第10回(2024年)サステナブルファイナンス大賞インタビュー②優秀賞。みずほ銀行。インパクト領域への資金フロー構築・拡大を目指す「インパクト預金」の開発・提供(RIEF)
2025-01-30 12:09:44

(写真は、みずほ銀行サステナブルビジネス部ビジネスアクセラレーションチームの3人。㊧から牧山沙弥香氏、野﨑誠氏、尾方洋平氏)
みずほ銀行は、国内の民間金融機関では初となる資金使途をインパクト関連融資に限定した「Mizuhoインパクト預金」を開発・提供したことで、第10回サステナブルファイナンス大賞の優秀賞に選ばれました。使途をインパクト関連に限った一定の規模を持つ預金の誕生で、インパクトビジネス領域への新たな資金フローの構築、拡大が期待されます。担当する同行サステナブルビジネス部ビジネスアクセラレーションチームの野﨑誠(のざき・まこと)氏と、尾方洋平(おがた・ようへい)氏に話を聞きました。
――「インパクト預金」とはどのような預金ですか。
野﨑氏 : お預かりした資金の使途を、インパクト関連融資に限定した預金商品です。顧客企業の資金を環境、社会、経済でのインパクト創出につなげ、社会全体の豊かな実りを実現しようという目的で、2024年10月、第1次募集額1000億円で募集を始めました。
みずほフィナンシャルグループはサステナブルビジネス戦略の中で、「インパクト」を基盤となる注力テーマとして取り上げています。インパクトは様々な企業が経営に組み込めば社会や経済の構造転換につながります。われわれはこれまでも、2017年に国内初のソーシャル・インパクト・ボンドを引き受けました。2022年には「インパクト志向金融宣言」に署名し、2023年にはグループ内横断組織「インパクトビジネスワーキンググループ」を結成しました。2024年にはグループのインパクトビジネスの行動指針「インパクトビジネスの羅針盤」を打ち出しました。

インパクト関連のソリューションとしては、ボンドの引き受け、環境関連ファンドへの出資、様々なインパクトファイナンスの取り組みなど、資金調達のプロダクトやサービスを拡充してきましたが、このたび資金運用側の商品としてインパクト預金を開発したのです。
――新しい預金への反響はどうでしたか。
尾方氏 : 企業向けの預金ですが、中堅・中小企業からの応募が想定を超えました。中堅・中小企業の顧客企業はサステナブルな取り組みをやってみたいと考えても、銀行のサステナブル関連の中核商品であるサステナブルファイナンスの利用は、外部評価機関に支払う評価費用等で通常の借り入れよりコストがかかるため手を出しにくい面がありました。レポーティングや改善という課題もあります。非財務情報を計測し改善に努めなければいけないのです。
そういう状況の中で、誰もが取り組めるインパクト預金を出したところ、支持していただけました。「どうせお金を預けるのだったら、世の中に役立つことにお金を回したい」等と考える顧客企業が想像以上に多くおられたのです。嬉しい反響です。
大企業の顧客企業は自身の直接的な取り組みでサステナブルないしインパクトビジネスに取り組んでいるので、ある意味、預金で間接的に貢献するというインセンティブはさほどないのかもしれません。これに対し、中堅・中小企業はどんな形でも社会に貢献したいという思いが発露したのだと思います。
――インパクト預金は普通の預金より預け入れ時に手間がかかるのですか。
尾方氏 : インパクトを生みたいという明確な意図があるか、インパクトへの参画というか、顧客にはこのお金が社会のインパクトを生むところに回ることをはっきり認識していただく必要があります。そのため、この預け入れは社会、経済、環境にポジティブなインパクトを生むインパクト預金ですよ、という確認書を追加で提出していただきます。

