HOME |第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑫長野県・気候非常事態宣言を率先し、自治体で東京都に次ぐグリーンボンド発行で、自治体初の「グリーンボンド賞」(RIEF) |

第6回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑫長野県・気候非常事態宣言を率先し、自治体で東京都に次ぐグリーンボンド発行で、自治体初の「グリーンボンド賞」(RIEF)

2021-03-04 21:24:08

nagano001キャプチャ


 長野県は都道府県で東京に次ぎ2番目にグリーンボンドを発行したほか、県が積み立てている基金を活用してESG投資等にも積極的に取り組んだことを評価され、グリーンボンド賞に選出されました。自治体のサステナブルファイナンス大賞での選出も東京都に次ぎ2件目となりました。同県気候変動担当部長の高橋功氏にお聞きしました。(インタビューはオンラインで行いました)

 

写真は、グリーンボンド賞の表彰状を掲げる阿部守一長野県知事)

 

――長野県がグリーンボンドを発行した経緯をお聞かせください。

 

 高橋氏:2019年11月の県議会定例会での「気候非常事態に関する決議」を受けて、知事が翌12月に「気候非常事態」を宣言し、あわせて「2050年二酸化炭素排出量実質ゼロ」を決意しました。県民が一丸となって、将来世代の生命を守るため、気候変動対策としての「緩和」と、災害に対応する強靭な街づくりを含む「適応」の二つの側面での取組の強化を打ち出しました。

 

 県のあらゆる政策に、気候変動対策の観点を取り入れて取り組む中で、緩和と適応に必要な施策の資金を調達するため、グリーンボンドを発行することとしました。気候変動対策の資金調達のためにグリーンボンドを発行している自治体は、東京都のみでした。ただ、都市部の東京都だけでなく、我々地方の自治体がグリーンボンドを発行することで、他の自治体の発行も後押しできるのではないかと判断しました。

 

――都道府県レベルでの気候非常事態宣言は長野県が全国でも初めてでした。県として危機意識が非常に強いということですね。

 

   高橋氏 :  長野県は2019年10月に日本を襲った東日本台風で千曲川が氾濫するなど、大きな被害を受けました。非常事態宣言でも明記しているように、気候変動は地球上の人間社会の存続を脅かしており、この非常事態を座視すれば、未来を担う世代に持続可能な社会を引き継ぐことはできないとの危機感を強く持ちました。

 

nagano003キャプチャ

 

 また同年6月に軽井沢町でG20のエネルギー・環境閣僚会合も開催され、「持続可能な社会づくりのための協働に関する長野宣言」を世界に向けて発信しました。気候変動に対する地方自治体や非政府組織が果たす役割の重要性が世界的に強調されていることも、宣言に至った背景にあります。

 

――グリーンボンドを発行するまでの準備で一番大変だったのはどういう点ですが。これまで日本での自治体によるグリーンボンド発行は東京都しか例がありませんでした。

 

 高橋氏 :  これまでの地方債発行にはない作業もあり、苦労しました。また、グリーンボンドを発行している自治体が東京都のみということで、手探りの状況でした。我々としては、県が実施する事業の資金調達としてだけではなく、他の自治体や事業者によるESG投資の機運を醸成することも念頭にあり、緩和、適応の両面で、できるだけ幅広い分野の事業を対象とし、かつグリーンボンドフレームワークを公開することで、他の自治体や事業者の将来の発行に資することも意識しました。東京都にも助言をいただき、取組の参考にしました。

 

――主な資金使途はどうなっていますか。

 

 高橋氏 : 緩和策と適応策の両方の対応が不可欠であり、充当事業としてはどちらも取り込むべきと考えていました。緩和事業では、長野県の自然を活かした小水力発電所の設置や、地域鉄道である「しなの鉄道」の省エネ型車両更新に対する補助金の原資も含めました。また県の各施設・設備の改修に伴い、LED化や省エネ型空調設備への更新、高断熱化等も進めました。

 

 気候変動への適応事業では、道路法面の防災事業、水害対策のための河川改修(拡幅、掘削工事等)、砂防、治山、地すべり・急傾斜地崩壊対策、水災害発生時の安全で信頼できる交通インフラの確保、水災害発生時の浸水被害の緩和策、土砂災害の緩和、生物自然資源保全や土地利用に際しての環境持続型管理、信州の森林づくり事業での林道整備等も対象としました。

 

――グリーンボンド発行に対する県民や、県内の投資家・事業者からの反応はどうでしたか。

 

 高橋氏 : 30の投資家から投資表明をいただきました。そのうち、21件は県内の投資家でした。このことからも、県内でのESG投資の促進に貢献できたのではないかと考えています。さらに今回のグリーンボンド発行を契機に、同年11月には、知事と、本県グリーンボンドに投資表明をいただいた県内の投資家(民間、市町村、金融機関等)とが、「2050ゼロカーボン」の実現に向けた意見交換会を開きました。その際、投資家側からは、「持続可能な社会の実現という方向性に賛同する」ことを投資判断にしたとの声や、「今後も県として積極的な情報発信を期待する」との声をいただきました。

 

nagano002キャプチャ

 

――県の資金運用面でもESG運用を行っているようですね。

 

  高橋氏  :  県が積み立てている基金の運用として、これまで、鉄道建設・運輸施設整備機構が発行したサステナビリティボンド、住宅金融支援機構のグリーンボンド、東日本高速道路のソーシャルボンド等のほか、我々とほぼ同時期に神奈川県が発行したグリーンボンドにも投資しました。これらのESG債への投資は、国連の持続可能な開発目標(SDGs)を推進する取組として位置付けており、資金運用を通じて、持続可能な社会の形成に寄与し、社会的使命・役割を果たすことを心がけています。

 

――今後の調達・運用の両面でのサステナブルファイナンスへの取組は、一定の割合で続けていくことになりますか。


 高橋氏 : 気候変動との闘いはこれからが正念場です。本県の産業構造は製造業が中心ですが、ローカルな会社だから関係ないというものではなく、サプライチェーン全体で好循環な社会の構築を目指します。そのために国、事業者、県民等と連携し、将来世代に胸を張って、豊かな地球環境を引き継いでいくことができるよう、日本のみならず世界の気候変動対策に貢献してまいります。

                           (聞き手は 藤井良広)