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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑤優秀賞:T&D保険グループ大同生命保険。EUのSFDR9条ファンドで1.35億㌦運用。日本の金融機関で初。インパクト投資を重視(RIEF)

2023-02-16 12:35:06

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写真は、㊨から、環境金融研究機構の藤井良広、大同生命資金運用部部長の伊藤秀弘氏、同部インベストメント・オフィサーの岩本哲平氏、サステナブルファイナンス大賞審査委員の佐藤泉弁護士)

 

  T&D保険グループの大同生命保険は、スイスの運用機関へ委託する形で、EUが定める「サステナブルファイナンス情報開示規則(SFDR)」でサステナブルファイナンス投資を目的とした「9条ファンド」を、日本の金融機関として初めて設定しました。この点を評価して第8回(2022年)サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選びました。同社の資金運用部インベストメント・オフィサーの岩本哲平氏にお聞きした。

 

――日本の資産運用の大手として「SFDR9条ファンド」を設定したのは初めてであり、長期運用を柱とする生命保険の運用の在り方として先進的との判断で、優秀賞に選びました。同ファンドの設定をしようと考えたきっかけは何だったのでしょうか。

 

  岩本氏   :   まず前提として、生命保険業は社会性・公共性の高い事業です。そうした事業を行う当社にとって、機関投資家としての社会的責任を果たし、投資活動を通じて持続可能な社会の実現に貢献することは、基本的な責務の一つと考えています。このような考えに基づいて、これまでも、責任投資原則(PRI)や国連の持続可能な開発目標(SDGs)等を踏まえ、環境・社会・企業統治の課題を考慮するESG投資に積極的に取り組んできました。

 

 今回、投資したファンドは、債券投資を通じて経済的リターンの獲得と同時に、環境・社会的インパクトの創出を目指すもので、当社では初となる債券のインパクトファンドです。ファンド規模は1・35億㌦(約180億円)です。近年、グリーンボンド等のESG債市場の目覚ましい拡大の一方で、グリーンウォッシュ等の課題も指摘されています。当社は、市場の健全な発展のためにも、投資先のインパクトを適切に評価・選別する取り組みが必要と考えており、今回の投資はそうした考えから必然的に生まれたものです。

 

 

岩本哲平氏
岩本哲平氏

 

 特に、SFDR9条に適合するファンドを組成することは、投資の制約等から難易度が高いですが、われわれのファンドは、その9条に適合することで、ESG投資のグローバルな基準による「お墨付き」を得られたことになると考えています。そうした基準を理解し、体感することを通じて、当社の資産運用のレベルの引き上げにつなげていきたいと考えています。

 

――いつごろから、SFDR9条ファンドに投資しようと考えていたのですか。

 

  岩本氏   :  SFDRが導入されて以降、グローバルな基準を理解してESG投資を進めていくという観点から、情報収集や投資検討を進めていました。2022年にSFDRの細則が欧州委員会で採択され、その詳細が明確になったことから、今回のタイミングでの投資となりました。

 

――ファンドの運用は英シュローダー・グループのブルーオーチャード・ファイナンスに委託されていますが、向こうから大同生命にオファーがあったのですか。同社を選んだ理由を教えてください。

 

  岩本氏   :   これまでの資産運用ビジネスでの人脈等を活用して委託先を探しました。インパクト投資では、投資先の選定やモニタリングのためにインパクトの評価が不可欠ですが、定量化が難しいインパクトを適切に評価することは容易ではありません。ブルーオーチャードは「経済的リターンの観点から優れた運用会社」ということはもちろんですが、20年以上にわたるインパクト投資の実績があること、明確かつ体系的なインパクトの評価プロセスを確立できていることなどから、同社を委託先に選びました。

 

 同社は、国連主導で設立された運用機関で、インパクト投資の普及にも取り組んでいます。今回の投資を通して、同社が実践しているインパクトの計測・評価のノウハウ等を学び、当社の運用スキルの向上にもつなげていきたいと考えています。

