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第7回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑧地域金融賞、百五銀行。円建てリテール向けグリーン預金を国内で初めて開発・実施(RIEF)

2022-03-04 17:53:25

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 百五銀行(三重県・津市)は、円預金によるリテール向けのグリーン預金の取り扱いを国内で初めて実施したことを評価され、第7回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞に選ばれました。同行執行役員経営企画部長の浦田康寛氏に聞きました。

  

(上の写真は、㊧から営業開発部長 森健彦氏、取締役常務執行役員 南部昌己氏、営業開発部預り資産課長 池田和隆氏)

 

――グリーン預金を企画、発売するきっかけを教えてください。

 

 浦田氏:百五銀行は2019年にSDGs宣言をしました。同宣言に基づいて、銀行としてのSDGs活動を進める一方で、われわれが活動する地域や預金者等を巻き込んだ活動ということはなかなかできていませんでした。銀行として、気候変動リスクを情報開示するTCFDに賛同表明したこともあり、銀行のScope3に相当する取引先、顧客への対応も進めていかなければならないという思いもあって、地域や預金者の方々の環境意識をさらに高めていただくための活動を模索していました。

 

 そうした中で、メガバンクにおいて外貨建てのグリーン預金を提供するところが登場したことを知りました。ただ、外貨建てのグリーン預金では、われわれの個人・法人の顧客の場合、ハードルが少し高いと考え、外部機関とも相談したうえで、円預金によるリテール向けのグリーン預金のフレームワークを設定することにしました。

 

――外貨建てのグリーン預金では難しいのですか。

 

 浦田氏  :  外貨建てのグリーンボンドやグリーンローンを集める場合は、当然、その資金の振り向け先は、外貨を調達される企業等になります。しかし、われわれは三重県を中心とする地域に根差した銀行です。外貨での貸出先というのはシンジケートローン等に参加する場合はあり得ますが、なかなか自発的に探すことは難しいのが実態です。

 

浦田氏
執行役員経営企画部長の浦田康寛氏

 

 また、地元の人がグリーン預金にお金を預けるとした場合、集めた資金の運用先が海外の企業になると、自分が預けた資金が実際に環境に貢献していることを実感してもらいにくいのでは、という問題意識もありました。そこで何とかして、円建てでのグリーン預金を設定できないか、と考えました。

 

――商品設計で意識された点はどういう点でしょうか

 

 浦田氏 : 円建てにすると、顧客の資産運用としてはリスクが少ないので、参加してもらい易いという点があります。もう一つ付け加えるならば、預金期間ですね。グリーンボンドでの資金調達だと手数料のコストもあり、発行体としてはある程度長い期間のボンドを発行しないと採算が合わなくなります。しかし、預金の場合は、初期投資が非常に少なくて済むので、期間も短く設定できます。預金を預ける企業や個人のニーズも、あまり長期間にわたって預けるよりは、短い期間のほうが、参加し易いと考えて、「預入期間6カ月以上、1年以内」に設定しました。

 

――預金の預け入れ単位は1000万円からですが、ちょっと高いのではとの声もあります。


 浦田氏 : ボンドでの最小単位は1億円が普通です。預金の場合、1000万円は個人の大口預金の最小単位と同じなので、個人の方でも預け入れしてもらえる金額だと考えました。発売の前に顧客に対してプレマーケティングをした際にも、非常に好感触を得ましたので、1000万円でいけると判断しました。

 

 しかし、最初は初めての商品なので、販売に苦労するのではとも考えました。プレマーケティングの手応えもあり、期間を昨年の12月1日~24日に限定し、募集額30億円の期間限定商品として11月15日から予約募集を始めました。ところが、予約開始後の3日間で売り切れてしまいました。

 

――すごい人気でしたね。これだけの反応は予想されていましたか。

 

 浦田氏  : プレマーケティングでの手応えがあったので、それなりに売れるとは思っていました。ですが、それが3日で「完売」状態になってしまったのは、うれしい悲鳴というか、やはり、想定外でした。

 

――どんな顧客が預金をしてくれたのですか。


 浦田氏 : 顧客数ベースでは地域の企業等の法人が89%、自治体等の公金関係が9.7%(約10%)、残りが個人でした。目標とした個人の預金者は想定よりもだいぶ少なかったですね。これには理由があります。予約開始後の3日間で売り切れてしまったため、個人向けの営業を展開する前に、預金の枠が埋まってしまったため、個人の預金者に回す預金枠がなくなってしまったというのが実態なのです。

 

 企業は1000万円の最小単位よりも大きな金額で預けるところが多かったですね。30億円の募集枠(実際の預入額は32億9000万円)のうち、預入額ベースで71%が法人で、23億3000万円となりました。自治体等の公金は25.3%の8億4000万円。個人は3.6%の1億2000万円でした。あっという間に売り切れてしまったので、法人、個人両方の多くの顧客から、次回にはぜひに、とのご要望もいただいています。

 

――その次回の計画はどうなっていますか。

 

 浦田氏: 発行に際して「グリーン預金フレームワーク」を設定しており、同フレームワークに準拠すれば、繰り返して預金を募集できることになっています。セカンドオピニオンも、預金募集の都度に何度も取る必要はありません。ですので、ぜひ、これからも募集していきたいと思っています。ただ、グリーン預金で集めた資金は、環境・再生可能エネルギー事業への融資に充当しますので、貸出先との見合いになります。再エネ事業は、太陽光、風力、水力の各発電事業としています。

 

