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2018年(第4回)サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー④グリーンボンド賞には、海運業界で初めて同ボンドを発行した日本郵船。CBIのクライテリア開発にも参加(RIEF)

2019-02-27 14:59:34

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 日本郵船は2018年5月、海運業界では世界で初めてグリーンボンドを発行しました。温暖化と海洋汚染の両方への対応を満たす資金調達として、投資家の評判は上々でした。同社のサステナブルファイナンスへの貢献はグリーンボンドだけはありません。英非営利団体Climate Bonds Initiative(CBI)の産業分野クライテリアづくりの「Shipping Industry WG」に参加し、グローバルな業界基準の開発と発展に貢献しています。財務グループ統括チームの白根佑一氏、赤木倫子氏に聞きました。

 

――グリーンボンド発行のきっかけは何だったのですか?

 

 白根氏:当社は2018年3月に新たな 5カ年の中期経営計画”Staying Ahead 2022 with Digitalization and Green”を策定しました。「デジタライゼーション」と「グリーン」の2つを大きな柱として位置づけ、新たな価値創造のキーワードとしたわけですが、社長(内藤 忠顕氏)から昨年の社員向け新年挨拶でグリーンビジネスを実現していくという強いメッセージがありました。そこで財務部門としても何かできないかと考えた結果、グリーンボンドによる資金調達に本格的に取り組むことになったのです。海運業界は、運航する船舶からCO2を排出するほか、海洋環境への影響などの課題を抱えているので、「グリーン」とは親和性が高い業界といえます。したがって以前からグリーンな資金調達には関心を持っていました。

 

――日本郵船の資金調達はどんな状況ですか。

 

 白根氏:社債発行では、毎年200億~300億円ほど調達していますが、プロジェクトに直接紐づいた調達は行っていませんでした。グリーンボンドは特定のプロジェクトへの資金調達なので、CO2排出量の少ないLNG燃料船の開発のほか、LNG燃料を運ぶLNG燃料供給船、海洋環境に配慮したバラスト水処理装置、2020年の硫黄酸化物(SOx)規制に伴うスクラバー(洗浄塔システム)等の資金需要に対応する調達として実施しました。http://rief-jp.org/ct4/78630

 

――業界第一号は意識しましたか。

 

財務グループ統括チーム課長代理、白根祐一氏
財務グループ統括チーム課長代理、白根佑一氏

 

 白根氏:正直、かなり意識しました。国際的な市場基準である「グリーンボンド原則(GBP)」に準拠した海運業界のボンドは他の国でも発行されていなかったので、「やるなら第一号でやりたい」という思いがありました。おかげさまで国内外の多くのメディアで取り上げられました。今回のグリーンボンド発行の1年前にほぼ同条件の5年物普通社債を出しましたが、その時の需要倍率1.8倍程度に比べ、グリーンボンドでは2.6倍と高く、かつ投資家の約8割が1年前の普通社債は購入していなかった新規投資家であったと主幹事証券会社より聞いており、新たな投資家層の開拓にもつながりました。利回りについてもグリーンボンドのほうが0.1%ほど低くなり、当然海運市況や起債時の需給環境や金額によるところもありますが、グリーンボンドであることに需要を盛り上げる一定の効果があったのではと感じています。

 

 第一号を発行する「生みの苦しみ」を乗り越えノウハウを蓄積できましたので、2019年度も発行したいという思いはあります。また我々が船を貸す先のニーズとしても、CO2排出量の少ない船が増えてきています。

 

 

――国際海運分野のCO2規制の影響もありますね。

 

 赤木氏:国際海事機構(IMO)における温室効果ガス(GHG)削減目標は2つあります。一つは、海運全体の燃費効率を、2008年をベースに、2030年までに 40%改善、2050年までに70%改善努力するというもの、もう一つは、海運全体のGHG排出量を、同じく2008年をベースに、2050年までに50%削減し、今世紀中可能な限り早期にゼロ排出を達成できるよう努力するというものです。

 

 目標達成のためには、エネルギー効率の良い船舶に切り替える、燃料を重油からLNGやバイオ燃料等へ切り替えるというようなハード面での対策のほか、自社開発しているアプリケーションを活用して運航の効率化等を進めるというソフト面での対策で対応できる見通しです。

 

――温暖化対策のほかに、海洋汚染問題への対応も求められていますね。

 

財務グループ統括チーム 赤木倫子氏
財務グループ統括チーム 赤木倫子氏

 

