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第7回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑨NGO/NPO賞、豪マーケット・フォース(Market Forces)。住友商事やMUFGへ脱炭素を求める株主提案の実施(RIEF)

2022-03-07 08:53:41

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 オーストラリアの環境NGOのマーケット・フォース(Market Forces : MF)は2021年中に住友商事と、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の株主総会で気候対策の強化を求める株主提案を行い、両企業の株主から2割以上の賛同を得ました。一昨年の気候ネットワーク(KIKO)に続いて、NGOが主導する株主へのエンゲージメント活動として、サステナブルファイナンス大賞のNGO/NPO賞に選ばれました。MFのアナリスト、鈴木幸子氏に聞きました。

 

――MFはオーストラリアのNGOですが、昨年は2件も日本企業への株主提案をされました。MFとして日本企業を対象としたエンゲージメント活動を手がけた理由を教えてください。

 

 鈴木氏:MFはオーストラリアで始動しましたが、東南アジアやヨーロッパにも拠点があり、働きかけの対象もグローバルになっています。日本企業をターゲットとした理由には、確かにオーストラリアの化石燃料関連事業に日本企業が関与しているということもあります。ですが、日本企業の海外進出やODA拠出はアジアが中心で、各地で化石燃料関連事業(採掘やプラント建設等)に多額の投資を行い、その結果、日本企業が環境破壊や人権侵害に加担していることを是正させたいというのが、より重要な理由です。特に、日本の産業界がもたらす気候変動への悪影響、またその結果として日本国内外の、気候変動の影響にぜい弱な各地で安全な暮らしが脅かされることを懸念しています。

 

MFアナリストの鈴木幸子氏
MFアナリストの鈴木幸子氏

 

――2021年だけでなく、ここ数年来の日本企業の活動に対する懸念を持っているということですね。

 

 鈴木氏  :  日本企業への働きかけは、ここ4~5年実施しています。われわれは、日本やヨーロッパ、アメリカのみならず、東南アジア・南アジアも含め、世界各地のNGOとつながりがあり、東南アジア・南アジアを拠点とするパートナーNGOとのコミュニケーションの中や、自ら調査も行う中から、石炭火力発電所や、LNG採掘・ターミナル・火力発電所といった電力・エネルギー関連事業における、日本の役割が顕著であるとみています。

 

――その中で、住商とMUFGを選んだのは、両社の活動が目立っていたためですか。

 

 鈴木氏  :  そうです。住商については、石炭関連の事業方針で、他の総合商社よりも遅れていたためです。同社はバングラデシュのマタバリ石炭火力発電所の建設に関与し、同発電所の拡張計画への参画も予定していました。パリ協定以降の石炭火力への逆風を読み誤り、引くに引けない状況になっていたためと思っています。

 

 マタバリはODA案件ということもあって、政治的な背景があるのかもしれません。いずれにしても住商の石炭関連事業方針が、他の商社よりも遅れていたので、改定の動きを加速させたいというのが主な理由でした。(住友商事は2022年2月28日、環境政策の基本方針を見直し、新規の石炭火力発電事業・建設工事請負の「例外条項」を削除、マタバリ火力拡張計画への参画を見送った)

 

――MUFGについても石炭火力発電向け融資ですか。

 

 鈴木氏   :   MUFGは石炭関連の投融資額が、邦銀の中ではナンバーワンで、かつ世界でも6位という大きさが理由です。住商についてはわれわれMFが単独で株主提案を出しましたが、MUFGについては、日本のKIKO、RAN、350japanと共同提案しました。

 

――MUFGについては最初から日本のNGOと連携する方針だったのですか。

 

 鈴木氏:2020年にKIKOがみずほに対して行った株主提案のインパクトを拝見していて、株主提案が日本の企業の行動に影響を与えるには有効ではないかと判断しました。MFはかねてより日本の金融機関に対してエンゲージメントを行うNGOと協働してきました。協働関係にある他の団体も同じ評価をしていたようで、2021年には共同提案という形になりました。

 

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――両社への株主提案に共通する狙いは、日本企業がアジアを含むグローバルな活動の中で、化石燃料関連事業や環境負荷の高い活動を高めていることを抑制させたいということですね。

 

 鈴木氏:日本の産業界にとってアジアは重要な投資先であり輸出先です。アジア諸国も日本からの投資を重要視しています。つまり、日本の産業界は長期的なアジアの発展のあり方に影響を及ぼしうる立場にあります。

 

 ただ、日本の産業界は、化石燃料依存を継続することで、アジアも巻き込んで気候変動に対して危険な賭けをしていると思います。その結果、日本企業に投資している投資家の財務リスクをも高めていると思います。

 

――MFは企業の化石燃料抑制に重点に置いているのですか、あるいは企業のESG全体の改善を求めているのですか。

 

 鈴木氏  :  MFは2013年に始動しました。当時、環境団体の間では環境関連の政策や法律を変える働きかけが主流で、企業を対象に、(気候変動の最大の原因である)化石燃料のインベストメントチェーンへの働きかけに特化した動きは、まだほとんどありませんでした。そこで創設者のジュリアン・ビンセントは、企業や金融機関の資金の流れを化石燃料から再エネ等へと変えることが、実効的な排出削減に必要なのではないかと考え活動を始めました。