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 昨年12月末に発表した次期中期経営計画では、サステナブルファイナンス目標として、2022年度から2030年度末までの約9年間で、合計1兆円の実行を目指しています。そのうちの半分の5000億円は環境関連の事業に融資しようと思っています。この目標もありますので、目標とマッチするような形で、資金調達面でもグリーン預金をこれから先もタイミングよく企画して出していきたいと考えています。

 

――第一回目は期間限定の募集でしたが、今後もそうなりますか。

 

 浦田氏  : そうですね。一年間通じて募集するとなると、恐らく、相当な金額が集まる可能性があると思います。そうなると、グリーン預金ですので、集まった預金額を確実に環境関連の融資に振り向けることができないと、預金者を裏切ることになってしまいます。そうした事態は避けねばなりません。いつでも預金したい個人の方には申し訳ないですが、当分は、期間限定、金額限定で続けたいと考えています。

 

――――融資対象とする再エネ事業は百五銀行の営業管内の事業に絞るのですか、それともどこの事業でもいいのですか。

 

 浦田氏  :  融資の対象地域は、我々の営業区域とする三重県や愛知県等に限定していません。日本国内の再エネ事業であれば、どこでもOKとしています。最初の募集についても、集まった預金は全国3件の太陽光発電事業への貸し出しに充当しました。事業の詳細な点は顧客の取引情報なので詳しくは説明できませんが、すべてプロジェクトファイナンスのシンジケートローンです。

 

 今回は太陽光事業ばかりでしたが、先に指摘しましたように、フレームワークでは、資金使途に風力、水力も含めています。ですので、案件があれば、それらの事業向けの融資にも積極的に取り組みたいですね。

 

――今後の商品設計という点で、募集枠を増やしたり、個人預金者だけに絞るとか、預入最小単位をもう少し小さくするとかの見直しの可能性はどうでしょうか。

 

 浦田氏  :  募集枠については積極的に金額を増やすことも考えたいですし、個人だけに絞った募集を行うことも検討対象のひとつです。いずれも融資先の案件を確保できるか次第です。再エネ事業も最近は、新設の太陽光発電の案件などはだいぶ減っていますし、設置場所の問題で地元との協議でもめる案件も増えています。そうした案件は当然、融資対象にはできません。

 

――他の地方銀行や周辺の中小金融機関からの反応はありましたか。

 

  浦田氏  :  他の地銀からも反応はありました。どういう風にやったのかとか、詳細な設計とか、コストはいくらかかるのかとか。ただ、従来からある預金をベースにしていますので、商品性としては珍しいものでもありません。金利も高くしていないし、追加コストは、セカンドオピニオンを得るコストぐらい。どの地銀でもできると思います。

 

――百五銀行がリードしてグリーン預金を集める他の地銀と一緒に、シンジケート団を組んで大規模な地域立脚型の再エネ事業に融資するという展開になることを期待します。


 浦田氏  :  それはいいですね。実現できれば、おもしろいと思います。

 

――百五銀行が2030年度末までに目指すサステナブルファイナンスでの5000億円でのグリーンファイナンスについて全体の計画はどういう展開になりそうですか。

 

 浦田氏   :   資金調達については、われわれはバーゼルの自己資本比率規制の国際基準行ではありませんので、劣後債等で資金調達をするニーズはあまりありません。また現在のように預金が潤沢に集まっている中では、社債での調達はあまり考えられません。そうした資金調達は今後やる可能性はあるとしても、顧客の皆さんにも参加してもらう方向としては、われわれの場合はグリーン預金のほうがマッチしていると思います。

 

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 貸し出しについては環境関連融資について、これからメニューを増やしたり、あるいは顧客企業向けのCO2削減コンサル等を通じて、資金需要を貸出先と一緒になって作っていくことで環境関連融資を増やしていきたいと考えています。現状では、自社から排出するCO2の測り方がわからないという企業もたくさんあります。そこを専門事業者とわれわれが提携することで、ビジネスマッチングとして顧客にCO2測定ツールを提供し、把握したCO2を削減するためのコンサル、必要な設備投資については環境関連融資、サステナブルファイナンスを提供することでカバーしていきたいと思っています。

 

――百五銀行の営業エリアでの地域的な需要として、サステナブルファイナンス関連の需要はかなりありそうですか。

 

 浦田氏  :  地域でのアンケートベースですが、需要はかなりあると考えています。三重県、愛知県は自動車関連のサプライヤーになっている製造業が非常に多い地域です。中心にトヨタやホンダという自動車メーカーがいて、非常に厳しいCO2削減目標を課しています。サプライチェーンの中小企業もこうした目標に対応していかねばなりません。そうなると、従来通りの作り方、製造方法を見直さなければならない。場合によると、製造物そのものを、従来のものから大幅に変えねばならないかもしれません。

 

 こうした状況の中から、資金需要も生まれてくると考えています。ただ、個人の方にCO2削減を浸透させていくのは非常に難しいと思っています。この点では、政府や三重県等の自治体と一体になって啓蒙活動を地道に進めていく必要があると思っています。

 

――百五銀行自体の脱炭素の目標は。

 

 浦田氏  :   銀行の活動からの温室効果ガスのScope1~2については2030年度末にネットゼロとすることを次期中期経営計画で発表しました。取引先等に排出量の削減を求めるScope3については、銀行の場合、測定することも大変です。現状ではまだScope3を含めたネットゼロへの道筋は打ち出せていません。まずは、取引先の排出量を把握することに取り組みたいです。Scope3については、取引先企業に対する啓蒙活動から始め、排出量を測定・把握し、それを取引先が削減する活動を、われわれがお手伝いをしながら減らしていくことになると思います。

 

                            (聞き手は 藤井良広)