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第8回サステナブルファイナンス大賞インタビュー⑦地域金融賞:山口フィナンシャルグループ。個人向けグリーンボンド200億円発行。地域住民・投資家の環境意識に対応(RIEF)

2023-02-22 12:15:43

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写真は、㊨が総合企画部経営企画室の五嶋勇基氏、㊧が同室の高瀬宏樹氏)

 

  山口フィナンシャルグループは地域金融機関として初めて、個人投資家向けのグリーンボンドを発行しました。「地域の豊かな未来を共創する」を企業のパーパスとして掲げる同社グループを象徴する取り組みとして、第8回サステナブルファイナンス大賞の地域金融賞に選ばれました。総合企画部経営企画室の五嶋勇基氏と高瀬宏樹氏にお聞きしました。

 

――個人投資家に絞ったグリーンボンド発行をした理由を教えてください。

 

  五嶋氏:われわれの営業拠点である山口、広島、福岡の3県は、鉄鋼業や化学工業等が盛んで、人口に占めるCO2排出量比率は、3県とも全国上位となっています。当社グループとしては、CO2排出量削減、さらにカーボンニュートラル目標の達成を非常に重要なテーマとして、グループ全体で取り組んでいます。またグループとして、「地域の豊かな未来を共創する」をパーパスに掲げており、当社グループだけではなく、地域の方々とともに豊かな未来を創っていくことに、個人の方々にも共感してもらいたいという思いで、個人に的を絞ったグリーンボンドの発行に踏み切りました。

 

 グリーンボンドの発行総額は224億円でしたが、そのうち200億円を個人向けとして発行しました。われわれのメッセージが個人投資家の方にも伝わったと思っています。

 

――地域の個人の方々に、投資を通じて環境配慮に貢献する機会を銀行として提供したいと。

 

  五嶋氏:従来でもグリーンボンドではない社債の発行はしていますが、今回、特に個人を中心として環境保全の意識が高まっているという地域のニーズに応えようという思いから、当社が地域金融機関として先んじる形で、同ボンドの発行を計画することになりました。個人投資家の方々には、同ボンドを買うことで間接的に銀行のカーボンニュートラルへの取り組みを応援したいという思いも持っていただいていると思っています。

 

五嶋氏
五嶋氏

 

――グリーンボンドの資金使途は再生可能エネルギー事業やグリーンビルディング向け事業ということですが、この分野での地域の需要はどうですか。

 

  高瀬氏:グループ全体でみますと、再エネ事業を中心とした気候関連事業に対する資金需要は、直近の10年で急増しています。当社グループは傘下に、山口銀行(山口)、もみじ銀行(広島)、北九州銀行(福岡)と3つの銀行があります。3行共通して、現在の再エネ事業の大半は、太陽光発電事業が中心です。直近10年は固定価格買取制度(FIT)導入の影響が反映していると思います。ただ、昨年春にFIT制度は変更されており、太陽光発電事業の資金需要は一時的には落ちてくる可能性もあり、今後はコーポレートPPA(電力販売契約)、自家消費型の資金需要が伸びてくると考えています。また今後は、再エネ事業でも、小水力発電や風力等による発電の資金需要が徐々に見込まれると考えています。

 

 グリーンビルディング向けの資金需要は、現時点ではまだ実績はありません。しかし、グループでは、広島、福岡等の地方の有力都市を営業エリアに抱えていますので、こうした都市部を中心に、グリーンビルディング建設の資金需要が出てくるとみており、今回のボンドの資金使途に含めています。

 

――ボンドに対する個人投資家の反応はどうでしたか。

 

  五嶋氏:個人投資家への売れ行きは好調でした。グループ傘下のワイエム証券だけではなく、野村證券、大和証券、三菱UFJモルガンスタンレー証券といった大手証券会社でも販売していただきました。いずれも、非常に順調に販売できたと聞いています。個人投資家の直接の声は、われわれとしては把握できませんが、売れ行きから、個人投資家の環境問題への意識の高まりが強いことを、肌で感じました。

 

――金利はどうでしたか。

 

  五嶋氏  :  昨年10月に発行しましたが、年率1.10%に設定しました。

 

――グループ全体ではカーボンニュートラル目標をスコープ1+2で、2030年度ネットゼロを設定していますが、目標を達成するための施策はどういうことを考えていますか。

 

高瀬氏
高瀬氏

 

  高瀬氏:当社グループのスコープ1(直接排出量)の大半は営業車等のガソリン使用によるもの、スコープ2(間接排出量)の大半はオフィス等で使用する電気使用によるものです。これらの削減策としては、ガソリン消費量の削減のためには、昨年からリースでの営業車両の電気自動車(EV)化を進めています。営業体制等の関係で、即座にすべての車両をEV化することは難しいですが、営業活動の効率化や、お客さまのWeb面談ニーズへの対応等を通じて、移動距離の短縮によるガソリン使用量の削減にも取り組んでいきます

 

 電気については、再エネ電力への切り替えを進めるほか、店舗でのLED化や空調設定温度の適正化等による電気使用量削減に取り組んでいく方針です。スコープ1+2の削減を進めるには社員の意識向上が不可欠ですので、グループ会社を含めて、グループ全体の社員に向けた啓蒙活動を引き続き行っていきます。また、2023年度以降には、単年度ごとのスコープ1+2の削減目標も策定する予定であり、毎年、削減状況を確認しながら、目標達成に向けて着実に取り組んでいきたいと考えています。

 

