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日本の金融機関が多額の支援ーーモザンビークLNG事業に潜む深刻な人権侵害と環境破壊(佐藤万優子)

2024-11-18 18:47:11

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写真は、2018年のカーボデルガード州アフンギ半島に位置する、現在は移転されてしまった村=Justiça Ambiental!(JA!)提供)

 

 アフリカのモザンビーク北部にあるカーボデルガード州で2010年にガス田が発見され、ガス事業の開発が進んでいる。そのうちの一つ、「モザンビークLNG」は仏トタル・エナジーズ主導の下、米国、英国を含む複数の国の輸出信用機関、銀行団が融資を行っている。日本は国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)、エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)等の公的機関と、三井物産や3メガバンクを含む民間銀行団が関与し、海外勢と比べても最大規模の出資、支援を行っている(詳しくはこちらを参照)。三井物産とJOGMECは合弁会社を設立し、事業権益の20%を獲得している。採掘されたガスは液化され、LNGとして3割が東京ガス、東北電力、JERAなどの日本のエネルギー会社に購入される。だが、同事業は推進主体のトタル・エナジーズが2021年4月に「不可抗力」を宣言、現在は建設作業が停止している。その直接の背景には、武装勢力による治安の悪化が挙げられるが、治安悪化の根本要因には、日本勢を含む外国資本による化石燃料資源の収奪的な採掘・搾取の構造、膨大な債務問題が潜んでいる。

 

 「LNG事業地」周辺で横行する暴力、深刻な人権侵害

 

 モザンビークLNGが位置するカーボデルガード州では2017年10月以降、武装勢力の台頭による治安の悪化が深刻である。特に2021年3月に起きたパルマ市への大規模な攻撃により、多数の死傷者、行方不明者が出た。さらに暴力やレイプなどの標的となるなどして、現在でも多くの一般市民が同地からの避難を余儀なくされている。

 

(モザンビークLNG事業地図、Solutions for Our Climate提供)
(モザンビークLNG事業地図、Solutions for Our Climate提供)

 

  なぜ武装勢力が反乱を起こしているのか。その背景には、同地域での低い雇用率、貧困率の高さがある。モザンビークに雇用や富をもたらすと期待されてきたガス事業に関する意思決定や計画の場から、地元住民は排除されている。外国資本によって発見され、外国資本がその資源を開発・利用することで、地元には恩恵がほとんどないと人々が感じる場合に、地域紛争に繋がりやすいことが指摘されている。ガス開発自体が武装勢力の反乱や治安の悪化を招いているとの見方もできるのだ。

 

 モザンビークLNGの事業地周辺では、LNG施設の建設によって、少なくとも556世帯が住み慣れた住居からの移転を求められてきた。住民が生活の糧としている農業、漁業などが多大な影響を受けている点も指摘されている。住民移転の協議の際には、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」原則は確保されておらず、補償内容の不足や土地の未分配など、数々の問題が報告されている。補償の受け取りによる違いから、家庭内、コミュニティ内で分断が起きているともされる。

 

 そのような中、LNG事業地周辺において、モザンビーク軍が民間人に対して虐殺行為を行っていた可能性が明るみになった。2024年9月26日の米政治メディアPoliticoの記事(筆者、独立系ジャーナリストのアレックス・ペリー氏)によると、2021年7月から9月にかけて、モザンビーク軍が反乱軍からの安全を求めた民間人の集団を襲撃し、LNG施設の入り口近くにある金属製のコンテナに監禁し、度重なる拷問、暴力行為を行った。

 

 その結果、180人~250人の監禁された男性のうち大半が命を失い、生存者はわずか26名だった。女性も釈放されるまでの数日間、屈辱的な性的暴行を受けた(記事はこちら/NGOによるプレスリリースはこちら)。これら一連の人権侵害について、事業者のトタル・エナジーズは声明で、「そのような出来事を認識していた事実はない」と発表している。しかし、記事では、モザンビークの特殊部隊は「トタルの事業」を守ることが任務だとする将校によって率いられていたと報じられている。LNG施設周辺でも、住民の安全が脅かされる状況になっていることは確かだ。