 

――今回のファンドは一つのモデルで、そこから手応えとか方法論とかいろんなものを、大同生命全体の運用に吸収していくということですね。ブルーオーチャードにとっても、日本の生命保険の運用を担うことは大歓迎だと思いますが、どんなやりとりをされましたか。

 

  岩本氏   :   ウェブ会議を通じての情報交換のほか、デューデリジェンスのため同社のスイス拠点も訪問しました。彼らにとっても、海外機関投資家によるオンサイトのデューデリは初めてだったようで、歓迎してくれました。その際には、インパクト投資のプロセスを一通り確認させていただきました。デューデリを通じて、環境・社会的な課題の解決に対する同社の情熱を肌で感じることができ、使命感を持って仕事に取り組んでいたところがとても印象に残りました。

 

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 また、ブルーオーチャードに対し、本件ファンドに関する報道発表等を知った欧州やアジアの投資家から、同社に対して、インパクト債券ファンドに関する問い合わせが多数届いているということです。インパクト投資に対するグローバルな関心の高まりが背景にあると考えています。

 

――まだファンドが立ち上がって間がないようですが、投資銘柄の選定等はどのような感じですか。

 

  岩本氏   :   昨年11月に投資を開始したばかりですので、まだ適切な評価は難しいですが、ポートフォリオの構築は完了しています。組み入れられた債券のリスク・リターンやインパクトは概ね想定どおりと考えています。

 

――実際の運用の手応えがわかるには、大体、1年くらいはかかりますか。

 

  岩本氏   :   そうですね。経済的リターンについては1年ぐらいで評価できると思いますが、インパクトの評価にはもっと長い期間が必要だと考えています。

 

――債券ファンドなので、投資先は基本的にはグリーンボンドになりますか。

岩本氏   :   グリーンボンドに加えて、ソーシャルボンドも多く含まれています。また、債券発行体を分析し、抱える事業そのものがインパクトにつながるという判断ができれば、ESGのラベルが付いていない債券でもポートフォリオに組み入れることが可能となっています。

 

――今回の「9条ファンド」をベースに、自社の資産運用にもそのノウハウ等を反映させるということですが、大同生命として、将来的に、インパクト債券ファンドを独自にやる可能性もあるということですか。

 

  岩本氏   :   そうですね。もともとの基本的な考え方もそういうことですし、投資環境としても、インパクト投資は投資家の関心が高まっている分野であり、投資機会は拡大していくと思っています。一方で、インパクトの評価・計測に課題があるのも事実です。まずは、その点に対応していきたいと考えています。

 

――ぜひ、日本でファンドを立ち上げてください。大同生命全体の投資戦略の概要を教えてください。

 

  岩本氏   :   公社債等の円金利資産を中心とした運用を通じて、長期安定的な収益確保・健全性維持を図りつつ、国内外のプロジェクトファイナンスやオルタナティブ分野などへの取り組みにより、収益向上を図っています。

 

 ESG投融資に関しては、持続可能な社会の実現への貢献はもちろん、長期的な視点で投資を行う当社にとって欠かすことができない要素であると認識しており、「ESG評価を投資判断に活用するインテグレーション」、「投資先との対話等を通じて課題改善を図るエンゲージメント」、「グリーンボンド等のテーマ投融資」の3つの観点から、その取り組みを推進しています。

 

――今、債券市場はグローバルに運用環境が必ずしも良くはないです。その中でインパクトを投資に盛り込んでいくのは、運用機関として勇気がいることだと思います。

 

  岩本氏   :   今回のファンドに関しては、SFDR9条の基準をクリアしながらも、良好な経済的リターンを獲得可能なものだと考えています。ESG投融資は、一時的な流行ではなく、長期的な視点を持って継続することが重要ですので、今後も積極的に取り組んで行きたいと考えています。

                                             (聞き手は 藤井良広)