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環境金融と私(山本利明)

2015-08-17 17:43:11

Green2キャプチャ

 

<典型的な銀行マンのキャリア>

今年は戦後70年という節目に当たる年であることもあり、歴史を回顧する機会も多いが、大変恐縮ながら、当機構の主テーマである「環境金融」についてのマイ・ストーリーにしばしお付き合い願いたい。

 1970年代初めに大学を卒業すると同時に、金融機関に就職。当時としては、実に平均的な銀行員としてのキャリアを積んだ。支店に勤務し、預金集めから融資業務を都合9年間にわたり経験。その後は、3年間、民間のシンクタンクに研修出向したあと、銀行調査部で経済や金融市場調査に主に従事した。この分野での経験が、その後の私の主なフィールドとなったが、おおよそ25年にわたる銀行員生活のなかで、「環境」というキーワードに遭遇する機会は皆無であった。

 

<企業の社会的責任問題に目覚める>

その後、2000年に関西経済同友会での「企業と社会委員会」の研究活動に係わり、企業の社会的責任というテーマを学んだことが私の転機になった。同委員会の主テーマは、企業の社会的責任とは何か、また、企業とNPOなどのステイクホルダーとの協働関係はいかにあるべきか、というものであった。

当時はCSR(企業の社会的責任))という言葉さえ市民権を得ていなかった時代であったが、関西経済同友会が組織した米国への調査団にも参加し、SRI(社会的責任投資)にも関心が及んだ。これは、2002年の「社会的責任投資」(A.ドミニ著。木鐸社刊)の翻訳出版につながった。

 

 <環境金融に関連した研究プロジェクト>

2003年に銀行が設立した調査研究型の公益財団法人(トラスト60。現在の名称はトラスト未来フォーラム)での研究企画業務に従事したことで、環境と金融への関心は一層高まった。当時は、グローバルに事業展開する製造業企業にはCSRに熱心に取り組む企業が多かったものの、金融機関、特に銀行はCSRで大きく遅れていたことは否めなかった。ましてや、金融と環境というキーワードで、金融業務を見直してみようという機運は乏しかった。

そんな中で、財団の研究プロジェクトとして企画した「金融機関の環境戦略」(金融財政事情研究会。2005年刊)が初めての成果として結実したが、研究会に参加してくれた銀行関係者は日本政策投資銀行の前田正尚氏(故人)だけであった。当時、日本経済新聞編集委員で現在は当機構の代表理事の藤井良広氏も研究会メンバーであった。

その後、欧米で環境・NPO融資などを専門とする金融機関をテーマとした「ソーシャル・ファイナンス」(金融財政事情研究会。2006年刊)では、当機構顧問の足達英一郎氏にプロジェクトを委託した。

 さらに、金融機関と環境というテーマの結実点として「進化する金融機関の環境リスク戦略」(金融財政事情研究会。2010年刊)では、実に15名に及ぶ金融機関関係者・専門家の参加を得た。研究会の座長は、2006年に日本経済新聞から上智大学環境大学院に転じられた藤井良広氏であった。

 

<教育プログラムが環境金融普及の鍵>

以上、長くなって恐縮であるが、「金融機関のCSR」や「環境と金融」というテーマと私の係わりの回顧である。

2009年には、自分自身が長く在籍した銀行グループを離れ、大学の教師に転身した。大学では、「投資の社会的責任」という講座を担当することになったが、皮肉なことに、温めてきたテーマの研究活動や実務面での新展開を追う時間を十分に割けなくなってしまった。

今回、長年にわたり環境金融研究のリーダーであった藤井良広氏が「環境金融研究機構」を設立することを知り、力不足であることを恐れず、理事をお引き受けした。

環境金融が金融機関で投融資などに係わる金融マンにとってなじみのあるものにするためには、意欲のある向きが最新の情報を得、自ら学習できる場が提供されることが必須である。これは、私自身の金融機関での経験からしても明らかである。環境金融力の向上を目的とするE-learning などの教育プログラムの充実に貢献していきたいと思っている。(山本利明)