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第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑤みずほ証券・ESG債引き受け実績で2年連続首位。サステナビリティ・リンク・ボンド(SLB債)や適応債などのアレンジで優秀賞(RIEF)

2021-02-08 09:38:00

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  みずほ証券は、2020年中に国内で初めて発行されたサステナビリティ・リンク・ボンド(SLB)や、適応事業を含む長野県のグリーンボンド等をアレンジし、ESG債の市場拡大に貢献しました。同社の引き受け実績でも、2019年度及び20年度(直近時点)と、積極的な実績をあげていることを評価されて、優秀賞に選ばれました。グローバル投資銀行部門のプロダクツ本部副本部長の戸高洋祐氏、同コーポレートファイナンス部サステナブル・ファイナンス室長の伊井幸恵氏に聞きました。

 

――サステナブルファイナンスへの取り組み状況をお教えください。

 

 戸高氏:2018年度からグリーンボンド等のSDGs債の発行量が特に増加し、サステナブルファイナンスに関するお客様の関心や発行ニーズが一層高まったことから、2019年4月にコーポレートファイナンス部内にサステナブル・ファイナンス室を立ち上げました。しかし、SDGs債の発行量は、2020年度も2019年度対比で爆発的に増えており、サステナブル・ファイナンス室のメンバーだけが専門家として対応するだけではなく、「全員戦力化」をとることでお客様のニーズに対応させて頂いております。

 

 まず、債券市場の引受担当者全員が、SDGs債案件を組成することができる体制をとりました。お客様の事業自体がサステナブルなものに変化する中で、ファイナンスの形態も、債券以外に、エクイティファイナンス、証券化を使ったストラクチャード・ファイナンス、ローンと絡めたもの等と多様化しています。

 

 そのため、サステナブル・ファイナンス室が情報のハブ、あるいは情報を集約する中枢となり、各プロダクツ部隊と連携し、それぞれの担当者が頭で考え、手を動かし、多様化するお客様のファイナンスのお手伝いをしていくことを目指して活動しています。

 

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 そういう中で、銀行をはじめとしたグループとの連携も非常に重要であり、リサーチセクションとも連携しながら、顧客ニーズに沿ったサービスを提供できるような体制を目指しています。われわれの一番の強みとしてアピールできるところは、全担当者がサステナブルファイナンスのことを考え、提案し、お客様の考えに寄り添って、それを実現する、ということができている点と考えています。

 

――そうすると、サステナブルファイナンスに関与する部隊は総勢何人くらいになりますか。

 

 戸高氏:関係者ということでいえば、グループ全体で数百人規模になると思います。

 

戸高氏
戸高洋祐氏

 

――SLBを日本で最初にやりましたが、昨年6月に国際資本市場協会(ICMA)が原則(SLBP)を発行してから、9月に発行という短期間でした。短期間でまとめられた背景はどうでしたか。

 

 戸高氏:弊社はICMAのワーキンググループのメンバーとしてSLBPの作成作業に携わっておりましたので、ワーキンググループでの議論の内容を踏まえながら、発行体との話を進めることができました。SLBPに則った透明性の高いフレームワークを構築することを意識すると同時に、多様な投資家とも並行して議論を重ねることで、日本初となるSLBの発行を実現できました。

 

――グリーンボンド等の資金使途を限定する方式のESG債ではなく、発行体のサステナビリティに関する改善目標の達成状況により金利が変動するので、発行体(不動産大手のヒューリック)の側には逡巡はありませんでしたか。

 

 戸高氏:サステナビリティの改善目標とする重要業績指標(KPI)の選定がカギでした。どのKPIを目標にするかは、第一号案件であり前例がないことから、チャレンジングな改善目標、かつその改善の動向が投資家に伝わるものとすべく、発行体と何度も議論を重ねてきました。結果的に、市場関係者に納得していただける、しっかりとした形のKPIを設定することができました。

 

――長野県のグリーンボンドも、みずほ証券がアレンジされました。長野県の同ボンドは、都道府県で東京都に次ぐ第二号ということと、資金使途に初めて気候変動適応事業を盛り込んだ点で、今回のサステナブルファイナンス大賞の選考で、グリーンボンド賞に選ばれました。「適応ボンド」も日本では初めてでした。こちらも資金使途対象のプロジェクトの扱いが課題だったと思います。

 

伊井幸恵氏
伊井幸恵氏

 

 伊井氏:適応(アダプテーション)や、レジリエンスという言葉は、ESGに携わっている方にはわかりますが、一般には認知されていない面があります。そこで、グリーンボンドを発行するに際して、どういう事業であればレジリエンスなのかという、そもそも論から議論しました。通常、われわれが対話をするのは自治体の財務部の方ですが、グリーンボンドの検討では、環境に関するデータや事業内容に関する理解も必要なので、長野県にお願いして環境部の方も一緒に議論する形にしてもらいました。

 

――各地での適応事業の必要性は高まっています。他の自治体でも今回の長野の事例は関心を持ってみているのではないでしょうか。

 

 戸高氏:そうですね。長野県の発行を受けて、他の自治体からも、アレンジしたみずほ証券の話を聞きたいという要望や問い合わせが非常に多く寄せられています。

 

――自治体のグリーンボンド発行には、議会の承認というカベがあります。予算にも縛られます。そういう課題について、自治体側も柔軟に対応できるようになってきたのでしょうか。

 

