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巨大なデットファイナンス市場は、ESG投資の未開拓フロンティア。環境金融促進の起爆剤として、「環境金融債権買取機構」の創設を (後藤英樹)

2015-09-18 14:22:27

Greenキャプチャ

 デットファイナンス市場は、ESG投資の未開拓フロンティアともいえるスケールの大きさとポテンシャルを有しており、証券化等、様々な金融ノウハウも活用した制度面での後押しにより、環境金融の推進や地球温暖化の課題への寄与を、飛躍的に前進させる可能性を秘めていると考える。

 

 巨大なデットファイナンス市場は、ESG投資の未開拓フロンティア

 ESGという言葉は、2006年の国連PRI(責任投資原則)宣言から始まった10年ほどの歴史のものであるが、主に株式投資におけるESGファクターの取り入れというアングルから捉えられている面が大きい。上場株式をみれば、東証1部、2部、マザーズ、JASDAQの時価総額合計は、直近550兆円あまりである。

 

 一方、デットファイナンス市場に目を向けてみると、日本の巨額の財政赤字と表裏一体である普通国債の残高は、今年度末で800兆円に達すると予想されており、公共債や社債を加えた公社債の発行残高は1,015兆円(7月末)である。ここまでが直接金融で、さらに間接金融の銀行融資458兆円(7月末)や100兆円を超える信用金庫、信用組合、農協、労働金庫等の融資が加わり、1,600兆円規模のマーケットとなっている。

 

この枠の中に、環境格付融資、グリーンボンド、再生可能エネルギーファイナンスや赤道原則に基づく環境プロジェクトファイナンスなど、多くの環境金融スキームが入ってくる。

 

 国債の多くは、生損保、年金、銀行等に保有されているが、運用面でも、国内における公的年金基金等の雛形とされる世界最大のアセットオーナー、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の運用残高は、ポートフォリオ見直し前で、7割が内外債券であったことは知られている(現在は、新しい“基本ポートフォリオ”で、国内債35%、外国債15%の計5割に修正)。

 

 一方、金融商品として、個人投資家にも人気の世界銀行のグリーンボンドを投資対象とした「グリーン世銀債ファンド」などは存在するが、ESG投資は全体に占める債券・社債投資は大きな比重を占めるに至っておらず、いわば、デットファイナンス市場は、ESG投資の未開拓フロンティアといえよう。

 

レバレッジの効用がドライブする再生可能エネルギー事業と国内でのグリーンボンドの課題

 現在、再生可能エネルギーの中心であるメガソーラー事業は、不動産とも比較される文字通りのレバレッジビジネスである。20年の固定価格買取り制度(FIT)にも支えられ、予見可能性の高いキャッシュフローに基づき、デット・エクイティー比で10倍ものレバレッジ負荷が掛けられる。すなわち、エクイティーの10倍ものデットファイナンスを必要とするものである。

 

 

 再生可能エネルギーに限らず、あらゆるプロジェクトへの投資判断は、プロジェクトの内部利益率(IRR)と、調達面でのデットとエクイティーの加重平均資本コストを想定したハードルレートの大小比較によってもたらされる。投資の可否いかんに関わらず、資本コスト低減につながるレバレッジを活用することは、プロジェクトの投資効率改善をもたらすものであり、制度面で、環境デットファイナンスを後押ししていく事が、再生可能エネルギープロジェクトの推進を大きくドライブできるのも明らかである。

 

 環境デットファイナンスの中核としてのグリーンボンドは、英国のグリーンボンド促進団体、Climate Bond Initiativeの統計によると、2014年、世界で366億ドル(4兆4,000億円)の起債が行われている。昨年3月には、本邦企業初のトヨタ(17億5千万ドル)に発行があり、同10月の日本政策投資銀行(2億5千万ユーロ)、さらに今年6月、トヨタによる2回目のグリーンボンド(12億5千万ドル)の発行があった。日本政策投資銀行の起債の場合、募集に対して3倍以上の申し込みがあったが、一部国内地銀なども購入したものの、マジョリティは外資生保などの海外投資家であったとされる。

 

 私は、ESGアドバイザリーに携わる以前、長年、セルサイドのクレジットリサーチ及び投資銀行・資本業務に従事してきたが、格付対比のスプレッドの厚みで、投資判断を決める国内クレジット投資家を、グリーンボンドへの投資へと導くには、何らかの仕掛けや制度が必要であろうと考える。

 

 一方、ESG投資に関する認識全般が高まってくれば、他とは違う“グリーン”という色分けから、多くの投資機関にとって、グリーンボンド投資は、特に投資残高の面において、ESG投資を明確にアピールできる有効な手段になるとも予想できる。グリーンボンド原則の遵守や第三者認証等、グリーンボンドの定義の明確化はポイントであり、今後の議論の対象となろう。

 

環境金融促進の起爆剤として、住宅金融支援機構にならい、環境金融債権買取機構の創設を

 詳細な議論は避けるが、日本の金利水準は、日本独特の金融機関による国債の所有構造など、様々なファクターにより、極めて低く安定的に保たれてきた。世界的にも最低水準で、35年の固定金利などの選択肢もある日本の住宅ローンの金利体系は、低い国債利回りをベースに、信用力の高い政府系機関、住宅金融支援機構による住宅ローン債権買取りを起点として形成されている。

 

 環境金融においても、国が、メガソーラー向け融資や環境格付融資の債権等、様々な環境金融債権を買取る同様な機構を立ち上げることができれば、20年固定のFIT制度のサポート(仮称“グリーン・フラット20”の展開も)等による再生可能エネルギーの推進と環境金融全般の促進を通じ、地球温暖化対策への貢献が可能となる。

 

 確かに、FIT制度自体は、転換点にきているかも知れないが、買取りスキームを活用すれば、促進だけにとどまらず、買取額を減らし、ブレーキを掛けることもでき、国として、エネルギー政策に、環境変化に応じた、大きな裁量権を持つ事が可能となる。何より、低い価格で債権を買い集め、分散効果とともに、信用力の高い政府系機関がオリジネーターとなって、証券化を展開するスキームは採算性が確立しており、大きな予算を掛けずに、COP21を年末に控えた地球温暖化対策への寄与が可能となる。

 

 住宅金融支援機構債券同様の高格付の“グリーンボンド(一般担保のグリーンボンドと貸付債権担保のGMBS=Green Mortgage-backed Securities)”を大量に供給し、ESG投資促進の起爆剤となる環境デットファイナンスのマーケットを確立できるポテンシャルも生まれるであろう。

          後藤英樹:株式会社クレアン、ESGアドバイザリー、コンサルタント

               一般社団法人 環境金融研究機構 シニア・アドバイザー