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第7回サステナブルファイナンス大賞インタビュー④優秀賞、三井住友銀行。法人向けのグリーン預金を国内で初めて実施。企業主導の社会性事業へのファイナンスにも力(RIEF)

2022-02-14 11:03:53

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  三井住友銀行は国内で初めて法人向けのグリーン預金を開発するなど、多方面でESG関連のビジネス展開を続けていることから、サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。常務執行役員でグループ最高サステナビリティ責任者(CSuO)の伊藤文彦氏と、ホールセール統括部サステナブルビジネス推進室長の金子忠裕氏にお聞きしました。

 

――法人向けのグリーン預金を国内で初めて開発されました。銀行自身の資金調達サイドのグリーン化でもありますが、同商品を開発したきっかけを教えてください。

 

 伊藤氏:われわれはこれまで、グリーンボンドやグリーンローンといった、顧客の資金調達に関する金融商品を中心に開発、提供してきました。顧客企業のバランスシート(貸借対照表)でいうと、これらは負債サイドになります。一方で、サステナビリティに高い関心があるものの、足許で具体的な資金調達計画がない顧客もいるので、そのような顧客に対しても提供できる金融サービスが不足しているという課題認識がありました。そこで、もう一方の資産サイドについても、グリーン化できるような取り組みができないか、との発想から、海外で先行していた同種の商品に着目し、「顧客のバランスシートの右側(負債)も左側(資産)もグリーンにする」というコンセプトのもと、グリーン預金の開発に着手しました。

 

 実は、本商品は、行内のESG意識の高い一人の女性総合職が、海外で積極的に取り組んでいる英スタンダード・チャータード銀行の事例等の情報を集めて、関係部局との調整も横断的に手掛けるなど、積極的に走り回り、数か月で商品化させたものです。行内でも、中堅や若手の行員の間で、ESG意識が高まっていますが、彼らが、自分たちの問題意識を踏まえて、こうしたESG金融商品ができないかという発想から、商品化にまで持っていけたという経緯です。

 

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伊藤氏㊧、金子氏㊨

 

――以前に、日本でも個人向けにグリーン預金を開発して募集した事例がありました。その際に当時の金融庁が、特定の資金使途先と預金が連動する導入預金につながる懸念があるとして、事実上、取り止めになった経緯があります。今回は当局の反応はどうでしたか。

 

 伊藤氏  :  結論から言うと、特に懸念はありませんでした。まず、グリーン預金の商品化の過程で、本商品が導入預金に該当するか否かという観点で、金融庁にも事前相談をさせて頂きました。本商品は導入預金とは異なり、預金者は運用先を指定することが出来ない点や、われわれが策定した「SMBCグリーン預金フレークワーク」に基づき、運用先もわれわれが指定する仕組みである点等を説明し、当局からも、導入預金の懸念はないとの判断を得ました。

 

――銀行が預金の貸出先のリスト等を設定するのですか。

 

 伊藤氏  :  そうです。適格グリーン事業として、再生可能エネルギーや省エネ事業、グリーンビルディング等を設定しています。グリーン預金を活用したこれらの事業への融資は、定期的に資金使途を点検することで、グリーンな事業に貸し出していることを確認する仕組みをとっています。

 

――顧客に対しては、預かった預金の資金がどこに貸し出されるかということは説明するのですか。

 

 金子氏:海外のグリーン適格事業へのプロジェクトファイナンスに充当することは前もって説明します。ですが、一つ一つのプロジェクトに資金を紐づけると、導入預金に近くなるので、そこを「紐づけない」という形を維持することが、今回のポイントになります。われわれは過去に外貨建てでグリーンボンドを複数回発行しています。その際に、ボンドの資金使途として海外のグリーンプロジェクトへのファイナンスに充当した実績がありますので、その際のスキームを応用して貸し出す形をとっています。


――企業側の反応はどうでしたか。

 

 伊藤氏:昨年4月1日に公表しましたが、公表時点から、顧客企業からの問い合わせが数多く寄せられました。想定以上に反応が良かったと思います。余資を抱えている企業にとっては、それらをどう使うかと言った時に、グリーンなところに預金するというわれわれの商品のコンセプトに賛同して頂き、商品の価値を評価していただけたと考えております。

 

 

 金子氏 : 反応は国内外の両方の企業からありました。これまでの預金受け入れ件数は、約20件で、預金額は総額5億㌦ほどになっています。当初、預け入れ金額は1件当たり5000万㌦以上でしたが、10月以降は1000万㌦以上に引き下げています。外貨建て預金で、最初の米ドルのみの取り扱いから、現在は香港ドル、豪ドル、シンガポールドル、タイバーツ、人民元も扱っています。

