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3メガバンク、NZBAの第一関門の突破なるか? 〜ネットゼロ目標達成に向けた課題〜(渡辺瑛莉)

2023-03-21 18:07:57

3megaキャプチャ

 

 2050年ネットゼロを掲げる国際的な銀行の連盟・Net Zero Banking Alliance(NZBA)に、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)の3メガバンクが加盟してからまもなく1年半が経過する。NZBA加盟行は18ヶ月以内に、2030年(またはそれよりも早い)目標を設定し、2030年から2050年までは5年ごとの目標設定を行うこと、またその目標設定は、最も温室効果ガス(GHG)排出量の多いセクターにおいて行うことが求められる。

 

  しかし、世界の主要銀行56行がNZBA加盟後、化石燃料(石炭、石油・ガス)の拡大計画を持つ企業への資金提供額をまとめた最新の調査によると、3メガバンクは、上位にランクインしている。こうした資金提供は、国際エネルギー機関(IEA)のネットゼロシナリオ等の気候科学の最新の知見と矛盾し、メガバンク自身のネットゼロ目標とも整合しない。

 

 そこで、3メガバンクが自ら掲げるネットゼロ目標を達成するために、それぞれの気候変動方針や、目標・計画の策定等で、どのような課題があるかを概観してみる。

 

パリ協定以降、世界で有数の化石燃料支援額

 

 日本のメガバンクは、世界でも有数の化石燃料部門への資金提供者だ。パリ協定締結後の2016年以降2021年までの世界の化石燃料部門への資金提供額では、MUFGが約1,814億㌦で第6位、みずほが約1,557億㌦で同8位、SMBCが約1,029億㌦で同18位といずれも上位を占めた。SMBCは世界のLNG部門では第4位、北極圏の石油・ガス部門でも第8位と両部門の邦銀ワースト1だった。

 

  こうした現状を踏まえて、日本の3メガバンクが自らの投融資で抱える気候変動関連リスクをどのように管理し、付随する財務リスクを抑えながら、逆に気候変動問題の解決に向けて、具体的かつ明確な期限をもったポジティブなアクションがとれるか。その如何に、世界の投資家や、その他の多様なステークホルダーの関心が高まっている。

 

NZBA加盟後も化石燃料部門への支援が継続

 

 仏環境NGOのリクレイム・ファイナンス等の調査によれば、NZBA加盟56行は同加盟後から2022年8月までに、化石燃料事業(石炭、石油・ガス)を拡大する企業102社に対して、合計で約2,690億㌦の資金提供を行っている。そのうち、石油・ガス企業への資金提供は約8割を占める。石油・ガス企業への資金提供が多い金融機関は米銀のシティグループ、バンク・オブ・アメリカが多く、次いで、MUFGが3位(約178億㌦)で、みずほ(約113億㌦)、SMBC(約92億㌦)と、いずれも上位10機関に入っている。

 

 一方、石炭関連企業への資金提供では、みずほ(約95億㌦)、MUFG(約84億㌦)、SMBC(約33億㌦)がそれぞれ第1位、2位、4位と上位を占めている。石炭、石油・ガスの化石燃料企業への資金提供の合計でも日本の3メガバンクは、トップ10にランクインしている(下表参照)。

 

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メガバンクの気候変動方針と目標設定の現状と課題

 

 2019年以降、3メガバンクは新規の石炭火力発電所への資金提供を制限する方針策定を皮切りに、気候変動方針や同目標を制定してきた。一方で、上述のように石炭および石油・ガス開発を拡大する企業への資金提供は引き続き継続している。こうした目標設定と、実際の投融資活動のギャップから、どのような課題が生み出されるのかを考えたい。

 

<2030年排出削減目標>

 

 まず、3メガとも、電力セクターおよびエネルギーセクター(石油・ガス、石炭)において、2030年ポートフォリオ排出削減目標を設定・開示している。それらに共通するのが、電力セクターでは排出原単位の目標(発電量当たりのCO2排出量の目標)としている点だ。これだと、CO2の排出絶対量が増えても目標達成が可能になる点が課題として指摘されている。

 

 実際、2022年11月のCOP27期間中に発表された「国連ネットゼロに関するハイレベル専門家グループ」の提言でも問題視されており、排出原単位ではなく、絶対排出量の削減にフォーカスすべきだと提言が出されている。一方で、石油・ガスセクターでは、目標の対象が上流生産事業に限定されるため、例えば、石油・ガスパイプラインやLNGターミナル等の中流・下流の化石燃料インフラからの排出量が正確に計上されない。結果的に、排出量全体が過小評価されているという課題がある。

 

 一般炭採掘セクター向けファイナンスにおいては、みずほが2030年OECD諸国内でゼロ、2040年には世界全体でもゼロ化の目標を掲げている。この点ではみずほは、他行より一歩、進んでいるといえる。これに対してMUFGは、同セクターでの2030年削減目標を設定・開示をしていない。今後の対応が求められる。SMBCの2022年TCFDレポートによると、2030年目標は、2020年度比で37~60%削減としているが、2050年ネットゼロに整合しない目標が含まれている点が問題といえる。