 戸高氏:発行のための生みの苦しみはあったと思いますが、すでに、そこの議論を経た上で進められていると思います。長野県の後に神奈川県もグリーンボンドを発行され、これらの先行事例があるというのが(議会等への)説得材料になります。そういう意味でいうと、長野県の案件はエポックメーキングだったと思います。

 

――ニプロのソーシャルボンドも手掛けられました。

 

 伊井氏:ニプロは医療機器メーカーですので、今回のソーシャルボンドにはコロナ対策に資する資金使途も含まれています。ただ、「コロナ債」と銘打たず、ソーシャルハイブリッド債という形にして、コロナ対策だけでなく、事業のソーシャル性に重きを置いて訴求している形になっています。

 

 当初、発行体のニプロは、一般的なハイブリッド債(格付会社が発行額の50%の資本性を認める劣後債)の発行を検討していました。そこをわれわれが、事業のソーシャル性を訴求することによって、より多くの投資家に賛同を得て投資してもらえる形を目指すことを提案しました。その結果、日本初のソーシャルハイブリッド債を実現できました。

 

 ニプロは、コロナ対策に資する事業を含めて医療機器・医薬品メーカーとして、元々社会課題の解決に貢献する活動をしていますが、投資家の理解をさらに高めるべく、ハイブリッド債起債に先立って実施したデットIR(債券投資家とのウェブ会議)などを通じてソーシャル性をアピールしました。投資家と一対一で向き合うことで、資金調達の意義を投資家に理解してもらい、多くの投資家を集めることができました。

 

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――ソーシャルのラベルが信用格付以上にプラス効果を発揮したということですね。

 

 伊井氏:そういう面もあったかもしれません。

 

――皆さんが顧客のニーズを見て、メニューに応じて開発して、アレンジすると。一方で、顧客の方もESG債をやってみようという動きが高まっているということですか。

 

 戸高氏:おっしゃる通りです。

 

――世界ではタクソノミーの議論がありますよね。制度的な議論ですが、ソーシャル等の分野ではまだグローバルな共通のタクソノミーは無いですね。そういう中でみなさんはどのように対応されていますか。個々の発行体のプロジェクトを判断する際に共通の尺度(タクソノミー)が無いと、顧客のニーズをみながらやるということになりますが、共通のクライテリアがあればもっとやりやすいでしょうか。

 

 伊井氏:私自身の認識では、EUのタクソノミーは日本の現状と乖離しているものがあると認識しています。われわれは2018年からClimate Bonds Initiative(CBI)とパートナー契約を締結しており、CBIのCEOであるショーン氏とも議論しながら、欧州の考え方も取り入れ、グローバルに市場関係者から認められるフレームワーク作りを行っていきたいと考えています。

 

――今後、これらのフレームワークが少しずつ変わってくる中で、皆さんの役割はどれが顧客にふさわしいかを、選ぶ立場になるかと思います。あるいは自分たちで自社タクソノミーを作るとか。サステナリティクスも自分たちでやっていますね。今の状況で自分たちでやるとか、そういう役割を皆さんが担っている、ぜひリーダーシップをとってもらいたいですね。今後は菅政権の2050年ネットゼロで風向きは変わるのではないでしょうか。

 

 戸高氏:菅首相の所信表明演説をわれわれは「ゲームチェンジャー」と認識しています。これが一つの機会となって、2050年ネットゼロに向けたいろんな動きが出始めているというのを、本当に肌感覚で感じています。

 

 事業会社の中でも、製造業等は本当にゼロエミッションに向かって何をしていくかを具体的に示していかないといけない、あるいは、すでにそれを出している企業は、その実現をより前倒しで達成していくというメッセージを対外的に発信していかなければならない状況になりつつあります。

 

 対外的な発信の中には投資家との対話も必要となります。その一つのツールとして、このサステナブルファイナンスが注目されていると考えています。トップダウンの形もあるだろうが、会社としてやらなければことだし、これをやることが私たちの仕事だ、というくらいに、マインドセットが変わっている部分があります。そういう中で急速に発行体と我々の間で議論が進んでいるというのが、ここ数カ月の動きです。

 

――ライバルはいっぱいいますし、がんばってください。サステナブルファイナンス大賞は毎年、連続受賞してもいいんですよ。

 

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 戸高氏:我々はサステナブルファイナンスの取り組みを始めた最初のころから、短期的な視点で第一号ということをアピールするための案件や、一度きりのグリーンボンドとなるような案件はあまりやろうとは思ってませんでした。ESG市場の拡大や、継続的・サステナブルな市場にしていくためには、どういう提案をしていけば一番適しているかというところに力を入れて組成をしてきました。

 

 その結果、発行体が発行する債券すべてがソーシャルボンドやサステナビリティボンドになるという形のフレームワークを鉄道建設・運輸施設整備機構や東日本高速道路、阪神高速道路等の案件で構築してきました。

 

 セイコーエプソンのグリーンボンド等でも、継続的なSDGs債の発行を可能にするため、会社の事業を全部洗いだして、その中でSDGs債の資金対象となる複数の事業を選び出し、SDGs債の「発行枠」を作るイメージの「ポートフォリオ型」のフレームワークを築きました。その中から債券の発行時に調達資金の対象となる事業を選択し、調達金額を機動的に判断しながら、継続的な発行ができる仕組みです。

 

 このようなポートフォリオ型のフレームワークは、グリーンビルディング等の適格アセットの残高を常に有する不動産投資法人を中心に広がり、事業会社などにも広がってきております。これからもこのような活動を通じて、ESGマーケットの拡大に貢献したいと考えております。

 

                     (聞き手は藤井良広)