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第5回サステナブルファイナンス大賞受賞企業インタビュー⑧特別賞は東京海上ホールディングスの「マングローブ植林活動」。20年の活動でアジア太平洋諸国に貢献(RIEF)

2020-03-05 13:14:16

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  第5回サステナブルファイナンス大賞の特別賞には、東京海上ホールディングスがアジア太平洋諸国で20年にわたって行っている、マングローブ植林による社会貢献活動を選びました。地球温暖化の適応策として、地域コミュニティの基盤強化のほか、顧客も活動に巻き込み、さらに東京海上グループのカーボン・ニュートラルの実現にもつながっています。東京海上ホールディングス・事業戦略部部長兼CSR室長の小森純子氏と、同室アシスタントマネージャーの土方美希氏にお聞きしました。

 

――マングローブ植林を始めたきっかけは何でしたか。

 

 小森氏:今から20年前、創立120周年の事業として何かできないかということで、社員にアンケートを取ったところ、環境にいいこと、長く続けられることで、マングローブ植林が選ばれ、1999年から始めました。

 

――植林活動は各地で活動をしている植林NGOの協力を得て展開されているのですね。

 

 小森氏:そうです。当初は5カ国で開始しましたが、現在は9カ国に広がっています。地域によって協働している植林NGOは異なります。現在、インドネシア、タイ、フィリピン、バングラデシュ、フィジーではOISCA、ベトナム、ミャンマーではACTMANG(マングローブ植林行動計画)、インド、マレーシアではISME(国際マングローブ生態系協会)と連携しています。

 

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小森純子氏

 

――これまでに全体で、何本の植林をされたのですか。

 

 小森氏:植林後に苗木が流されたり、ヤギに食べられたりもするので、本数よりも植林した面積で示しています。2018年度末まで累計1万930haです。これは100m幅で新幹線の東京駅から山口県の新下関駅までの1088.7km分に相当します。あるいは、ラグビー・コートが一つ1haなので、1万個分。ディズニーランドだと300個分になります。

 

――最初からずっと続けるつもりだったのですか。

 

 小森氏:当初から長く続けられることを要件にしていたという社員の思いはありました。ただ、続けていくうちに、現地の住民の理解を得たり、育ちやすい土地や樹種を選定したりすることには時間がかかることが分かりました。また、塩分を含む海岸線に植えるため、うまく成長せず枯れたり、台風や高潮で流されたりといった事態も再三起きました。マングローブ植林は成果がでるまでに5年、10年かかる長期プロジェクトであり、植林地の管理をするNGOの方々も、現地でご苦労されていますので、長く続けるには宣言したほうがいいとの判断もあり、2007年に「マングローブ植林100年宣言」をしました。さらに昨年10月、内容をバージョンアップし、100年宣言の改定版として「マングローブ価値共創100年宣言」を出しました。国連持続可能な開発目標(SDGs)の目標14「海の豊かさを守る」の実施に資する「海洋行動コミュニティ」活動として国連にも提出、マングローブを植えることに加え、植林NGOなどの皆様と連携して様々な価値を創出し続けていくことを目指しています。

 

――マングローブ植林の成果をご紹介ください。

 

 土方氏:三菱総合研究所に試算していただいた数値によると、1999年から2018年度までの20年間のマングローブ植林の経済価値は、現地での漁業への貢献、植林活動に現地の女性たちを雇用する効果、観光・エコツーリズムへの貢献等を合わせると、約1185億円(累計)となっています。また東京海上日動は、事業活動に伴うCO2排出量を、マングローブ植林によるCO2吸収・固定力でオフセットし、ネット・ゼロのCO2排出量、カーボン・ニュートラルを10年連続で達成しています。

 

 小森氏:お客様が、植林活動の趣旨に賛同してくださり、保険の契約約款や証券を従来の紙製のものではなく、インターネット上でご確認いただくもの(「Web約款等」)を選んでくださると、紙使用量削減分が植林費用に回せる形にもなります。また、保険を販売する代理店の方々とも共同で行う「Green Gift」プロジェクトとして展開しています。

 

――今Web約款はどれくらいありますか。

 

 土方氏:種目によって異なりますが、2018年度にWeb約款等を選択いただいたご契約は約1,130万件で、これによる紙の削減効果は約2,820トンに達しました。

 

土方氏
土方美希氏

 

――「地球元気プログラム」ということで国内での環境啓発保全活動も展開されていますね。手ごたえはどうですか。

 