――金融機関の投融資先の排出量の把握と削減の後押しを進めるスコープ3(financed emissions)の開示の議論も高まっています。スコープ3の削減についてはどのような取り組みを考えていますか

 

  高瀬氏:スコープ3についてはカテゴリー15のfinanced emissions 以外は算定に向けて作業をしています。これらは算定可能なものから順次算定し情報開示していく方針です。financed emissions も現在、算定・情報開示に向けて準備を開始しています。われわれのような地域金融機関の場合、financed emissionsの大半が地元の中小企業向け融資になります。中小企業の場合、カーボンニュートラルに向かう流れは認識しているものの、具体的に行動を起こしている先はまだ多くなく、今、われわれも啓蒙活動を一生懸命やっているところです。

 

 したがって、自社のCO2排出量を把握している融資先が現状ではまだ少ない状況にあるため、当初算定するデータ品質は、スコア4(財務諸表による推定排出量)レベルになると思っており、そうした前提で準備を進めています。

 

 ただ、東京支店を中心に上場企業との取引もあり、CO2排出量の実績を算定し情報開示している先もありますので、そうした企業のデータ品質はスコア1・2レベル(個別排出量)での開示も可能と思います。また、地元の中堅企業等でも同様に自らのCO2排出量をしっかりと把握している企業もありますので、それらの企業についてもスコア1・2レベルでの開示は可能と思います。まずは全体感を把握し、業種や規模等による排出量の割合等も把握したいと考えています。

 

 高瀬氏:気候変動対策での地域金融機関の役割は何だろうと考えた時に、それは、地域の脱炭素化を進めることであり、地域のカーボンニュートラルを実現させることを支援していくことだと考えています。したがって、引き続き、顧客の方々への啓蒙活動を行っていくとともに、銀行だけではなく、グループ全体で顧客の方々の取り組み支援を金融面・非金融面の両面から行っていきたいと考えています。

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――中小企業の脱炭素化は簡単ではないが、いずれはやらざるを得ません。それをやることで新たな資金需要も生まれます。金融機関にとっては、一つのビジネスチャンスにもなりますね。グループの3銀行の営業地域によって、再エネやESGの取り組みでの顧客や市場の反応での違いはありますか。

 

  高瀬氏:現状の再エネ関連の資金需要の大半は太陽光発電事業ですが、山口銀行管内と、もみじ銀行管内では、大きな違いは感じられません。北九州銀行管内では、前提として、北九州銀行の福岡県内でのシェアが低いので、山口や広島のように県全体としての傾向と言えるかはわかりませんが、山口や広島のように直近まで増加しているというよりは、ここ数年は横ばいあるいはやや減少傾向にあります。九州電力管内での太陽光発電での出力抑制が影響している可能性があるのではないかと考えています。

 

 ESGの取り組みでは、3銀行とも、顧客企業のESG宣言を支援するサービスを手掛けています。この取り組みについても、地盤とする県による違いは感じられません。脱炭素への取り組みという点では、中小企業は県を問わず、まだこれからというところがありますが、その中で、広島のマツダや、山口・下松の日立製作所等の大手企業は取り組みが進んでおり、それらの大企業から取引先の中小企業に対し、CO2削減の要請があることから、そうした需要に対応すべく、CO2排出量の「見える化」、CO2削減コンサルティングなどをグループのコンサルティング会社にて積極的に提供していく方針です。

 

――地域金融機関としてのサステナブルファイナンス、脱炭素金融の取り組みの手応えはどうですか。


  五嶋氏:われわれも昨年、環境社会に配慮した投融資方針を策定しました。その中ではセクター横断的に積極的に支援していく事業や、投融資を禁止する事業等の大きな方針は定めています。そうした方針に基づいて、グループ内の3銀行全体でのサステナブルファイナンスを今後10年間で累計1.5兆円、このうち環境・気候変動に資する投融資に5000億円を投じる目標です。足元の実績は順調に推移しており、12月末の実績で、サステナブルファイナンス全体で約1,500億円、うち環境、気候分野に資するものが約1,000億円となっています。金融商品としてはサステナビリティ・リンク・ローン(SLL)や、グリーンローン(GL)の組成も実施しています。

 

――地域の企業も、脱炭素、環境配慮への取り組みを強めているということですね。

 

  五嶋氏:そうです。われわれも顧客企業に向けて脱炭素への取り組みの必要性をアピールしていますが、企業にとっても、ただ単に事業用の資金を銀行から借りるだけでなく、環境に配慮した資金需要を目的とした融資等については、社会的意義や、企業としてのPR効果もあると思っていますので、顧客企業と連携して地域の脱炭素化を積極的に進めていきたいと思っています。

 

  高瀬氏:SLLやGLは他の銀行も取り扱っていますが、それらを提供する際、基本的には外部認証を取得する必要があり、顧客企業にとっては、追加的な手間や費用が発生します。われわれは、中堅・中小企業の顧客企業も利用しやすいフレームワーク方式を用意しています。これは、フレームワークに外部認証を取得済みであり、融資時に外部認証を取得する必要がないので、顧客企業にとっては手間と費用を縮減できます。またこのローンの最低借入額は、通常の5,000万円から3,000万円に基準を下げており、中小企業の顧客が利用し易いようにしています。中小企業の顧客のニーズも高まっており、実績も上がってきていますので、さらに、中堅・中小企業の脱炭素化に関する資金需要を掘り起こしていきたいと思っています。

 

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                         (聞き手は 藤井良広)