 

――大手企業の余資を預かるということですか。

 

 伊藤氏:そうです。それから、ポイントは外貨という点です。われわれにとっても海外での活動を展開する上で、外貨調達は一つの課題です。顧客企業の余資運用に応えることに加えて、われわれの戦略にも合致したことになります。グリーン預金の取り組みについては、海外機関投資家向けのIRにおいても説明しており、投資家の方々からも高い関心を持ってもらっていると感じています。

 

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――一口1000万㌦以上というのは個人では無理ですね。今回、われわれのサステナブルファイナンス大賞では、三重県の百五銀行を、個人向けのグリーン預金の実施で地域金融賞に選びました。三井住友銀行もリテールに力を入れておられると思います。今後、個人向けに小口化したグリーン預金を提供する考えはありますか。

 

 伊藤氏  :  もちろん個人向けの商品化についても、検討はしています。ただ、小口になるとシステム対応等の課題もあるので、顧客のニーズ等を踏まえて、今後、実現可能性を詰めていきたいと思っています。

 

――グリーン預金以外では、雇用促進住宅というソーシャルな住宅向け融資も展開されました。

 

 伊藤氏:フォートレス・インベストメント・グループが、雇用支援機構(JEED)が全国で展開していた集合住宅を一括購入し、大規模改修工事により「ビレッジハウス」として再生する事業を支援しました。屋根には太陽光発電を設置し、温室効果ガス排出量削減にも貢献し、高齢者、障碍者、求職者、外国人家族らに提供するソーシャル事業です。われわれは、同社の事業に対して、金融機関のアレンジャーとして、日本政策公庫ほか計4行とのシンジケーション団を組成してソーシャルローンを提供しました。

 

 これまで、低中所得者向け等の社会性の高い住宅事業は、国や地方自治体が主導していました。これに対して、フォートレスの事業は、民間企業が中心になって手がけたという点が画期的だと思います。公的セクターが担ってきたものを、民間企業が環境にも、社会にも配慮した事業として展開する取り組みに、われわれもファイナンスの提供でお手伝いをさせて頂きました。

 

――事業のソーシャル性の評価はどうしましたか。

 

 伊藤氏:ESG評価は不動産分野の外部評価であるGRESBの評価を得ました。住宅そのもののESG評価を客観的に付してもらう一方で、事業の収益性についてはわれわれが評価しました。同事業は、雇用促進事業団から払い下げ物件を、取り壊すことなく、リノベーションをして再生します。建て替えの際に出る廃棄物を減らすサーキュラーエコノミーにも寄与する案件だと思います。

 

――今後のESGファイナンスをどう考えておられますか。

 

 伊藤氏:先ほどお話したように、ソーシャルローン等も含めて、サステナブルファイナンスはさらに拡がっていくと思います。われわれとしては企業の大小を問わず、より幅広くソリューションを提供していきたいと考えています。企業がESG関連事業に取り組む際の「入口」での水先案内も大事です。中堅・中小の顧客企業の中には、ESGやサステナビリティと言っても、そもそも何をやったらいいのか、と悩まれているところがまだ少なくありません。

 

 そうした顧客企業に対しては、グループ会社の日本総合研究所と協働で開発したディスカッションツールも活用しながら、企業が脱炭素に取り組むには、各社の実態に応じて、適正なマテリアリティ(優先課題)の設定や、重要業績指標(KPI)の整理等を提案していく。そうした提案に加え、企業の脱炭素への取組み支援に向けて、各社の温室効果ガス排出量を可視化できるクラウドサービス「Sustana」も現在開発しています。企業およびそのサプライチェーンの温室効果ガスの排出量の算定を支援し、SMBCグループやパートナー企業一丸となって削減策を提案していくことで、企業の脱炭素経営実現に伴走していく取組みに力を入れています。

 

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――顧客企業の手応えはどうですか。

 

 金子氏:「Sustana」は中堅・中小の顧客に使ってもらえるように、汎用性の高いツールとして開発しました。ところが興味深いのは中堅・中小企業だけでなく、サプライヤーを多数抱える大企業からも、自分たちのサプライヤー企業の脱炭素化のために活用したいといった問合せも多く寄せられている点です。かなり幅広い企業層から関心を頂いていることからも、脱炭素化社会の実現に向け、顧客企業の動きも高まっていると感じています。

 

                            (聞き手 藤井良広)