 土方氏:国内では、東京海上日動が「Green Gift」プロジェクトの一環として国内21カ所で展開しています。東京海上日動と連携する認定特定非営利活動法人日本NPOセンターが環境省の後援を得て、プロジェクト全体の調整・運営を担い、各地において次代を担う子どもたちが地元の環境課題を学び、環境を守っていく心を育てる機会とすることを目的としています。活動を通して地域のNPO等には、東京海上日動の代理店等、新しいステークホルダーと協働する機会を提供し、窓口部店では自治体や環境NPO等、地域との接点をもつ機会を得ています。2019年3月までに、各地域で森林や里山、川の流域や海を守る活動合計247回を実施し、延べ約15,500名(子どもの参加延べ約6,100名を含む)が参加しました。

 

 小森氏:東京海上ホールディングスの株主総会の際に株主に連絡する招集通知にも必ずマングローブ植林の取り組みを紹介しています。広い意味でのステークホルダーの株主にも活動については、浸透していると思います。代理店の方々も、植林活動に参加されています。たとえば、昨年夏のマレーシアでの植林には現地からも、また日本からも代理店の方も参加されました。

 

 ――社会貢献はいろんな企業がやっていますが、保険業界として、植林活動は一般的な取り組みなのでしょうか。

 

 小森氏:他社のことはよくわかりませんが、たとえば東京海上ホールディングスが2008年に買収した米保険会社のフィラデルフィア・コンソリディテッドは米国内で森林火災によって消失した地域の植林活動に熱心に取り組んでいます。

 

 土方氏:同社より、当社のマングローブ植林活動を参考にしたいとの相談を受け、当社とも連携して開始した取り組みです。我々のグループでは、保険子会社の一つの東京海上ミレア少額短期保険でも同様に森林保全の取り組みを支援しています。

 

――社会貢献活動を損保商品そのものと組み合わせるということは可能ですか。例えば顧客が保険料の一部を社会貢献活動に寄付したり、あるいは保険会社が寄付したりすることも考えられそうです。

 

 小森氏:「Green Gift」プロジェクトとしてWeb約款等を取り入れているのは、当社としては(保険商品に)組み込んでいるイメージです。それをさらに発展させた保険商品の開発が可能かということは、検討していないわけではありません。常に、本業とのコラボができないかということを念頭において取り組んでいます。

 

――現地の住民の方々が植林活動に参加されているとのことですので、現地で何か新たなビジネスが生まれたりする可能性もありそうですね。

 

 小森氏:マングローブ植林があると、現地の生物多様性にもプラスになります。マングローブの林が増えることで、魚がたくさんとれるようになったり、エコツーリズムも産業になったりしてきます。今、タイでは、植林地域を世界文化遺産に登録しようという動きもあります。ラノーンという地区で、村を上げてマングローブ植林を登録しようとがんばっています。

 

特別賞の表彰を受けた小森氏㊧、㊨は審査委員長の佐藤泉弁護士
特別賞の表彰を受けた小森氏㊧、㊨は審査委員長の佐藤泉弁護士

 

――マングローブ植林のお陰で、カーボン・ニュートラルも達成できました。環境・地球温暖化対策全体への東京海上グループの取り組みをお聞かせください。

 

 土方氏:グループの東京海上日動では、CO2排出量の削減目標を設定しています。中期目標として2050年度までに、2006年度の実績に対して60%削減目標を立てています。この目標を達成するため、毎年2~3%ずつCO2排出量を削減しています。

 

 小森氏:そもそも保険会社は社会課題の解決のために生まれた会社です。本業を通じた社会貢献というか、本業自体が社会課題の解決にもつながります。たとえば、高齢ドライバーやあおり運転対策で現在、ドライブレコーダーの重要性が指摘されていますが、保険商品でもそうしたドライブレコーダーを装備した自動車向けの保険商品の開発もしています。太陽光発電等の再生可能エネルギー事業向けの保険引き受けも展開しています。

 

 土方氏:2019年度のサステナビリティ方針では、プラスチック廃棄物対策を重視して取り組んでいます。社員食堂での廃プラ減少や、本社のある地域でのレジ袋削減対策などにも参加しています。昨年秋ぐらいから、使い捨てストローやマドラーは使っていません。

 

――石炭火力への保険を止めるという動きが欧米で出てきているが、本業の中でこうした動きに対して東京海上グループはどう対応していかれますか。

 

 小森氏:当社としてはイノベーションを後押しする形で脱炭素社会に移行したいと思っています。再エネ事業への保険の引き受けなどで貢献したいということです。

                            (聞き手は 藤井良広)