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「2017年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー⑤ 特別賞の東京都。「自治体初のグリーンボンドを発行。東京の国際金融都市化を宣言」(RIEF)

2018-03-13 14:05:57

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  2017年サステナブルファイナンス大賞で、東京都は日本の自治体として初めてグリーンボンドを発行したことが評価され、特別賞を受賞されました。東京都財務局主計部公債課の佐藤直樹課長に聞きました。

 

――東京都は、2016年末にグリーンボンドのトライアル版として個人向けに「東京環境サポーター債」を出され、17年秋に、本格版の「東京グリーンボンド」を機関投資家向けと個人向けに、合計200億円分を発行されました。本格版発行にこぎ着けるまでの工夫や苦労がありましたら、教えてください。

 

佐藤課長:債券の発行に当たって、従来の格付けとは別に第三者機関からの評価等を取得するというがグリーンボンドの特徴ですが、その点で苦労もありました。また、グリーンボンドのもう一つの特徴と言えますが、発行意義に共感し、投資を行ったことを表明いただいた機関投資家の方が21者にのぼりましたが、証券会社を経由しながら投資家の方々とこの「投資表明」についてのやり取りをすることは、これまでの都債発行プロセスにはない経験でした。

 

 すでにサステナビリティ投資へのスタンスも定めている投資家もいましたが、「東京グリーンボンド」を購入する判断の過程で、初めて投資表明を行うことを社内決定されたところもあったようです。そういう意味で投資家と一緒になって、つくり上げたという感じですね。

 

 個人向けグリーンボンドは昨年12月に出しました。これまでも、橋梁整備への充当などを目的とした個人向けの都債は出しています。今回は調達した資金を環境事業に充当する訳ですが、購入された方の目の前でCO2が減少するといった効果が見えるということではありません。そこで、調達した資金の充当を予定している緑の創出などの環境事業の情報を入れた「グリーンボンドカード」を作成し、購入者の方々に配布して、可能な限りの「見える化」に務めました。グリーンボンドを買うと、こういう効果が生まれるということを伝えることで、環境事業を身近に感じてもらえるように工夫しました。また、個人投資家の方々を招待した資金充当事業の見学会も開催しました。

 

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――個人向けのボンドの購入者には当初のトライアル版の購入者もいましたか。

 

佐藤課長:リピーターも多くいらっしゃると理解しています。個人向け都債自体は2002年から出しており、定期的に買っている投資家の方も多いと聞いています。東京都の事業に強く関心のある方に買っていただいていると感じています。

 

――機関投資家のほうの反応はどうでしたか。

 

佐藤課長:需要としては非常に大きかったですね。総額100億円に対して、購入希望は約4倍ありました。通常の都債や地方債には、あまり投資をされないような投資家の参加もありました。

 

 われわれは、「グリーンだから、利率を上乗せしたり、逆に低くしたりする」ということは考えておらず、結果としては都債フラットの条件となりました。初めて発行するグリーンボンドに対する投資家の反応には大変注目していましたが、実際には約4倍の需要となったわけです。個人向けのほうも売出初日には完売し、約5300人の投資家に購入いただきました。

 

 購入後に、資金使途をもっと教えてほしいという要望をされる投資家もいました。買っておしまい、ではないということですね。グリーンボンドカードを手にしたり、資金使途を示す資料などが手元に届くと、自分も目的を持って投資した、という気持ちを、かなり遡及できたような気がします。投資家の反応としては非常に良かったと思います。

 

特別賞の表彰状を掲げる東京都財務局主計部公債課統括課長代理の黒澤宏明氏(左)
特別賞の表彰状を掲げる東京都財務局主計部公債課統括課長代理の黒澤宏明氏(左)

 

――投資需要が発行額を4倍も上回ったということですが、需要に応じて発行額を上積みすることはできないのですか。

 

佐藤課長:発行額を引き上げるためには、それだけの充当事業がないとできません。都債は地方債なので総務省が定める基準があり、充当できる事業が規定されています。資金使途は、将来にまで残るインフラ事業が多く、かつ世代間の負担を公平にするものが中心になります。一気に、多額を発行するよりも、同規模の発行を定期的に積み上げていくというのが、われわれにとって引き続きの流れになると思います。

 

――セカンドオピニオンではかなり厳しめの意見も入っていましたね。

 

佐藤課長:ドイツのイーコム・リサーチ社を選定しました。われわれのグリーンボンドは国際資本市場協会(ICMA)が運営する市場基準のグリーンボンド原則(GBP)に基づいており、そのGBPが第三者機関の認証取得等を推奨しているのに沿ってセカンドオピニオンを取得しました。セカンドオピニオンを手掛ける第三者機関は多数ありますが、イーコム社は非常に厳格で実績もある機関と聞いていました。

 