 

 事態の鎮静化を図り事業再開を目指すため、2021年からモザンビークで活動をしているルワンダ軍のさらなる配置増加、EUによる、反乱軍に対抗するための軍事トレーニングの継続など、軍事力は拡大を続けている。しかし、蔓延する貧困や不平等などの根本原因を解決しない限り、いくら軍事的な手段を用いても反乱は収まりを見せない。

 

 モザンビーク政府とLNG事業を取り巻く債務問題

 

 モザンビークLNG事業は、その経済的利益を見込んでモザンビーク国家の開発事業という名目で進められている。石油生産税、法人税などで事業者らから得られる収益は、国内のインフラ整備や公的サービスに使用されるという計画であった。しかし実際には、外国企業に対する税の優遇や、税制メリットを受ける海外拠点(アラブ首長国連邦)に設立された特別目的事業体(SPV)による事業などで、モザンビーク政府が本来なら受け取るはずだった利子収入だけでも全体で7億1700万㌦~14億8000万㌦の損失を被るとされる。節税型SPVのコンソーシアムには、日本のJBICが30億ドル限度の融資枠を決定しており、日本の公的機関のコミットメント度がわかる。モザンビーク政府の官僚が、進出した外国資本の資金の一部を横領していたことも発覚した。同国政府は、これらの横領資金の返済負担も負っている。

 

 LNG事業から収益を得るのは長期間を要する。不安定な政治・軍事情勢は終息の様相を見せないため、事業は再開できず、モザンビーク政府の負債は膨らむばかりである。しかも、将来的に得られるはずの利益の大部分は国外に流れ、国内で得られる利益の多くが政府が負う債務の返済に充てられる構造となっていることから、最も被害を受けている地元住民には一切恩恵が届かない状態だ。

 

 LNGは本当にトランジションエネルギーなのか

 

 天然ガスは石油や石炭に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量が少なく、より持続可能な社会に移行するための代替燃料、「クリーン」であり「つなぎ」のエネルギーだ、というのがLNG事業の事業主体のトタル、および、同事業に関与する日本政府、日本企業の主張である。しかし、天然ガスも化石燃料の一つであることには違いがない。その利用が長期化すればするほど、化石燃料からの脱却が遅れることにもなる。

 

 さらに、LNGの主成分は、大気に放出されてからの20年間ではCO2より約80倍も温室効果が高いと言われているメタンガスである。国際エネルギー機関(IEA)の「2024年版世界エネルギー見通し」によると、長期的な気温上昇のうちメタンガス由来の原因が30%を占めている。世界の気温上昇を産業革命前からの1.5℃以内に抑えるためには、2030年までにその排出量を2020年比で30%から60%削減しなければならないとしている。メタンガスは地上でのオゾン汚染を引き起こすため、人類、自然環境の健康状態も損なうことが指摘されている。

 

 そしてCO2も、モザンビークLNGが最大規模で生産を行う場合、採掘、加工の過程で最低でも計5億トン近くが排出される(1年あたり1,300万トンの排出を37年間の稼働年数で掛けた数値)。モザンビークは国としてのCO2の累積排出量が少ないにもかかわらず、サイクロンや洪水、干ばつなどの自然災害、気候変動等の物理的影響を最も受けやすい国の一つである。これ以上、気候変動が悪化した場合、さらに甚大な被害が頻繁に、この地域にもたらされる危険性が高まる。

 

 IEAの最新のLNG市場の動向分析によると、LNGの需要は2023年から2030年まで年2.5%ずつ増加するものの、2013年から2022年の需要が年6%の速度で増加していたことを踏まえると、需要の速度は減速する予想になっている。一方で、現在計画されている開発状況が続くことで、2030年頃にはLNGの過剰供給が表面化し、価格の下落が起きると予想している。価格の下落により、産業界のLNG利用は促進されるが、LNG事業の輸出業者は初期に投じた長期的なコストを全て回収することは難しくなる、との見解が示されている。

 