 赤木氏:バラスト水排出規制があります。船は貨物を陸揚げすると、重量が軽くなって浮き上がり不安定になるので、船内に海水を取り込んで航行する必要があります。この海水のことをバラスト水というのですが、世界各港で取り込むので、その際に各地で様々な海洋生物も一緒に取り込んでしまいます。一方、貨物を積み込む際にはバラスト水を放出する必要があり、これらの海洋生物も排出されるので、生態系への影響が懸念されます。こうした海洋生物の「越境移動」を避けるため、海洋生物を処理するバラスト水処理装置を船に搭載する必要があるため、今回のグリーンボンドの資金使途に盛り込みました。

 

――グリーンローンも借り入れられました。

 

 赤木氏:はい。メタノール燃料ケミカルタンカーの建造資金として20億円を太陽生命保険から借り入れました。同船はメタノールを主燃料として運航しますので、SOx排出量を重油使用時に比べて99%削減できます。また適合油(低硫黄燃料油)使用時と比べても、発電機を含めた船舶全体で、SOx排出量を約75%削減できます。燃料油中の硫黄分濃度規制は、お話した通り2020 年から始まります。この新造ケミカルタンカーは同規制に十分に適合するとともに、窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)などの排出量も従来の船舶より低い利点があります。

 

 太陽生命からの借り入れは、国際的な「グリーンローン原則(GLP)」に適合していると評価されました。太陽生命にとってESG融資となり、われわれにとっても「グリーンなタンカー」建造につながりました。http://rief-jp.org/ct2/86027

 

――CBIのクライテリアづくりに参画されるきっかけは?

 

 白根氏:グリーンボンド発行に際して、グリーンボンド・ストラクチャー・エージェントを担当した三菱UFJモルガンスタンレー証券に認証機関のリサーチなどの作業をしてもらっていましたが、その関連でCBIと情報交換したのがきっかけです。その後、CBI側からの要請もあって、インダストリーワーキンググループに当社が参加することとなりました。

 

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 現在、CBIで海運業界の基準がなく、このままでは海運業界でのグリーンボンド発行が進まないと考えています。国際的なルール作りへの参加という意味では、これまでも国内の船主協会などで取り組んできた経験がありますので、それほど違和感はありません。CBIへの参加で海運のサステナビリティ分野を牽引していければと思っています。

 

――国際海運でのCO2規制なども強くなってきそうですね。

 

 白根氏:規制対応は避けて通れない課題です。CO2だけでなく、SOx規制もあります。対応に要した費用がそのままコストアップにつながらないよう、顧客に相談しながら対応する必要があります。海運業界は総コストに占める燃料費の割合が大きく、SOx規制に対応するために適合油に切り替えるには数百億円という資金が必要になります。

 

 赤木氏:LNG燃料船の場合、これまでの船とはエンジンの構造が異なるので、建設費が高額になります。また燃料としてのLNGを供給する体制が各国各地に整わないと、スムーズな運航ができません。そのためグリーンな海運インフラという点ではまだ発展途上です。ただ、今後この分野が伸びるのは間違いないと思われます。当社はベルギーで世界初のLNG燃料自動車船、LNG燃料供給船を運航するなど先行して運用を始めています。

 

――未来のエコシップ開発もされています。CO2ゼロシップということになりますか。

 

 赤木氏:2030年に向けたコンセプトシップである「NYKスーパーエコシップ2030」を2009年に公表しましたが、ある程度時間が経過したこともあり、各要素技術の見直しを行いました。それが「NYKスーパーエコシップ2050」です。自動車専用船をモデルとしており、船体重量の軽量化や船型の最適化により船体の摩擦抵抗を低減するほか、燃料電池を利用した電気推進や高効率の推進装置の採用等により、現在運航されている一般的な船舶と比べ70%のエネルギー量削減が可能です。また、太陽光パネルを搭載し、燃料には化石燃料の代わりに再生可能エネルギー由来の水素を使用するためCO2排出ゼロ=ゼロエミッションを実現します。

 

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 CO2ゼロを達成するには新たな技術開発が必要になります。そうした研究開発(R&D)資金をグリーンボンドで調達することも今後の検討課題です。R&Dは環境改善効果の公表が難しいという課題があるため、今後投資家への開示方法も含め検討が必要と考えています。

 

――今回のグリーンボンドの発行に対して、社長から何か評価はありましたか。

 

 白根氏:実は、内藤社長からはボンドを組成後に、「キラリ技術力大賞」をあげたい、と言われました。国内外でのIR等でも評判は上々です。

                                                      (聞き手は藤井良広)