 

 さらに3メガとも、電力およびエネルギーの両セクターについて、フェーズアウトに向けた道筋が描かれていない。化石燃料依存を減少させる明確な道筋の欠如は、2040年までに、削減対策なしの(unabated)石炭・石油火力発電所を段階的に廃止し、石油・ガスからの排出量を2021年比で76%削減することを求めるIEAネットゼロシナリオとも整合しない。

 

<石油ガスセクター方針>

 

 上記のいずれの目標も、2030年目標だが、そこに至るまでの経路が描かれておらず、2030年までに、化石燃料セクターへの支援が拡大する余地を大いに残している。IEAのネットゼロシナリオでは、新規の石油・ガス田の開発の余地はなく、多くのLNG液化設備や新規のパイプラインへの投資は不要と結論づけている。しかし、3メガバンクの石油・ガスセクター方針は、いずれも新規および既存事業の拡大や、それらに従事する企業への投融資を特段、制限していない。この点で3メガバンクは、他国のライバル金融機関に大きく遅れを取っている、と言わざるを得ない。

 

<石炭火力セクター方針>

 

 石炭火力セクター向けの投融資で、まず懸念されるのは、アンモニア・水素混焼やCCUSなどを備える石炭火力向け支援の継続および財務リスクだ。同セクターに関しては、これまでプロジェクトレベル(設備紐付きコーポレートファイナンスを含む)での新規事業や既存事業の拡張向けの投融資が禁止される等、強化されてきてはいる。しかし、アンモニア・水素混焼やCCUSなどを備える石炭火力向けの支援は可能としている。

 

 この点は、日本政府が推し進めるGX(グリーントランスフォーメーション)戦略、さらには同GX戦略をアジアに広げようという「アジア・ゼロ・エミッション共同体」構想にも、盛り込まれていることから、今後メガバンクが、日本および東南アジア向けに、アンモニア・水素混焼やCCUS等の「トランジション(移行」技術の支援を名目として、投融資を拡大することが予想される。

 

 しかしながら、大手銀行がアンモニア・水素混焼の新技術に資金支援を行うことのリスクについて、投資家サイドから懸念も表明されている。Asia Research & Engagement(ARE)が3月に発表したレポートでは、こうした技術はライフサイクルの排出量を加味しておらず、化石燃料使用を長年にわたって固定化し、むしろ移行を妨げる可能性があると警鐘を鳴らしている。さらに、より安価で確実性の高い太陽光・風力等の再エネ事業への資金支援をもっと強化すべきと結論づけている。水素・アンモニア混焼技術が抱える財務的リスクについては、他にも様々な報告が出されている(ISSBNEF等)。

 

<石炭採掘セクター方針>

 

 3メガバンクの石炭採掘セクター向け投融資については、プロジェクトレベルでの方針に違いが見られる。新規事業および既存事業の拡張と関連インフラ開発への支援も禁じているのはSMBCのみである。みずほは「既存炭鉱の権益取得を資金使途とする案件については、2050年ネットゼロを掲げる国のエネルギー安定供給に不可欠な案件は支援可能」という例外規定を設けている。MUFGは、既存事業の拡張案件には投融資が可能としており、3メガの中では最も劣後している、といえる。

 

 一方で、石炭火力、採掘セクターについては、3メガバンクはそろって、企業向けの一般的貸付の場合は、制限方針の対象外としている。石炭関連事業向け投融資の大部分は、プロジェクトファイナンスではなく、企業向けの融資や引き受けとも言われており、石炭開発を拡大する企業への支援がいまだに可能な状態であることが大きな「抜け穴」になっている。

 

<移行エンゲージメント方針>

 

 以上のような数々の抜け穴が存在する中、3メガとも、電力・エネルギーセクターのような高炭素排出産業に属する法人顧客について、脱炭素化への移行を支援するエンゲージメントを行う方針を示してはいるが、その方針においては、実効性ある内容が開示されていない。この点では、みずほの開示が3メガの中ではもっとも進んではいるものの、具体的な指標や目標、期限、それらを担保する実効性ある措置等については示されておらず、これらの点への開示拡大が求められる。

 

 以上に大まかに見てきたように、3メガバンクの気候変動方針および目標は、いまだに3行が掲げるネットゼロ目標を達成する道筋に整合していないうえに、情報開示が不十分なため、現状では、整合しているとは評価できない。今春に見込まれている3メガバンクの気候変動方針と情報開示の改定作業の中で、これらの課題についてどのような開示が行われるかを注目している。

 

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Eriwatanabeキャプチャ

渡辺 瑛莉(わたなべ えり)上智大学卒、京都大学大学院卒。国際環境NGO FoE Japan、350.org Japanを経て、2023年2月から、Market Forcesの日本エネルギー金融キャンペーン担当。