 一方、日本国内のLNGの市場動向をみると、その需要は近年著しく減少している。いくつかの日本のエネルギー会社は、売買契約で輸入するLNGよりも、国内の需要量が下回っているため余剰在庫を抱えている。この余剰在庫の増大を防ぐため、日本企業はアジア諸国などに輸入契約したLNGの転売等を積極的に展開している。「日本経由のLNG輸入」の増加が、それらのアジアの国々が化石燃料の使用を止め、再生可能エネルギーに移行するのを遅らせる大きな要因となっている。

 

 モザンビークLNGの生産開始は2028年が予定されている。だが、トタルは「不可抗力」宣言以降、公式の再開の発表はしていない。これからますます再生可能エネルギーへの需要、消費が期待される中で、モザンビークで起きている事態は、時代と逆行した化石燃料への依存であり、10年以上の期間で売買契約をしているオフテーカーにとって多大なリスクとなることを示す具体例といえる。価格が市場の動向に大きく左右されることを考えると、事業者側は投じた資金の回収が困難になるだけではなく、結果として、モザンビークの地域社会、および同国に、膨大な座礁資産を残す可能性が高い。

 

 日本資本の行方

 

 さて、以上述べてきたような状況がモザンビークのカーボデルガード州で起きている。ではこのような事業を可能にしているのは何か。それは日本の公的資金であり、民間資金である。

 

 モザンビークLNGには3つの日本の公的機関が関与している。その一つが国際協力銀行(JBIC)だ。同行は、本案件では三井物産に対して5億3,600万ドル限度の融資、前述した特別目的事業体(SPV)に対しては30億ドル限度の融資貸付を決定している。

 

 JBICはパリ協定が締結された2016年以降、モザンビークのみならず、アジア諸国を中心とした多くの国々に対して、186億ドルもの巨額の資金を化石燃料のガス事業に投じている。これは、日本政府がG7首脳会合で約束した「2022年末までに海外の化石燃料事業に対する直接支援終了」の公約に明確に反するものだ。世界が気候変動に対応するために総力を挙げることが求められている中で、JBICは逆に気候変動を加速させる方向に大量の公的資金をつぎ込んでいるのである。

 

 その結果、モザンビークの例のように、現地コミュニティの住民の生活や自然環境は深刻な影響を受けている。長年、地域社会や住民、日本を含む世界各国の市民社会団体が懸命に被害を訴え続けているにもかかわらず、JBICの態度は依然として変わらないままだ。詳しくは、先日発表された「影響に直面する人びと:JBICのガス投融資がもたらす地域社会と環境への損害」(レポートはこちら)を参照してもらいたい。

 

 JBICと並ぶのが、日本の輸出信用機関である日本貿易保険(NEXI)だ。同機関も、本案件における日本の民間銀行が行う融資総額20億ドルに対する保険引受を決定している。その結果、JBIC、NEXIの融資、支援総額は50億ドルを超え、多数ある関係諸国の中でも日本が最も資金を拠出していることが分かる。

 

 NGOと財務省が公式に政策等の協議を行う場である財務省・NGO定期協議では、JBICの融資決定前から、債務や治安に関する懸念について議論されてきたにもかかわらず、融資は踏み切られた。さらに、2024年初頭に現地の地域社会や住民等から事業の撤退を求める要請書が送付されたが、JBICからは回答があったものの、NEXIは要請書受領の返事すらしていない。

 

 エネルギー・金属鉱物資源機構(JOGMEC)は、三井物産との共同出資で合弁会社「Mitsui E&P Mozambique Area 1 Ltd.(MEPMOZ)」を設立し、事業権益を20%取得している。この比率はトタルの権益26.5%に次ぐ。モザンビークLNGが単に日本へのエネルギー供給を目的としたものだけではなく、事業利益を見込んで巨額の投資を行っていることが分かる。

 

 日本を含むG20の国々、国際開発金融機関のエネルギー事業に振り向けられる公的資金に注目すると、2020年から2022年の間に低所得国に投じられたのは、わずか8%であった。そのうちの71%が化石燃料事業向けであり、現地の人々に焦点を合わせた「地産地消型」のエネルギー・アクセスを高めるものではなかった。中でも、モザンビークは、カナダ、ロシア、ナイジェリアと並び、世界で最も化石燃料に対する開発資金を受け取っている国とされる。しかし、その資金は直接人々に届きやすく、必要とされている再生可能エネルギーへの支援に対しては限られ、大国の利益を重視した化石燃料への支援が続けられているのである。