 債券にはいろんな評価があって良いと思います。われわれは自治体として事業を実施していますので、きちっとした効果があると説明できるように、環境事業の内容にも詳しく、信頼できる評価機関が良いと思っていました。全ての評価が満点、ということではありませんでしたが。カントリーレーティングも出してもらい、今の日本の立ち位置を知ることもできました。同社では自治体が発行体の場合、カントリーレーティングを出してもらえるようです。

 

東京グリーンボンドの資金使途先
東京グリーンボンドの資金使途先

 

――第三者評価は各社でばらつきがあるとの指摘もあります。

 

佐藤課長:グリーンボンド市場は、これから発展していく市場です。その分、改善の余地もあると思います。ですので、国内の議論だけではなく、海外の目から見ても、改善の余地があるよと言っていただけたのは、結果として、良かったと思います。厳格な評価ではありましたが、自治体のような発行体には向いているのではないかと個人的には思います。

 

――日本全体でグリーンボンドの資金使途先のプロジェクトが不足しているとの指摘もあります。東京都内では大規模な再生可能エネルギー事業はあまりないので、今後、ボンド発行を継続する場合、プロジェクトの確保が課題になるのでは。

 

佐藤課長:東京都には、2020年に向けた長期計画があります。都債を発行して充当する事業というのは、たとえば道路照明の整備のように単年度で完了するものもありますが、複数年度に渡る事業が多くあります。そうした長い期間の工事などに毎年充当することが可能です。なので、グリーンボンドによる調達も、できる限り、今と同じくらいの規模で、発行を続けていきたいと考えています。

 

――都は、地方の再エネプロジェクトにファンドを作って投資していますが、そうした事業への資金調達をボンドでまかなうことはできないのですか。

 

佐藤課長:東京都のスタンスは、ファンドを組成する場合は、なるべく民間の資金をたくさん集めてやるというものです。また、都債は純粋な投資といった事業には向きません。それよりも工事などの事業が適しています。都が自ら工事を実施する事業を多く積み上げていくことが望ましいですね。

 

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――ソーシャルボンドの発行などは考えていますか。

 

佐藤課長:グリーンボンドについては昨年度から勉強会を始め、都の事業にマッチしている、との結論を得て発行に至りました。発行体によってはソーシャルボンドや、サステナビリティボンドを出しているところもありますが、現時点ではグリーンボンドの発行を通じて市場の活性化に貢献していくつもりです。ソーシャルや、サステナビリティボンドなど、何でも出すというより、グリーンボンドを継続的に発行した上で、その効果を検証しようと考えています。

 

 またソーシャルボンドだと、概念が非常に広がってくるのではと個人的には思います。資金使途がはっきりしたもので出すほうが、都債としてはいいのでは、と考えています。

 

 ――グリーンファイナンスは国際金融都市としての東京市場の発展につながるでしょうか。

 

佐藤課長:都は、昨年11月に『「国際金融都市・東京」構想』をまとめています。その中に「金融による社会的課題解決への貢献」ということで、グリーンファイナンスの利用促進を盛り込んでいますが、これから具体的に何をどうするかを検討していく段階です。グリーンボンドを発行し、その後、どうすればグリーンファイナンスが進んでいくか、という点については普及啓蒙を図っていくのが現時点での目標です。

 

 ファイナンスという話になると、日本市場では、公的金融、民間を含めてプレイヤーは多いと思います。実際に、すでにグリーンボンドを発行した国内の金融機関もあります。様々な機関が、グリーンボンドを発行してもっと市場を広げてもらいたいと思いますし、他の自治体にもぜひ発行してもらいたいですね。

 

――財務内容の良くない自治体も環境対策を進めていく必要があるので、グリーンボンドの発行は魅力的と思います。

 

佐藤課長:資金使途となる事業を自治体が確保できるかどうかが大切ですね。自治体がやっている事業は住民や議会などの様々なチェックが入って成り立っています。そこに、「環境指標」のようなモノサシが加われば、グリーンボンドの発行は可能だと思います。その上で自治体に合った規模のプロジェクトを確保して、ある程度連続して予算を確保していくようにする必要があります。そうすることで、発行体とマーケットとの間に「発行体はきちんと環境という側面を見てくれている、あるいは、自治体の環境事業に投資家が共感してくれている」という関係ができれば、次第に市場の規模は膨らむと思います。資金使途を明示したうえで発行するという原理原則に立ち返れば、自治体のグリーンボンド発行はそれほど難しくないと思いますし、他の自治体から情報提供などの要請もあります。

 

――自治体の発行の場合、議会との関係も大事です。

 

佐藤課長:通常の債券発行額に上積みしてグリーンボンドを出すということになると、議会においてより丁寧な審議が必要となる可能性はあります。余計な借金をするのではないか、という議論になりかねないからです。ただ、発行する債券の全体額を少し圧縮しながら、一部をグリーンボンドにするようなことはできると思います。グリーンボンドによって、自治体の事業が地域の環境にプラスとなるということならば、議会もそんなに強く反対することはないと思います。

                                                                                                (聞き手は、藤井良広)