 

 われわれの活動は入念な調査を元に実施しています。化石燃料インベストメントチェーンには採掘企業、電力会社、銀行、保険会社、また、これらの企業に投資を行う資産運用会社や年金基金等いろいろあると思います。そうした関連企業を調査して、最も重要と思われるところを選択してアプローチします。そうした中で、アジアの化石燃料依存の問題で日本の役割が大きいので、日本企業への働きかけは重要視しています。

 

――MUFGでは日本のNGOと連携しましたが、国際的なNGO連携は今回以外でも、よく行っているのですか。

 

 鈴木氏  :  共通の目的達成のために各々の強みを生かし協働することはお互いにとってプラスです。例えば日本のNGOであれば日本の政策の分析が得意であったり、他方、われわれの場合、グローバルな機関投資家との対話の実績があったり、といった異なった強みがあります。すでに実績のある国際連携を、今後もより強化できればと思います。

 

 日本の環境団体などの非営利分野で働いている人たちは、重要な使命や目的のために尽力されており、日本にとって貴重な人材だと考えています。強い意志を持っているだけでなく、専門知識や語学力の面でも優れた人が多く、私としても学ぶことが多いと感じています。国の政策転換や企業行動の変化を促すためにも、日本の社会全体としてNGO強化に取り組むべきだと考えています。

 

――株主提案を行った2社とは直接対話をする機会はありましたか。

 

 鈴木氏:はい。われわれは、株主提案ありきで、企業との対話に臨んでいるわけではありません。われわれが求めているのは企業側の行動変化です。われわれの懸念事項をお伝えし、企業側の対応をみたうえで、不十分であれば株主提案もやむなし、というスタンスです。

 

 株主提案提出後、総会までの間に両社とは何度もミーティングを持ちました。その間に、両社とも方針強化をされましたが、依然、パリ協定目標と整合するものではないと判断し、提案は取り下げませんでした。ただ、両社の方針強化は、不十分ながらもわれわれの株主提案がなければ見られなかったことだと思っています。投資家の中には、企業側の説明で納得した方もいたかとも思いますが、それでもなお、多くの投資家がわれわれの提案に賛成票を投じてくれました。賛成率は住商が20%、MUFGが23%でした。賛成率よりも、株主提案というツールを通じて気候変動対策をいかに経営戦略に落とし込むかについて、経営陣を巻き込んだ議論を真剣に行うきっかけを作ったことが重要だと考えています。

 

――今年はどうしますか。みずほと、MUFGについてはすでに株主提案を実施したので、日本の3メガバンクでは、もう一つのグループが残っています。

 

 鈴木氏  :  今はまだ何とも言えません。複数の日本企業との対話は継続しています。株主提案は、企業に与える影響もさることながら、われわれにとっても大きな労力がかかることなので、様々なバランスを考えながら、慎重に検討したいと思っています。

 

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 ――石炭に代わって天然ガス開発が、水素製造を含めて進行する可能性があります。天然ガス利用が途上国を含めてさらに進むと、GHG排出量はむしろ増える可能性もあります。

 

  鈴木氏   : その点は、われわれも、石炭の延命、ガスの拡張を意味するものとして懸念しています。燃焼時にCO2を出さないということで水素・アンモニアが注目されていますが、原料は石炭やガスです。CCSでCO2を地下に貯留することを前提としていますが、環境への影響やコストの面で、これらの技術の大規模な商用化が実現する時期はまだまだ先のことでしょう。早くても2040年代とされています。日本政府もこれらの技術を推進する日本の商社やエネルギー企業も追加的なCO2排出や経済合理性について、現状では触れていません。

 

 一方で、国連環境計画(UNEP)の報告では、1.5℃目標を達成するには2030年までの8年間で排出量を半減させる必要があるとしています。この8年が「最後のチャンス」とされる中で、40年代以降に商用化するような技術に脱炭素の命運を託すのはどうなのでしょうか。再エネ普及を加速させる蓄電池開発や、洋上風力等にもようやく力を入れてきていますが、水素・アンモニアやLNGに劣後していると言わざるを得ません。

 

 日本政府・産業界は、燃料水素・アンモニアは輸入調達するとしています。COP26で、日本は署名しませんでしたが、先進国のみならず東南アジアも含め多くの途上国が「石炭からクリーン電力への移行に関する声明」に署名しました。こうした世界的な努力がある中で、日本に輸出するための水素・アンモニア製造時のCO2排出は、誰が責任を持つのかということも議論する必要があります。

 

――日本の政府や企業は、「アジアは自分たちの『庭』」と思っているようですが、アジアの人の視点は多様だと思います。

 

 鈴木氏  :  私もそう思います。燃料アンモニア開発等で、経産相が東南アジア歴訪した際に、現地で高い関心があったといった報道がありましたが、日本に対する外交的配慮からくる発言の可能性もあります。また、本当にアジアにそうした市場があるのでしょうか?日本の財政状況を考えても、官民あげてそこに巨額の資金をつぎ込む余裕があるのなら、もっと再エネ開発に力を入れ、真剣に巻き返しを図るべきだと思っています。

 

                           (聞き手は 藤井良広)