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商船三井、風力推進船竣工。運航時のCO2排出量5~8%削減。三井住友銀行からトランジションリンクローン借り入れ。積み荷は石炭火力用の石炭。Scope3ではCO2排出増に(RIEF)

2022-10-07 21:05:04

MOL003キャプチャ

 

 チグハグ、とはこういうことを言うのだろうか。商船三井は7日、風力を船の推進力として活用するウインドチャレンジャー(硬翼帆式風力推進装置)を搭載した世界初のばら積み船を竣工させたと発表した。船の建造資金の調達資金は、三井住友銀行からトランジション・リンク・ローン(TLL)で借り入れた。ところが同船の積み荷は何かというと、石炭火力発電向けの石炭。低CO2排出の風力推進船なのに、同船が運航するたびに、石炭火力が延命され、「脱炭素」は遠のくことになる。

 

 (写真は、竣工したチャレンジャー号、硬翼帆は甲板上に複数建てることができる)

 

 同社の発表によると、竣工した風力推進船は「松風丸(しょうふうまる)」。同社と大島造船所が中心となって開発を進めてきた。船上に 伸縮可能な帆(硬翼帆)を設置し、風力エネルギーを船の推進力に変換することができる。同装置を搭載することで、航行燃料の削減が可能となるため「 環境負荷の低減と経済性の向上が期待できる」(同社)としている。

 

 帆は4段式で、高さ最大約53mまで伸びる。 幅は約15m。帆の材質は繊維強化プラスチック。同帆を活用することで、従来の同型船に比べて、温室効果ガスの排出量は、日本ー豪州航路で約5%、日本ー北米西岸航路で約8%削減を見込めるとしている。船自体は、全長約235m、全幅約43m、載貨重量100422㌧の大型船だ。

 

 同船の開発計画は、2009年に東京大学が主宰する産学共同研究プロジェクト「ウインドチャレンジャー計画」によってスタート。その後、2013年からは国土交通省の「次世代海洋関連技術研究開発費補助金」の交付対象事業に選ばれ、2018年1月からは同事業を引き継ぐ形で商船三井と大島造船所が開発を進めてきた。国費(税金)での支援を受けているわけだ。

 

 しかも船舶の建設資金も、経済産業省の補助金付きのトランジション・リンク・ローンによる資金調達契約を三井住友銀行と結んで借り入れた。借入金額は公表されていないが、借り入れに伴い、低炭素・脱炭素に向けた同社のトランジション(移行)が進むという大義名分だ。

 

 ところが、帆の利用で運航時のCO2排出量が5~8%減るとしても、積み荷の石炭を火力発電所で燃焼させると、運航時の削減分を大きく上回って、大量のCO2が排出される。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が現在、進めている気候・サステナビリティの財務情報開示案づくりでは、企業活動については事業・操業からの直接の排出量や使用光熱費に加えて、サプライチェーンや使用時のCO2(Scope3)の開示も求める方向だ。

 

 この考え方を商船三井のウインドチャレンジャーに当てはめると、船舶の運航時のCO2排出量(Scope1+2)は従来型の船より削減されるが、積み荷が石炭(東北電力の石炭火力発電所用)なので、石炭使用時の排出量を、チャレンジャーのScope3排出量として加味すると、5~8%の削減分を上回るCO2排出量を出すことになってしまう。

 

 松風丸が運搬する輸入石炭は、東北電力が福島県南相馬市に保有する原町火力発電所の燃料用に充当される。同発電所には発電出力100万kWの超々臨界圧石炭火力発電所(USC)が2基設置されている。同発電所は、大半の燃料を輸入石炭とし、一部、木質バイオマスを混焼する。

 

 三井住友銀から借り入れるトランジションローンについては、重要業績指標(KPI)として船舶運航時における単位貨物重量・輸送距離当たりの CO2排出量を示す「エネルギー効率運航指標(EEOI︓Energy Efficiency Operational Indicator)を採用している。目標とするサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(SPT)には、2035年にEEOIを 45%削減(2019年比)の達成を設定している。

 

 同ローンの適格性については、ESG評価会社のDNV ビジネス・アシュアランス・ジャパンがICMAの「クライメート・トランジション・ファイナンス・ハンドブック」や日本の金融庁等の3省庁による「クイメート・トランジション・ファイナンスに関する基本指針」等への適合を確認するセカンドオピニオンを付与している。ICMAも3省庁の基準も、「積み荷からのCO2排出量は見なかったことにする」ということかもしれない。

 

 「脱炭素」「トランジション」の掛け声を官民で声をそろえても、実際の正味の削減量との乖離は明瞭だ。日本の気候変動政策の「うさん臭さ」を象徴するような事例ともいえる。商船三井にはファイナンスの基準よりも、「積み荷を選べ」と進言したい。

https://www.mol.co.jp/pr/2022/img/22112.pdf

https://www.mol.co.jp/pr/2022/22113.html

https://www.dnv.jp/Images/JP_MOL_Transition_SLL_SPO_2021Oct26_publish_rev1_tcm29-210700.pdf