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第5回サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー④優秀賞の野村證券。引き受け、インデックス、研究。国内グリーンボンド市場への総合的な取り組みで(RIEF)

2020-02-17 08:44:38

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 第5回サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれた野村證券の受賞は、国内のグリーンボンド市場への総合的な取り組みを評価されました。同社のデット・キャピタル・マーケット部ESG債担当部長の相原和之氏と野村サステナビリティ研究センター長の江夏あかね氏に聞きました。

 

 ――今回、野村證券はグリーンボンドの引受業務の展開のほか、日本で初のESG債インデックスの開発、ESG市場育成の研究センター設立など、幅広く日本のサステナブルファイナンス市場の育成に貢献された点を評価されました。まずグリーンボンド等のESG債の引受けについてお聞きします。野村は内外市場で取り組んでおられますね。

 

 相原氏:国内でのグリーンボンドなどのESG債は、まだアーリーステージという認識です。したがって、市場に対してこういうプロダクトがあるといったことを知ってもらうことも重視しています。発行体にも投資家にもESG債を理解してもらい、市場を広げていこうという思いで引受けに取り組んでいます。一方、欧州等の海外市場はすでにグリーンボンド等は成熟化しつつあり、ビッグプレイヤーが多い。そういう人たちと伍しながら、我々の販売力を生かして、グリーンボンドやサステナビリティボンドを扱っています。



――引受実績を教えてください。

 

 相原氏:2019年の国内での共同主幹事を含めた主幹事案件は、28件6581億円。件数は27%増ですが、金額ベースでは前年の2.3倍と急増しました。特徴としてソーシャルボンド等の引受けが多く、ソーシャルボンドの引受額がグリーンボンドよりも金額ベースで上回りました。

 

相原氏
相原和之氏

 

 海外では、アジア開発銀行や欧州投資銀行などのグリーンボンド合計14本を引受けました。ロンドン、ニューヨーク、香港の各拠点で取り組んでいます。海外での引受けは、海外の発行体が発行した債券を、海外の投資家等に販売しています。国内の投資家向けにはサムライ債や売出債として引受けを行っています。野村の海外でのプレゼンスを発行体と投資家の両方に評価してもらっていると思います。

 

――国内市場での手応えはどうですか。

 

 相原氏:手応えはかなりありますね。ESG債は新しい商品なので発行体の関心も高いですが、資金使途として適格な資産をどのように決めて発行していくかといった点では、発行体も手探り状態です。われわれのような引受会社にご相談をいただきながら発行を進めています。そうした対話の中で、グリーンボンドとしての位置づけを発行体にもご理解いただき、発行する手応えを感じています。最近は製造業の発行会社による発行も増えてきており、多様な産業に広がっていると感じます。

 

―――研究会について、どういう経緯で設立したのですか。

 

 江夏氏:野村資本市場研究所(資本市場研)ではここ数年、グリーンボンドをはじめとするESG債やサステナブルファイナンス関連の研究に取り組んでいました。同時に、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がPRIに署名するなどの動きもきっかけに、投資家や発行体からの照会が増えてきました。資本市場研単独で研究を続けていく選択肢もありましたが、この分野の伸びが著しく、動きも早いことから、資本市場研だけではなく、より幅広い知見を取り入れて研究を進めることも必要なのではないかと考え、外部識者にも加わっていただき、研究会を作りました。学識者、発行体、運用機関、取扱金融機関、有識者の方に集まっていただき、研究を重ねました。

 

――資本市場研の研究成果をさらにセンターとして拡大する方向になったのですね。

 

 江夏氏:研究会の活動を進めたことで、外部の力も借りる意義を改めて感じました。研究会も一つのきっかけとなり、12月に研究センターを立ち上げました。同センターの特徴として、オープンプラットフォームをキーワードに掲げています。例えば、学識経験者に外部アドバイザーにご就任いただくほか、外部の研究機関との連携も目指したいと思います。資本市場研はこれまでも韓国、マレーシア等の研究機関と連携してきた経緯もあります。これまで築いてきたネットワークも活用しながら、世界の研究機関との連携を模索していきたいと思っています。