 

(画像は、世界で計画されているLNGの拡張ヒートマップ。Earth Insightより)
(画像は、世界で計画されているLNGの拡張ヒートマップ。Earth Insightより)

 

  公的資金だけではなく、民間企業や銀行もこれらの事業に多額の融資、支援を行っている。日本の民間銀行団でモザンビークLNGに関与しているのは、三菱UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行、三井住友信託銀行、日本生命保険、クレディ・アグリコル銀行東京支店、ソシエテ・ジェネラル銀行東京支店、SBI新生銀行、スタンダードチャータード銀行東京支店であり、総額144億ドルの協調融資に参画している。

 

 特に日本の3メガバンクは、いずれもが、パリ協定締結以降の化石燃料への融資、引受額の順位で世界の上位10行に入っている大手「化石燃料ファイナンス銀行」なのだ。この事実は、深刻さを増す環境問題に対する日本の官民の責任が非常に重大であることを示す。逆に、見方を変えれば、日本の官民が化石燃料開発重視の姿勢を改めれば、気候変動の進行を遅らせることにも大いに寄与できることにもなる。

 

 まとめ

 

 「エネルギーの安定供給の確保」の大義名分を維持し、大量の温室効果ガス排出に寄与しているLNG等の化石燃料事業に、引き続き多額の投融資支援を行っている日本政府、企業の姿勢には、疑問を抱かざるをえない。特に、国外において発生している環境破壊、コミュニティの人々の生活の破壊、暴力に苦しむ姿に目をつむり、資金を流し続けている現状は、その資金の一部を担わされる形となっている日本国民として、直視し難い。

 

 JOGMECは2024年10月、同ロブマ流域エリア4に位置するコーラル・ノースFLNGへの、日本の金融機関の支援を念頭に置いた「ガスセキュリティ強化とLNG供給・調達の多角化」を目的とした覚書を伊エニ社との間で締結した。日本の官民は、モザンビークLNGがもたらしてきた多くの混乱、危害を黙認し事業をさらに推進することで、過ちを拡大するのか。モザンビーク現地では、2024年10月の総選挙中に不正や暗殺、警察による市民に対する弾圧などが報告され、国際社会からは強い非難の声が上がっている。これほど不安定な状況にあり、リスクが高い国家に対して、それでも、日本の官民は巨額の資金を投じ続けているのである。

 

 こうした事実をより多くの人々に認識してもらいたい。日本の官民の金融機関が私たち国民の信用力を使って集めた資金が、自分たちが消費している電力が、どのような形で資源調達先での人権侵害や環境破壊に加担してしまっているのかを知ってもらいたい。そうした認識・知識が、われわれ一人一人の生活や消費行動を見直す機会になれば幸いである。

 

 <参考

 

モザンビークLNG事業地図:Somin, K. & Dongjae, O. (2024). Total Turmoil: Unveiling South Korea’s Stake in Mozambique’s Climate and Humanitarian Crisis. (p.8 [Figure 1] Overview of LNG projects in Mozambique)より、Solutions for Our Climate (SFOC)作成の日本語版モザンビークLNGサイト図。https://forourclimate.org/research/306

 

Alex, P. “All Must Be Beheaded”. 26/09/2024. Politico. https://www.politico.eu/article/totalenergies-mozambique-patrick-pouyanne-atrocites-afungi-palma-cabo-delgado-al-shabab-isis/

 

世界のLNG拡張ヒートマップ:Anything But Natural: Liquefied Natural Gas (LNG) Infrastructure Expansion Threats to Coastal & Marine Ecosystems. (2024). Earth Insight, Say No to LNG et al.  https://earth-insight.org/press-release/anything-but-natural-lng/

 

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佐藤 万優子(さとう まゆこ)  国際基督教大卒、2024年から国際環境NGO FoE Japanにて、キャンペーナーとして主に脱化石燃料と鉱物資源問題に取り組む。