――他行からの預け替えもあったのでしょうか。
尾方氏 : ありました。定性面で差別化ができる商品ですので、預け替えが発生しました。絶対金利以外のところでも判断をいただけるインパクト預金は銀行側からすれば非常に使いやすい商品です。そこを求めてこの商品を開発したわけではありませんが、結果的に同じ金利でもこっちを選んでいただける顧客企業が存在します。
われわれはサステナブルの世界を協調領域と競争領域に区分けしていますが、インパクトについては協調領域という整理をしています。つまりインパクトという価値観をあまねく、普遍的なものとしてやっていくことが大事で、各行がそれぞれにインパクトを重視していけば浸透していくと思いますし、そうあるべきだと考えます。他の金融機関から教えてという話があれば積極的に教えることにしています。
――インパクトの普及促進という意味で、今後の発展性は考えていますか。
尾方氏 : どうせ預けるならインパクト預金の方がいいとおっしゃる顧客は、少なからずインパクトに関心のある顧客だと思います。なので、そういった顧客とは、対話、エンゲージメントを保ち続け、次に「お客様自身で、インパクト経営を実践してみませんか」というようなコンサルティングをしていこうと考えています。
そういった顧客との間の中で、単なる預金、ファイナンスではない、インパクト経営の実践に根差すなんらかの新しいビジネスが生まれれば、それこそわれわれが目指すインパクトビジネスの拡大に繋がっていきます。インパクト預金はインパクトに関心のある顧客層を掘り起こすのに非常に意義のある商品だと思っています。
――顧客に対するコンサルティングは営業部門が行うのですか、それともサステナブルビジネス部が行うのですか。
尾方氏 : 顧客の置かれている状況と課題のレベル感によって変わります。初期の部分においてはうちの銀行の中で誰よりも顧客のことを知っている営業担当が顧客のパートナーとしてコンサルティングをすることになると思います。顧客企業自体の課題が専門的であれば、グループ全体でインパクトビジネスをやっていくことになっていますから、より踏み込んだコンサルを受けたいのであれば、専門コンサルを提供します。
――今後、インパクト預金の2次募集の予定はありますか。
尾方氏 : 強い需要が継続していて、3月末までに1次募集の1000億円の枠は埋まりそうです。企業の資金繰りに合わせた預金になるため、昨年10月に展開した際も、3月末の預け入れでとか、いま預けているのが更改するタイミングでとか、ずいぶん先のものも含めて顧客から受付をしています。それらを踏まえると、すでに1000億円を超える状況になっていますので、2次募集という形で、顧客の関心に応じて柔軟に預金の枠を増やしていきたいと考えています。
授賞式で表彰を受けたみずほグループ執行役で、グループのチーフ・サステナビリティ・オフィサー(CSuO)の牛窪恭彦氏㊧。㊨は環境金融研究機構代表理事の藤井良広
――預金者の満足度を高める工夫といいますか、預金者が、自分の預けたお金が希望するところに流れているかどうかがわかるレポートなどは発行しますか。
尾方氏 : インパクト預金の資金が充当されたファイナンスを開示します。意図を持って預けたお金がどういった使い方をされているのかという情報は、預金者に伝えることが大事だと思いますので、そこを踏まえてきちんと開示します。
――営業の担当者からどのような声が出ていますか。
尾方氏 : 中堅・中小企業を担当しているのは主に若手行員です。若手行員は、サステナブル関連の提案をしたいという気持ちを本当に強く持っています。銀行が用意するサステナブルプロダクツは、サステナブルファイナンスと有償コンサルで、それなりに負担がかかるものになります。全ての顧客がコンサル料を払えるかというと、そうではありません。一方、預金は顧客側に負担を強いるものではないので、若手行員からはすごく喜ばれていると実感しております。
野﨑氏 : 金利の変化は外部環境ですので、われわれの意図したところではないのですが、ゼロ金利から金利がある世界に変わり始めたところに、こういう差別化商品を出せたのは、タイミングとして非常に良かったと思います。営業担当にとっては追い風になったと思います。
――次なる商品構想を教えてください。
尾方氏 : 今回の預金商品からの気づきは、インパクトの普及には中堅・中小企業のボリュームゾーンにインパクトを浸透させていく商品戦略であることが重要ということです。今回の預金の一番のヒットの要因もそこにあると思っています。
――みずほグループのインパクト関連の取り組みの強さの理由はどこにあるのでしょう。
野﨑氏 : 銀行だけでなく、証券としてのボンドの引き受けも含めて、この領域で長らく、一翼としてがんばってきています。2023年はみずほグループにとって「150周年」ということでしたけども、われわれ自体、社会課題解決というものを意識して取り組むDNAのある金融機関、という風に、社員一同感じていますし、経営サイドもそう意識していると思います。
2020年にサステナブルファイナンスを25兆円やるという目標を掲げて、2023年にはそれを100兆円に引き上げました。こういった数字として打ち出したのもメガバンクとしては一番早かったと思います。こういったことも併せて打ち出しながら、社員も、グループ全体で取り組むように意識しています。われわれの企業理念である「フェアでオープンな立場で時代の先を読んで、顧客、経済社会、社員も含めて、豊な実りを実現する」という考え方は、もとよりインパクトに通じるところであります。
(聞き手は 宮﨑知己)