 

江夏あかね氏
江夏あかね氏

 

―――グリーンボンドの国際ガイドラインを出している国際資本市場協会(ICMA)にもかかわっていますね。

 

 相原氏:ICMAのグリーンボンド原則/ソーシャルボンド原則についてのアドバイザリー委員会に日本から参加しています。アドバイザリー委員は、ICMAの議論でのダイバーシティ(多様性)を高めることが求められていると思いますので、積極的に情報発信に貢献していきたいと考えています。ICMAにおいては複数のワーキンググループが立ち上がっており、トランジションファイナンス等の新たなプロダクトの議論にも参加しています。

 

――ESG債インデックスはどういう経緯で取り組まれたのですか。

 

 相原氏:野村にはBPIという国内で発行された公募固定利付債券の流通市場全体の動向を表すために開発された指数があり、年金運用者をはじめとする多くの投資家に広く活用いただいています。ESG投資に対する関心がますます高まっており、BPIのサブインデックスとしてNOMURA-BPI SDGsを昨年11月から公表しています。ESG債券投資に、活用いただきたいというのがインデックスを組成した狙いです。

 

 江夏氏:日本の金融機関でESG債関係のインデックスを提供したのは初めてです。世界的には2014年頃に、グリーンボンドインデックスが登場しています。日本の場合、グリーンボンドの発行は17年くらいからようやく伸びてきました。インデックスを構成するには、それなりの銘柄が集まらないとできませんが、17年以降、18年、19年とESG債市場が順調に伸びていく中で、ようやくインデックス化できる環境になってきたということです。

 

 投資信託などでは、パッシブ運用のものも多くみられます。その中で、投資家はインデックスの重要性を位置付けておられると思います。グリーンボンド等のESG債は新しい市場なので、投資パフォーマンスをどう計測するのかといった点で、多くの投資家は悩んでいる状況です。インデックスがあると、その目安となりますので、重宝されると思います。

 

――インデックスの中に組み込まれたESG債は何本くらいありますか。

 

 相原氏:対象となるESG債は外部評価が確認できる債券となります。昨年のESG債全体の発行規模は1兆6500億円に達し、国内で発行された債券でもインデックスを組めるようになってきたということです。将来的には、インデックスに連動するようなファンドが市場に出てきてくれればいいと思います。

 

――野村グループの中でのESG関連の存在感はどうですか。

 

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 相原氏:われわれのところの専任者は3人です。

 

 江夏氏:資本市場研には、国内外に研究員が20名強おります。その全員が新設のセンター兼務です。また野村グループの中には各部署でESG関連の専門家として業務に関わっている者もおりますので、そうした人材もセンターに客員研究員として加わってもらうことを考えています。

 

――今後のこの分野での課題、注目点を教えてください。

 

 相原氏:EUによるグリーンボンドのタクソノミーによって投資対象資産が厳格化することで市場がどう変わっていくかは、多くの市場参加者にとって関心のあるところだと思います。「グリーン量的緩和」ということで、金融政策でグリーンボンドを買っていこうという動きもあると報道されています。EUの影響は今後も大きいですね。

 

 江夏氏:資本市場研の研究で典型的な手法としては、欧米諸国の金融市場・制度を調査して日本市場への示唆を検討するアプローチと、日本の金融関連の取り組みを、発展が進んでいく新興市場国に適用する場合の論点を検討するというアプローチの二つがあります。サステナブルファイナンスについては、その両方にEUの動きがかかわりますので、EUのフォローは欠かせません。

 

 相原氏:先ほど「手応えがある」と言いました。今年に入ってすでにその手応えは確かさを増しています。ESG債市場の規模も昨年以上に期待できるのではと思います。そうした環境の中で、できるだけ顧客に役立つような提案をしていくのがわれわれの役割です。昨年よりも、忙しくなると期待しています。

 

                            (聞き手は 藤井良広)