト)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100364051.pdf (原文)

https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100364219.pdf (外務省による仮訳)

▼2021年G7気候・エネルギー・環境大臣コミュニケ(環境省ウェブサイト)

https://www.env.go.jp/content/900517575.pdf (原文)

https://www.env.go.jp/content/900517580.pdf (環境省による暫定仮訳)

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(元原稿:気候ネットワークブログhttps://www.kikonet.org/kiko-blog/2022-07-26/4964

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田中 十紀恵(たなか ときえ) 気候ネットワーク京都事務所スタッフ。民間企業、国際協力NGOでの勤務を経て、2021年6月より現職。