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三菱自動車「3度目の不祥事」。払拭されなかった『たこつぼ文化』と、霧散した『百の改善』の決意(藤井良広)

2016-04-20 20:43:37

mitsubishiキャプチャ

 このニュースを聞いて、すっきりとした気持ちになった。「この会社はもう要らない」と――。

 

 ニュースは、三菱自動車が軽自動車での燃費試験時に、燃費を実際より良く見せるためにデータ改竄を行なっていた、という内容。同社は過去に二度にわたる大規模なリコール隠し事件を引き起こし、元社長らが逮捕される事態までに至ったのに、三度目の悪夢の再現だ。

 

 問題が判明したのは同社の「eKワゴン」など2車種と、同社が受託生産し日産自動車が販売する「デイズ」など2車種。燃費試験時に、数値が良くなるよう、タイヤの抵抗や空気抵抗の数値を意図的に操作し、燃費が実際より良くなるように操作していたという。

 

 委託元の日産が燃費性能を調べたところ、数値の違いが判明、三菱の社内調査で確認されたという。相川哲郎社長は20日、記者会見し「お客さまと関係者に深くお詫びする」と頭を下げたが、「私は不正を知らなかったが、経営者として責任を感じる」と語ったと報道されている。

 

 社長も知らないのに、現場が勝手に数値を改竄したことになるが、本当にそうか。そうだとすれば、社長のガバナンスが組織内で相手にされていないことになるし、そうでなかったとすれば、3たびの組織ぐるみの隠蔽となる。

 

 同社については、実は、ひそかに個人的に応援していた。2004年の二度目のリコール隠しの発覚で、元社長が逮捕された後、社内にCSR推進本部を立ち上げた。初代本部長に当時の三菱商事副社長の古川洽次氏を立てて、CSRを経営の柱に据えると宣言した。その手応えが外からも見えていたと思っていたからだ。

 

 同社は最初の2000年に発覚したリコール隠しでは、顧客から持ち込まれた苦情を国土交通省に届け出ずに、ひそかに当該車の部品を交換する「ヤミ回収」で対応するという組織ぐるみの隠蔽が明るみに出た。この時は53万台以上をリコールし、かつ独ダイムラークライスラー(当時)と乗用車事業で包括提携を結んで、危機を乗り切った。

 

 しかし、十分な組織改革が行き渡らず、2002年1月には横浜市で、同社製の大型トレーラートラックの前輪が脱輪、ベビーカーを押して歩いていた母子3人を直撃、母親が死亡する事故を起こした。さらに、同年10月には、山口県で冷蔵車がプロペラシャフトの欠陥によって暴走、運転手が激突死した。

 

 これらの構造的な欠陥の露呈で、再び大量のリコールが発生した。さらに、横浜事件で04年に元社長らが逮捕される事態に至った。二度目のリコールを受けて、ダイムラーが提携を解消、経営危機に直面した。日本の自動車業界には、トヨタ、ホンダ、日産自動車などが存在しており、「もはや三菱自動車の居場所はない」との指摘も少なくなかった。

 

 そうした逆風の中、三菱自動車は、「企業の社会的責任(CSR)」を経営の柱に据え、その具体策として、05年10月には、新車のSUV「アウトランダー」を投入した。社会、顧客に対する信頼回復の証しとして、記者会見に持ち込まれたアウトランダーはバラバラに分解されていた。

 

 複数の死亡事故を引き起こした「ミツビシ」の汚名を返上するため、新車に施した多数の改善点や、顧客のための工夫等を百の改善」として、だれにでもわかるように、公開して見せたのだ。通常は、新車の中身を外部公開することはない。ライバル各社は、相手の新車を購入して、解体検査をするが、三菱自動車は自ら解体してみせたわけだ。

 

 それほど、切羽詰っていたともいえるし、それほど新車に自信を持っていたともいえる。平行して、電気自動車のMiEVの開発をスタートさせ、09年に市場に登場させる(法人向け)のである。不祥事への反省を心に刻んで、何としても顧客の信頼を取り戻す覚悟と、新たな市場へ先陣を切る決意。こうした沸々とした思いを、応援していたのである。

 

 「次に車を買い替える時は、三菱にしよう」と考えたくらいだ。ところがである。CSR推進本部の立ち上げから12年を経て、CSRが経営を支える柱はさらに太く成長しているとばかり思っていたら、不正を外から目隠しする役目に堕していたのではないか、と訝りたくなるような有り様だ。

 

 当時、三菱グループの名誉を守らんと、駆けつけた古川洽次氏は、「上から言われたことだけやっておけばいいという『たこつぼ文化』が蔓延していたのが一番の問題だ」と指摘した。今回、委託先から指摘されるまで、社内の不正に気付かなかったという事態は、12年間でたこつぼが見事に復活し、CSR経営が形骸化していたことの証左というしかない。

 

 同社の最新のCSRレポートによると、「お客さま視点」の徹底で、すべての業務プロセスを見直す「カスタマーファースト・プログラム」の推進をうたっている。しかし、車のタイヤの抵抗や空気抵抗の数値を意図的に操作する視点は、「カスタマーは二の次、売れればよし」の安直商法の典型例で、CSRにはほど遠い。3度も顧客を裏切った企業に、未来はあるかーー。    (藤井良広)

http://www.mitsubishi-motors.com/publish/pressrelease_jp/corporate/2016/news/detailg420.html